『ダブル SIDE A/SIDE B』『詳注 アリス』……新年おすすめ、新たな世界へと誘う新作書籍5選

 新年を迎え、新たな世界へと誘ってくれる本のページを開きたい。そんな本好きのために、現役書店員に5冊の書籍をセレクト、紹介してもらった。(編集部)

『短篇集 ダブル SIDE A/SIDE B』パク・ミンギュ著、斎藤真理子訳(筑摩書房)

 フェミニズムや格差社会という言葉と一緒に語られる機会が多い韓国文学だけれど、社会から見た意義のある/なしに関係なく、物語としてとにかく面白い、と今年はもっと声を大きくして伝えていきたい。『カステラ』(クレイン)で第一回日本翻訳大賞を受賞した日韓両国で人気のある作家の短篇集。巨大なアスピリンが空に浮かび、マリリンモンローの生まれ変わりを自称する男は宇宙人に拉致される。絶望的な孤独や死を前にしても、登場人物たちはユーモアを忘れない。飯食って出すもの出したらあとは寝るだけ。清々しいほどの諦めに愛しさが込み上げる。

『詳注 アリス』マーティン・ガードナー著、高山宏訳(亜紀書房)

 もともとは、アリスというひとりの美しい少女のために書き起こされた物語である「不思議の/鏡の国のアリス」。キャロルの生きた時代性や友人間だけに伝わる極私的なジョークなど、いま読むといまいち面白味がわからないという箇所に、膨大な注釈や蘊蓄をこれでもかと並べた大著。遠い昔に読んだきり細部の記憶も曖昧な古典児童書を読み返すチャンス、とページを開いたが最後、うさぎ穴よろしく奥深い注釈の蔦に絡めとられて新年早々しばらく抜け出せそうにない。

『急に具合が悪くなる』宮野真生子、磯野真穂著(晶文社)

 この本は、ガンに侵された哲学者と、彼女に偶然選ばれた人類学者の間で交わされた20通の往復書簡をまとめたものだ。余命宣告によって死が現実味を帯びたとき、ふたりが言葉を尽くして語りあったのは今と未来に取りうる身の処し方だった。「急に具合が悪くなる」ことを怖れては、なにも行動できない。それでも、確実に悪化していく病状を前に、未来に対して徹底的に「なにも分からない」という態度を示し続けることは簡単ではない。往復書簡がふたりの間に描いた軌跡に、寄り添うような読書体験は、今を生きるための心強い味方になってくれるはずだ。

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