『わたしの幸せな結婚』人気を考察 「なろう」発のベストセラーがずらりラノベ週間ランキング

 下働きのような境遇から、お姫さまとも言える境遇へのステップアップはまさしくシンデレラストーリー。もっとも、美世は嫁いでもなかなか幸せだといった雰囲気を見せない。父親や継母、妹からの仕打ちで徹底的にへし折られた自信はなかなか取り戻せず、ずっと自分が悪いといったスタンスでい続ける。ここがとても気にかかる。

 自分を卑下し続け、卑屈な態度を見せ続ける美世にいらだちを覚える人もいるだろう。清霞も最初はそんな気持ちで美世を怒った。ただ、調べてどういう境遇で育ってきたかを知ってからは、美世を徹底的に守り、美世を悪く言うようなら相手が誰であっても怒りを向けるようになる。

 現実の会社や学校やコミュニティでうまくいかず、自信をなくして閉じこもり気味になってしまった人たちにとって、美世の苦しみは自分のこととして感じられそう。そして美世が、自分を信じてくれている清霞のことを嬉しく思い、そんな清霞への強い思いをバネにして立ち上がろうと頑張る姿への共感が、不安に怯え毎日をあがく心優しい人たちに、このシリーズを手に取らせているのかもしれない。

 最新刊『わたしの幸せな結婚3』では清霞の母親、芙由が登場するがこれがまた美世の継母や妹たちに負けず厳しい性格で、美世を美しくないし頭も良くないし家柄もたいしたことないと罵倒する。いちいちもっともで、美世には反論する術がない。掃除をさせて、その様子を観察して「そこ、まだ曇りが残っているのではなくて?」と突っ込む古典的ともいえるいびり描写に「『おしん』かよ!」と突っ込むのはちょっと例えが古すぎる? それくらいにすさまじい。

 ただ、そこで美世が改めて大きく自信を失ったかというと、過去にそうした自分が清霞に受け入れられた経験をいかして芙由の心を溶かそうとする。自信がない自分でも、貫き通すことで自信をつけていける。そんな教えにもなっている。

 もうひとつ、「わたしの幸せな結婚」シリーズには、異能バトルという要素もある。跋扈する鬼と清霞との戦いがあり、新たに現れた異能使いの敵と清霞や美世との戦いが待ち受けている。その相手が『わたしの幸せな結婚3』の巻末で放った言葉がとても衝撃的。ネットでも読めないその展開を知りたいと思う気持ちが、次の巻もランキング上位へと押し上げそうだ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

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