飯田一史が注目のウェブ小説を考察

最高益更新中のアルファポリスは「ウェブ小説」の会社か? 代表作『THE NEW GATE』から考察

ベタなゲーム系ファンタジー。だがそれがいい

 風波しのぎ『THE NEW GATE』は2013年から「小説家になろう」で連載され、2016年からは「アルファポリス」に移行して連載中のファンタジー小説。アルファのIR(投資家向け広報)によると書籍版・マンガ版合わせて70万部の人気作だ。

 数万人を巻き込んでデスゲームと化したオンラインゲーム「THE NEW GATE」。最古参プレイヤーである黒衣の剣士シンがラスボスを倒した――と思った瞬間、シンは500年後のゲーム世界に飛ばされ、ログアウト不能な「現実」になってしまう、というのが導入だ。

 ラスボスを倒したくらいなので未来世界でも主人公の能力はほかの連中を圧倒的に上回り、やることなすこと「普通そんなことできない」「なんでそんなもの持ってるの?」「何それ?」と驚愕のまなざしを向けられ、ほとんどのモンスターに対して圧倒的優位に戦闘を進めていく。シンはかつての仲間と再会しながらゲームとは異なる部分にはその理由を推察し、世界の秘密を探りながら現実に帰るために旅を続ける。

 アルファのIRを見ていると気づくのは、部数が大きい作品の多くは連載開始年が古く、シリーズの継続期間が非常に長い、ということだ。たとえば『ゲート』は2006年から連載開始、『月が導く異世界道中』は2012年から、『とあるおっさんのVRMMO活動記』は2013年からだ。

 アルファは「ウェブ小説書籍化」の開拓者的存在である。いまではウェブ発の小説は年間千数百点刊行されるが、アルファはそうした本が年間数冊、十数冊しか刊行されていなかった時代から手がけている。

 年に千数百冊も出れば当然、かつてよりも一冊あたりの部数は小さくなるし、そもそも書籍化権獲得競争が熾烈になる。だからアルファはかつては自社で投稿サイトを運営していなかったが、囲い込みをするために自社で手がけるようになった。しかし先に挙げたような古くからの人気作は、もともとはなろうやアルカディアといった別の小説投稿サイトで連載されていたものが多い。

 つまりアルファには、競争相手の少なさゆえに良作が選びやすく、出せば書店店頭で目立った時代に声をかけた有力作品・作家がたくさんある、ということだ。そしてそれらが今も屋台骨を支えている。

 『THE NEW GATE』もそのひとつだ。シリーズ開始年が古く、今ほど大量の作品が投稿されていなかったころに生まれた人気作品は、今見ると設定や展開が非常に「ベタ」に見える。それは決して悪いことではなく、人々が好むウェブ小説の「原型」に近いというか、クラシックの風格がある。おそらくベタをやり抜いたものの気持ちよさがあるからこそ、今もアルファの長期連載作品はファンが多いのだろう。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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