『鬼滅の刃』のルーツは『ジョジョ』にあり? 最凶最悪の悪役・鬼無辻無惨という発明

 2019年の漫画における最大の事件は、少年ジャンプで連載されている吾峠呼世晴のバトル漫画『鬼滅の刃』(集英社)の大ブレイクだろう。12月4日に発売された18巻の初版発行部数は100万部、電子版も含めたシリーズ累計発行部数が2500万部を突破したと集英社の広告で発表された。

吾峠呼世晴『鬼滅の刃 2』(集英社)

 ヒットのきっかけは4月から9月にかけて放送されたアニメ版の成功だ。続きを知りたい視聴者が単行本をまとめ買いしたことで、本屋では売り切れが続出。その「売り切れ」という張り紙自体が話題となり、ニュースでも社会現象として取り上げられるようになった。他にも、18巻(12月現在)という一気読みに適した巻数だったことや、違法アプリ「漫画村」が廃止になった等、様々な成功要因が挙げられるが、何より連載漫画のテンションが最高潮に達していたことが大きかった。月曜の朝になると、Twitterではジャンプ最新号に掲載された『鬼滅』の感想がトレンドに上がってくる。少なく見積もっても、現在、漫画読者が一番注目している連載であることは間違いない。

 つまり「アニメの一気見」→「単行本まとめ買い」→「連載に追いつく」(最高の盛り上がりを見せている)という各メディアの連携が、とてもうまく行ったのだ。とは言え、何より『鬼滅の刃』という作品の持っているポテンシャルが大きかったことが一番の勝因だろう。では本作はどのような漫画なのか。

 舞台は大正。炭焼きを生業とする少年・竈門炭治郎が仕事を終えて家に帰ると家族が鬼に皆殺しにされているというショッキングな展開で物語は始まる。生き残ったが「鬼」となってしまった妹の禰豆子を元に戻すため、炭治郎は鬼と戦う鬼殺隊に入隊。やがて物語は鬼殺隊と鬼無辻無惨を頂点とする十二鬼月との戦いへと向かっていく。

 物語自体は車田正美の『聖闘士星矢』の頃からあるジャンプ漫画の王道、更に遡ると山田風太郎が『甲賀忍法帖』等の忍者小説で切り開いた、敵と味方の陣営が入り乱れて特殊能力で戦うバトルモノの定石をしっかりと押さえている。

 同時に感じるのは荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』(以下、『ジョジョ』)からの影響だ。それも「スタンド」という可視化された超能力によるバトルを発明し、後のバトル漫画に多大な影響を与えた第3部以降ではなく、同じ『ジョジョ』でも1~2部の影響が強いのが興味深い。1~2部では、人間と吸血鬼の戦い、そして吸血鬼を束ねる「柱の男」と呼ばれる超生物との戦いが描かれたのだが、主人公のジョジョは「波紋」と呼ばれる呼吸によって太陽と同じ生命エネルギーを込めた力を生み出す体術で、吸血鬼に戦いを挑む。

 『鬼滅の刃』に登場する水の呼吸法、炎の呼吸法といった呼吸をベースにした操身術を見た時にまず思い出したのが『ジョジョ』の波紋である。鬼の大ボス、無惨の血が人間の体内に入ると鬼に変身するという描写も、吸血鬼が仲間を増やす方法に近く、当時の荒木が描いていた肉体の破壊を通して感情に訴える感触は『鬼滅の刃』にも受け継がれている。鬼殺隊の最高位の隊員が「柱」と呼ばれているという名称一つとっても『ジョジョ』の影響を受けていることは間違いないだろう。

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