デスマッチファイター葛西純 自伝『狂猿』

葛西純「狂猿」第3回 格闘家を目指して上京、ガードマンとして働き始めるが……

現ALSOKに入社

 高3になって、友達にも親にも内緒でそんなことをしてたら、先生が「葛西は卒業したら何するんだ?」って聞いてきた。中学時代とほぼ同じパターンで、同級生が進学や就職を決めていくなか、俺っちはなんにもしてなかった。それで先生に「上京して、フリーターになって、格闘技やる」って考えてたことを伝えたら、「いやいや、もうそんな時代じゃない。ちゃんと就職しないとやばいぞ」ってことになって、「お前に合った就職先を探してやるからとりあえず受けるだけ受けろ」と言われて紹介されたのが、東京に本社がある「綜合警備保障株式会社」、いまはALSOKっていうブランドになってる警備会社だった。試しに受けてみたら、見事に合格。俺っちは東京でガードマンをすることになった。

 俺っちが上京することに対して、ウチの両親は「まぁちょっと行ってくれば」くらいの感覚だった。それに、この頃は、あの不良だった姉ちゃんが結婚して子供を生んでたから、親としては孫も出来たし、純は東京で好きなことしてきなよという気分だったのかもしれない。俺っちは、新宿にあるコンピュータ会社のビルの警備隊に配属された。研修では走ったりとかもしてたけど、警備員ていうのは肉体的に強くなきゃいけないということはなくて、どちらかといえば精神論の世界。デカイ声出せとか、ルールをしっかり守れとか、そういうことを叩き込まれた。


 会社の寮が、川崎の鷺沼という所にあって、俺っちは寮生活をすることになった。1人1部屋だけど、けっこう大きい寮で、当然のように男ばっかり。またしても女っ気はゼロ。まぁ俺っちからしたら、格闘技をやるために上京してきたっていう頭があったんで、ひとしきり仕事に慣れたら、寮の近くに格闘技ジムはないかなって、いろいろ探し回ってリサーチをはじめた。『格闘技通信』を読んでたら、シューティングの鷺沼ジムっていうのがあるっていうのがわかったんだけど、けっこう遠くだったんで、これは通うのは難しいかな、なんてあれこれやっているうちに月日だけが経って、結局なにも見つけられない。それならとりあえず体だけでも鍛えておこうと思って、寮から歩いて5分くらいのところにあったボディビルのジムに通うことにした。

 入ってみたら、けっこう老舗のジムで、ウェイトトレーニングを基礎からキッチリ教えてくれた。高校時代は独学で、見様見真似でやってたけど、トレーナーがついて本格的に鍛え始めたら、もう面白いくらいにどんどん体がデッカくなっていってね。そうなるとちょっと欲も出てきた。東京に来ていろんな会場に行けるようになって、できたばかりのインディーズ団体なんかも見に行くようになってた。そんな団体だと、自分と身長がほとんど変わらない選手が試合をしてたり、自分よりもカラダが小さいんじゃないかという練習生がゴロゴロいる。それを間近で見てたら、これはひょっとして、俺っちもプロレスいけるんじゃねぇかって思いはじめたんだよ。

 でも、仕事も忙しかったし、女っ気はないけど同僚たちと過ごすのも楽しくて、だんだん日常に埋もれていくという感覚もあった。田舎から夢見て出てきた少年が、都会の喧騒の中に紛れて目的を失い、誘惑に負けていくっていうパターンにハマっていくんだよ……。

歓楽街の近くの寮に移ったことが……

 上京して1年は鷺沼の寮にいたんだけど、次に京王線の「井の頭公園公園駅」の近くにあった寮に移ることになった。そこは吉祥寺が近くて、歓楽街もあるから、いわゆる夜の誘惑が強いわけだよ。仕事以外の時間は、趣味もないからジムで体を鍛えてるくらい。寮に住んでるからカネも使わない。若さがあって、健全な肉体があって、カネも時間もある……そりゃ風俗にいくしかないよ。最初は同僚と行ってたんだけど、だんだんひとりでも風俗通いをするようになった。休みの日は、飲みにも行かないで、ひたすら風俗。その日は必ずジムへ行ってトレーニングして、筋肉をパンパンにさせてからお店に向かうっていう謎のルーティーンを自分に課していた。同じ頃、吉祥寺に、元力士でプロレスラーとしても活躍されていた維新力さんが「どりんくばぁー」というお店を出したんだよ。プロレスファンとして通うようになって、そのうち維新力さんにも名前と顔を覚えてもらうようになった。そんなとき、ちょろっと「プロレスラーになりたい」っていう話をしたら、維新力さんが「葛西君、プロレス好きならそのカラダはもったいないよ。入門テストだけでも受けてみたほうがいいよ」って言ってくれてね。俺っちはずっとプロレスラーになりたかったのに、なんとなく諦めてた。それで格闘技でプロになろうと思って上京してきたのに、今じゃ風俗に通うために生きてるようなモンじゃねぇか…。

 そんなこと考えて悶々と仕事をしていたある日、警備隊の待機室にあった『ホットドックプレス』という雑誌をパラパラ見てたら「君は大丈夫? HIVチェック」みたいな記事があった。それを何気なく読んでみたら、ことごとく自分に当てはまるんだよ。「最近、免疫が落ちてきたと感じる?」…イエス、「風邪をひきやすくなった?」…イエス、「不特定多数の人と性交渉してる?」…イエス、「外国人と性交渉したことがある?」…イエス。20項目くらいあったリストのほとんどがイエス。待てよ。最近体もダルいし、気持ちも優れない。様々な国の様々な女性と性交渉もしまくっている。これはヤバい、俺っちの人生終わったな、と思ったんだよ。
※現在、HIVは投薬治療などでエイズの発症を防ぐことができます。

■葛西純(かさい じゅん)
プロレスリングFREEDOMS所属。1974年9月9日生まれ。血液型=AB型、身長=173.5cm、体重=91.5kg。1998年8月23日、大阪・鶴見緑地花博公園広場、vs谷口剛司でデビュー。得意技はパールハーバースプラッシュ、垂直落下式リバースタイガードライバー、スティミュレイション。
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■プロレスリングFREEDOMS
『Go beyond the Limit 2020』
2月10日(月)
後楽園ホール
開場18:00 
開始18:45

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