『ゴールデンカムイ』アシリパさんの衝撃料理はなぜ美味そう? 愛すべきヒロイン像を考察

新しい時代のアイヌの女・アシリパの魅力

 今やヤングジャンプで看板作品の一つとなる『ゴールデンカムイ』。2014年の連載より多くの支持を集め、発行部数は1000万部を突破。アニメは2期にわたって放映され、めでたく第3期の制作も決定しているほどの人気ぶり。男女ともに人気を集める、金塊を巡ったサバイバル漫画だ。

 「不死身の杉元」と呼ばれる主人公杉元佐一や、「脱獄王」の名を持つ囚人、白石由竹などユニークな登場人物が揃う中、男女共に人気のキャラクターがアシリパ。濃紺の瞳と長い髪を持つアイヌの少女だ。ちなみにアシリパとはアイヌ語で「新年」や「未来」という意味である。「新しい時代のアイヌの女」を自称しており、古いしきたりには囚われないたくましいヒロインだ。主人公の杉元佐一と出会い、実父が殺される原因となった金塊の話を聞いて行動を共にするようになる。

 10代の若い少女でありながら意思は固く、大人顔負けのしっかり者。杉元と出会った序盤から「弱い奴は食われる」と言い放ったり、「相棒として信用せず、勝手な行動をとったのはお前だ」と怒ったり、正論中の正論を投げかけてくるのも特徴的。ここまで心が曲がっていない少女、滅多にいないのでは!? と思ってしまうほどの真っ直ぐさだ。しかし彼女の曲がらない心は素直さの表れ。どんな物事が起こっても冷静であり、自分の信じる道を突き進む姿には心打たれるものがある。

 インカラマッやキロランケ、尾形百之助といった信用しがたい人物に囲まれながら旅路を行くなど、普通なら耐え難い状況だろう。それでも「私はなんとしてでも、自分で真実を確かめにいく」と言い放つ姿は、流石としか言いようがない。

 しかし時折、動揺した顔も見せる。フチ(アシリパの祖母)が不吉な占いを信じ、死に装束を作り始めたと耳にしたときだ。不安な顔を浮かべるアシリパに杉元も心配し、一旦故郷に帰る事を提案。だが彼女は間髪入れず拒否をする。

「子供扱いするな。私にはどうしても知りたいことがある。知るべきことを知って、自分の未来の為に、前に進むんだ」

 立ち止まっている余裕がないのを理解しているアシリパ。祖母を想う気持ちは誰よりも深いが、自分の未来のために前に進まなくてはならない。こんな状況なら、大人だって尻尾をまいて逃げ出しそうだ。だが彼女は動揺しつつも、自分の決めた道を決して曲げることはしない。故郷に囚われず、後ろを振り返らず、ただ前に進むその存在感はただの“少女”とは思えぬ偉大さがあるのだ。

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