豪華ミステリー作家が集結『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』小説アンソロジーの見どころ

 ガンガンONLINEで好評連載中の漫画『わたモテ』こと『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』(谷川ニコ)の小説アンソロジーが、11月18日に星海社から発売された。なぜスクウェア・エニックスの漫画なのに星海社から小説が出たのかは不明だが、ともかく出てしまったものは仕方がない。まぁ生き馬の目を抜く世界だから、スピッツが言うところの大きな力が働いたのだろう。

 それはさておき『わたモテ』である。同作は様々な理由でクラスに馴染めない(けれどモテたい)女子高生・黒木智子がモテようと頑張るけど空回りする様を描いたギャグ漫画だった(アニメ化もされた)。しかし、あるタイミングから智子を取り巻く同級生・先輩・後輩といったキャラが立ち上がり始め、現在では青春群像コメディとなっている。ギャグ漫画としての切れ味も健在だが、女性同士の関係性スパークが毎回炸裂するため、いわゆる百合漫画としての支持も強い。

 今回ご紹介するのは、その小説版アンソロジーなのだが……特筆すべきは参加者が全員ミステリー作家であることだ。しかも若手からベテランまで、一線で活躍する作家だらけ。ただし本作はあくまで二次創作であり、原作を知らないと分からない部分が多いのも事実。そこで今回は原作のネタを説明しつつ、収録されている各エピソードを紹介していきたい。

1、谷川ニコ『モテないし夏休みのとある一日』

 一番手を飾るのは、なんと原作者の谷川ニコ先生(アンソロジーなのに!)。そして描かれるのは、主人公である智子の平凡な1日……と見せかけて、“こみさん”こと小宮山と智子の関係性爆裂モノ。こみさんは『わたモテ』がギャグ主体だった頃からのレギュラーで、智子と並ぶ劇中屈指の狂人だ。基本的にお互いを罵り合う関係だが、同時に一切の遠慮なく言葉を交わせる対等な関係でもある。いわゆるケンカするほど仲が良い系の組み合わせで、個人的には一番好きな組み合わせだ(ただの感想)。アニメネタを存分に絡めつつ、2人の口が悪い(そして友だちがいない)女の子同士の何でもない1日がユーモラスに描かれており、『わたモテ』がどういうトーンの作品なのかを知れる1本だろう。

2、辻真先『私がウレないのはどう考えても読者が悪い!』

 2つ目はミステリー作家にして『鉄腕アトム』の頃からアニメの脚本で活躍している辻真先先生。なんと御年87歳である。そして内容はスラプスティックなドタバタコメディ。収録作品で最もギャグに特化している。詳しい内容についてはあえて語らないが、ある意味でこの人にしかできない内容だろう。

3、青崎有吾『前髪は空を向いている』

 3つ目は『ノッキンオン・ロックドドア』が好評の青崎有吾先生の作品。こちらは智子の同級生が主題になっている。根元陽菜と岡田茜の話だ。陽菜は見た目は派手なのだが、実はアニメが好きで声優を目指しており、オタクの智子と仲が良い。一方の茜はそういったオタク知識はなく、親友だと思っていた陽菜が自分に趣味を隠していたことが引っかかっていて……というお話。原作でもこの2人のスレ違いは語られており、本編はその部分を掘り下げた内容になっている。『体育館』シリーズなど青春ミステリーでも有名な筆者らしい、繊細な心理描写が輝く1本だ。また主要なキャラクターをほぼ全員登場させて、しかもキャラ性が分かるようにしているのもお見事。『わたモテ』キャラのカタログとしても楽しめる作品だ。

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