殺人犯は結婚に希望を見出しているのか? 『夏目アラタの結婚』に漂う、怖さと愛おしさ

 彼女たちは必死なのだと、私は感じる。そこになぜか、愛しさを覚える。

「愛され方を知らない、気持ちの悪い笑顔が愛しい」

 作中、アラタが真珠と結婚の話をしていることが、上司にバレる場面がある。そこで、激しく咎める上司に、アラタはこう言い放つ。

ボロボロで、気持ち悪く笑う女ですよ。やることなすこと、いちいち気色悪くて、こっちの神経逆なでする女なんです!

あんたもそんなのいっぱい見てきたでしょう…!! 愛されかたがわからなくてぎこちない…ひきつった笑顔しかつくれない子達を!

俺は、俺は、そういう笑顔を愛しいと思う男です。

(乃木坂太郎『夏目アラタの結婚 1巻』)

 私が覚えた愛しさは、アラタのこの台詞に集約されている。それが、そのまま結婚に至る愛情だとは、私は思わない。かといって、同情というのもニュアンスが違う。名前のつけられないこの愛しさは、希望にすがる人の不器用な努力から生まれる。

 先述の女性はその後、多くの人の助けで、虐待をやめさせることに成功したそうだ。彼女自身、完全に虐待をやめさせられたのは幸運な例で、本来は逃げるべきだったと振り返っている。幸せになりたい、という当たり前の願いが、理不尽にゆがんだ姿が真珠なのだろう。殺人犯で死刑囚という立場の彼女は、果たしてどういう結末を迎えるのか。

■まさみ
フリーライター。漫画・ゲーム・読書など主な趣味はインドア。広告代理店でコピーライターとして勤務後、独立。食らいついたものは、とことん掘り下げるタイプ。 @masami160206

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