飯田一史が注目のウェブ小説を考察

最高益更新中のアルファポリスは「ウェブ小説」の会社か? 代表作『THE NEW GATE』から考察

アルファポリスとは? 「小説家になろう」とはどちらが大きい?

 アルファポリスの2020年3月期第3四半期決算が2月13日に発表された。これによると第3四半期累計の売上高は39億7900万円(前年比+12.0%)、経常利益は10億5300万円(前年比+7.6%)でいずれも四半期ベースで過去最高売上・過去最高益を更新した。

 アルファはウェブ小説投稿サイトを運営し、かつ自社で書籍化、マンガ化を行っている。売上の内訳を見るとライトノベルは15億2400万円、漫画は21億7800万円、文庫は1億7800万円、その他は9700万円とマンガセグメントの売上がもっとも大きい。

 アルファポリス社は同名の小説投稿サイトが「小説家になろう」や「エブリスタ」「カクヨム」などと比較される「ウェブ小説の会社」として見られがちだが、売上的にはすでに「ウェブ小説の会社」ではない。

 とはいえ自社サイトに投稿されたウェブ小説の中で人気のものを書籍化し、その中でも人気のものをマンガ化することで「売れるマンガ」を作り出している――言いかえればIP展開の大元がウェブ小説であることは変わっていない。

 なお、「小説家になろう」は日本最大の小説投稿サイトだが、その運営元である株式会社ヒナプロジェクトは2019年2月期決算(年間の決算)で売上高8億3百万円、利益金1億5308.4万円(帝国データバンク調べ)。アルファの2019年3月期(先ほど挙げたものは四半期だがこちらは年間)決算では売上高49億7789万円、当期純利益が8億4234.6万円だから企業体としてはアルファの方がはるかに大きい。

 ちなみにエブリスタは2019年3月決算では売上高13億6900万円、最終利益3億6900万円。

 ヒナプロジェクトとエブリスタは自社で出版事業を行っていない。だから出版事業を手がけるアルファより売上が小さくなるのは当然ではある。ただいずれにしても会社としての規模は「アルファ」「エブリスタ」「ヒナプロジェクト」の順になる(KADOKAWAはここには並べないが、手がけている事業が多いため、当然ながらこれらより巨大だ)。

最近のウェブ小説界の潮流 投稿者への広告収入還元、チケット制

 最近の日本のウェブ小説界の潮流として「投稿者への広告収入還元」と「チケット制」がある。

 アルファポリスは2019年1月から、カクヨムは2019年10月から、小説投稿者にサイト上で発生した広告収入を還元する施策を行っている。といってもよほどPVを叩き出さなければほとんど収入にはならない。とはいえ日本の小説投稿サイトでは、これまではいくらウェブに書いても書籍化されない限り一円も作家に入らなかったことから見ると大きな前進だ。

 もうひとつの「チケット制」は、日本のマンガアプリでは2014年に小学館の「マンガワン」が始めて以降、普及した手法だが、これがウェブ小説/小説アプリにも移ってきた。

 1巻分を販売するのではなく、1話ごとに分割した「話売り」(ほとんどの場合、レンタル制であって「買う」わけではないので「話読み」とも呼ばれる)で、1話をレンタルするのにチケットやコインがいくら必要、というものだ。チケットやコインは毎日無料で一定数配られることが多い。

 comicoは2016年11月からマンガだけでなくノベルに対しても「レンタル券」を導入、次いでアルファポリスが2017年3月からレンタルチケット制を導入した。やや遅れて2018年11月に「ピッコマ」が小説作品の配信を本格化して「待てば無料」モデルを小説にも適用(それ以前から数作品は小説も配信していたが)。2019年8月に始まったLINEノベルもチケット配付・購入による話読みモデルを採用。

 それまでは「ウェブ小説=無料」というのが日本では常識であり一般的な認識だったのだが、ここ5年で徐々に(なし崩し的に?)「部分的に無料」というモデルが増えてきている。

 といってもこうしたモデルが導入されても今のところ「なろう」が最大勢力のため、いまだに「日本のウェブ小説では有料課金システムはうまくいかない」という言説・感覚は根強い。

 中国や韓国ではうまくいっており、日本でもマンガではうまくいっているのだから「日本のウェブ小説」でだけうまくいかない理由はなく、まだ軌道に乗るための条件が整っていないだけだと筆者は思っているのだが……そういう話はまたいずれ。

 アルファポリス発の人気作『THE NEW GATE』紹介に移ろう。

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