『鬼滅の刃』我妻善逸、一つの技しか使えない剣士の強み 「霹靂一閃」に魅了されるワケ

 以降、善逸の意識は薄れ、しばらくのあいだ、育ての師範との日々を回想へ。そこでも、同じく木に登り剣士としての修業の厳しさから逃げている。だが、善逸は師範を尊敬している。というのも、惚れた女に別の男とかけおちするための金を貢がされ、借金まみれになった自分を救ってくれた恩があるからだ。恩義から、師範の期待に応えたいおもいも強いが、努力してもできないことも多く、自信がないと善逸は嘆く。自身でも変わりたいというおもいは強い。

 回想からもどり、いったん眠り込む。その直後、彼の唯一持つ剣技「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」を放つ。途中、善逸は師範からの言葉、「お前はそれでいい、一つできれば万々歳だ。一つのことしかできないならそれを極め抜け。極限の極限まで磨け……信じるんだ。地獄のような鍛錬に耐えた日々を。お前は必ず報われる。極限まで叩き上げ 誰よりも強靭な刃になれ」を思い出す。そして、愚直に一つの剣技を繰り返し、最後に六連で鬼の首を狩る。技の名のとおり、雷の走る攻撃のコンボで倒す描写から、カタルシスを感じるのだ。倒したあと、毒が回ったのもあり、ぐったりしながら感謝の言葉を回想のなかで投げかける。

 炭治郎のように、強靭な精神、修行に対するひた向きさ、柔軟な思考、技の手数の多さ、慈悲深い心など、完璧なキャラはたしかに魅力的だ。一方、善逸はどうだろうか。普段はへたれで修業からも、鬼と対峙したときも、逃げ回る。おまけに不器用だ。だが、そんな彼だからこそ、ここぞというときに放つ、たった一つの技に魅了されるのだ。

 善逸のキャラクターからは、たとえ不器用で一つの強みしかなくとも、それを磨きぬけば不安なことも切り抜けられる。そうエンパワメントされるのではないか。

(文=梅澤亮介)

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