阿部和重『オーガ(ニ)ズム』インタビュー前編

阿部和重が語る、『オーガ(ニ)ズム』執筆に至る20年の構想「アメリカの変化と日米関係を描こうとした」

「伊坂さんと一緒に仕事できたのは得難い体験でした」

――宮城といえば、阿部さんは仙台在住の伊坂幸太郎さんと『キャプテンサンダーボルト』(2014年)を共作しました。その影響は。

阿部:伊坂さんとの共作は、『オーガ(ニ)ズム』を書く上で大きな経験になりました。『キャプテンサンダーボルト』の前に取り組んだ長篇『ピストルズ』は、形式的なルールを過去作以上に徹底的に決めて書いたんです。一字一句の選択まで細かく設定しました。『ピストルズ』の物語は要するに、ヒーリングであなたのトラウマなくしてあげましょう的な展開でもあるんですが、書いた本人は逆にがんじがらめで脱け出せなくなってしまった。だから、リハビリ的に次に書いた『クエーサーと13番目の柱』(2012年)は徹底的にシンプルな形式性を追求しました。文学作品に不可欠な要素というのは、だいたい3つに整理できるんじゃないかと考えたんです。風景描写、比喩、心理展開です。それらを全部なくしても文学として成立させることは可能か、という命題に基づいて書いたのがあの小説です。ないないづくしで書くのがリハビリにもなるのではと考えて、全部現在形の文章にしてみた。するとシナリオの形に近くなる。自分はもともとシナリオの形式から書くことを始めた人間なので、そういう意味では原点に戻れた感覚がありました。

 また、久しぶりに短編をまとめて書く時期があって、その中でもいろんなことを試した(『Deluxe Edition』2013年に収録)。伊坂さんとの共作はそれと同時期に進めました。中高生の部活のように、2人であれ面白いよね、ああいうことをやってみようよと楽しみながらアイデアを出しあっていった。その過程で、小説を書き始めた頃の自由や創作の喜びを取り戻せたのが本当に大きい。あの時期に伊坂さんと一緒に仕事できたのは得難い体験でした。そうでなかったら『オーガ(ニ)ズム』は今の形にはなっていなかったし、不満の残る仕上がりになっていたと思う。だから伊坂さんには本当に感謝しておりますと強調しておきたい(笑)。

 もう1つ大きかったのは、蓮實重彦さんの『伯爵夫人』(2016年)。同作の評論を書くために細かく読みこみました。伊坂さん、蓮實さんという他者の言葉に深く触れることで、ルール尽くしで不自由になっていた自分の殻を破ることができた。そうした経験の影響はとても大きかったです。

後編:阿部和重が語る、『オーガ(ニ)ズム』に自分を登場させた理由 「私が私のことを書いてもリアルが保証されるわけではない

(取材・文=円堂都司昭/写真=池村隆司)

■書籍情報
『オーガ(ニ)ズム』
阿部和重 著
発売日:2019年9月26日
定価:本体2,400円+税
発行:文藝春秋
『オーガ(ニ)ズム』特設サイト:https://books.bunshun.jp/sp/organism

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