怪異蒐集家・中山市朗が語る、“幽霊が出てこない”怪談の怖さ「みんな、どこかで身に覚えもある」

なぜ怪談は人を魅了し続けるのか

――怪談のように、変わらず安定して人気があるジャンルは、他にあまりないような気がします。そこまで人を惹きつける魅力はなんだと思いますか?

中山:平安時代に書かれた『今昔物語』は、作者不詳となっていますが、おそらく全国行脚するお坊さんが聞いて書き連ねたものだと思うんです。あれも不思議で、いまでいう怪談のような話がいっぱい出てきます。おそらく、元来そういうものに人間は惹かれるんだと思うんですよ。自然にあるもの、山にあるもの、海にあるもの。そういう自然のものを畏怖するっていうのは、怖がりながらもどこか尊ぶ気持ちが日本人にはあって、それが恐怖を含めた自然信仰としてあったんだと思います。

――だからこそ、ずっと受け継がれていくのだと。

中山:そうそう。それと神様仏様の話というのは、たとえばキリスト教の聖書は神様の言葉なので、一言一句変えてはならない。でも、日本だと神道にはそういうのもないし、仏教も割と自由。そこでちょっと教養のあるお坊さんが、村の人に聞きかじりの今昔物語を、我が村のことのように言いながら、「こういうことをしちゃいかんのじゃ、これは戒めである」とか、自由に言えたっていうのが日本の語り。現に落語のルーツは説法だっていう説もあるんですよね。


――話を集めている中で、 まったく違う地域なのに、似たような話はあったりしますか?

中山:同じような現象っていうのはあるんですけども、逆に地域の特色みたいのはあって、たとえば妖怪でも半分牛で半分人間なのは関西とかね。なぜかあんまり、関東では聞かないんですね。カッパの話は全国にはあるんですけども、地方によって呼び方も違いますね。大阪は「ガタロ」って言ってたんですよ。

――同じ妖怪でも地域性があると。水木しげる先生が、アフリカの民族に妖怪の絵を見せたら、「 こんなのうちにもいるぞ」と言われたという話がありました。

中山:昔のことですが、よく知り合いが3人で夜の10時に石神井公園に行ったら、向こうのほうがモヤってるんですって。そのモヤからポツッとおばあさんが出てきて、歩いてくる。そのおばあさん、異様で粉のようなものを振ったように真っ白なんですって。着ているものも、髪の毛も、顔も手も。すれ違って、ふっと見たら霧の中におばあさんが入っていって、消えた。白粉つけたようなばあさんだったから「オシロイばばあ」って勝手に名付けたそうなんです。で、ある日、水木しげる妖怪図鑑を見たら、白粉のばばあが載っていて、名前が「白粉婆」だった(笑)。そういう話は結構ありますね。

――同じ妖怪がいたと(笑)。今回聞いた中で、先生がとくに怖かった話はどれですか?

中山:最後のほうに載せた、神様の話ですね。最近ライブで、「触らぬ神に祟りなし」っていう話をよくするんですよ。べつに神信心が悪いという話じゃないんだけども、やたら神様に拝んだりだとかしないほうがいいよ、と。いまの人たちって、神様っていったらイエスキリストみたいなのを思い浮かべて、神様にお祈りしたらいいんだと思っているけど、いやいや日本の神道の神様ってそんなよい神様ばかりちゃうで、と。荒ぶる神もいれば、祟り神もいる。だからあんまり神様に触らないほうがいいよ、と。

――先生はプライベート怪談会をやってらっしゃるんですよね。

中山: 本を書こうとなると、ある程度のネタを抽出しなければならないんです。そこでブログで呼びかけて、プライベート怪談会をやっています。「怪談を語る楽しみ」を味わっていただきたいという思いもあるし、僕の怪談収集の場でもある。やっぱり一期一会というか、 そこでしか聞けない怪談があったりするんですよ。まぁ一晩やって、何もいい話がないときもありますが(笑)。

――最後に読者の方にメッセージを。

中山:今回敢えて、幽霊が出ない怪談を集めてみたんです。怪談って、必ず幽霊が出るじゃないですか。排除したらどうなるんだろうって、ものすごい大きな勇気で、ヒィヒィ言いながらネタを集めた。ひょっとしたら幽霊かもしれないけど、幽霊って断言するのもちょっとねっていう話ばっかりを書いていったら、妖怪系統の話が増えちゃったんです。妖怪もね、 あんまり集まらなくなってきてるんですよ。人のライフスタイルが都会的になったっていうのもあるし、あんまり神様と関係も持たなくなって、信心をする人も少なくなった。山も開発されちゃって。妖怪ってそういうところで遭遇するものなんですけども、それがなくなってきて、妖怪の住む場所がなくなってきちゃったのかなと。その辺りを意識してもらえたら、おもしろく読んでいただけるんじゃないかと思います。

(取材=佐々木康晴/文・構成=尾崎ムギ子/写真・鷲尾太郎)


■中山市朗(なかやま・いちろう)
兵庫県生まれ。現在は大阪府在住。怪異蒐集家、オカルト研究家、放送作家。作家育成塾『作劇塾』の塾長を務めている。著書に『怪異実聞禄 なまなりさん』『聖徳太子 四天王寺の暗号』など。2014年に、『怪談狩り 市朗百物語』と『怪談狩り 市朗百物語 赤い顔』を立て続けに発表。7年の沈黙を破り、満を持して刊行された実話怪談集は、話題となった。『怪談狩り』シリーズに『禍々しい家』『四季異聞録』などがある。共著に『新耳袋 現代百物語』(全10巻)、『捜聖記』『怪談実話コロシアム 群雄割拠の上方編』などがある。

■書籍情報


『怪談狩り あの子はだあれ?』
中山市朗 著
価格:640円+税
発行/発売:KADOKAWA
公式サイト/https://www.kadokawa.co.jp/product/321902000611/

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