『こち亀』秋本治氏に学ぶ、スケジュール管理の重要性 40年間無休載を成し遂げた秘訣とは?

「明るく笑って生涯現役が大事だぞ」

 けれど、他の項目も読み進めるにつれ、秋本氏がスケジュールを時間管理する意味は、精神衛生のためだけではなさそうだと気付きます。たとえば、気になったときにすぐに取材に行ける事。これは当然自分でスケジュールを管理していなければ難しいことです。では、その取材のネタはいつ仕入れたのか? 余暇時間に雑誌や新聞の切り抜きをしているからです。では、その余暇時間はどう生まれるのか? アシスタントたちにも定時を設け、規則正しくコンスタントに仕事をしているからです。

 というように、スケジュールの自己管理の話が、先ほど紹介した「定時制」の話にもつながっていきます。独立したように見える一つひとつのテクニックは全て、「限りある時間の中で、面白い漫画を提供し続けるために何が必要か」という考えに基づいていることに気づきます。秋本氏も、デビューしたての頃からこれらのテクニックを使っていたわけではありません。長きに渡って試行錯誤を続けた結果身についた、いわば生活の知恵とも言えるものが凝縮されています。そしてそれをシンプルに突き詰めれば、誰の仕事にも応用できるエッセンスとなります。セルフマネジメント術における、自分のやる気と健康の維持。コミュニケーション術における、刺激の受け方と衝突回避のツボ。どれも"漫画家っぽい”特殊なものではなく、どんな仕事においても重要なことです。

 この本の帯では、両津勘吉が笑顔でこう呼びかけています。「明るく笑って生涯現役が大事だぞ」。分かっちゃいるけど難しい、の代表格のような言葉ですよね。

 「何のためにこの仕事をしているのか」を忘れてしまうと、仕事を楽しむことは難しくなります。これでは明るく笑って生涯現役、は難しそうです。自分自身の興味のため、顧客の笑顔のためーーそんなシンプルなことに立ち返るのも大切です。そうして自分の根っこを確かめた上で、秋本氏直伝テクニックを味方にすれば、「明るく笑って生涯現役」も夢ではないかもしれません。

■まさみ
フリーライター。漫画・ゲーム・読書など主な趣味はインドア。広告代理店でコピーライターとして勤務後、独立。食らいついたものは、とことん掘り下げるタイプ。@masami160206

■書籍情報
「秋本治の仕事術 『こち亀』作者が40年間休まず週刊連載を続けられた理由」
著者:秋本治
出版社:集英社
価格:1,320円

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