ウィルはなぜ“裏側の世界”で生き抜いた? 『ストレンジャー・シングス 裏側の世界』レビュー
ドラマとのリンク
他にもウィルと母ジョイスがライトを介して通じ合うシーンや、ザ・クラッシュの名曲で両世界のつながりを感じる瞬間など、ストーリーはドラマで描かれた世界と表裏一体で進む。主要キャラクターのマイク、イレブン、ダスティン、ルーカスらも登場。賢者ウィルが仲間とのボードゲームで培った攻略法をヒントにサバイバルする姿は、『ロード・オブ・ザ・リング』のガンダルフの雄姿を彷彿とさせ、心細かったウィルの命の拠りどころとなっていたことがうかがえる。ドラマの設定がいっぱい詰まった本書は、ファンが読めば多少なりとも「ストシン・ロス」を癒してくれる作りになっている。ここで多少、と書いた訳はその画風にあるのだが、本書にドラマのキャラクターそっくりな似顔絵を期待すると椅子からズリ落ち、イレブンのような特殊能力を持つ人ならマイクを見て鼻血を出すはめになるかもしれない。アメコミを読むこと自体が新鮮な私は最初、見慣れない絵柄にすこし戸惑ったが、今では筋肉隆々なデモゴルゴンがヴィラン (悪役)のようにかっこよく見えている。
そうだ、私が忘れられないキャラクターのひとりに、マイクの姉ナンシーの親友バーバラがいる。優しくて、友だち思い。私も仲良くなってみたい、サイコーにスウィートな女の子だ。しかし彼女もある晩「何か」によって裏側の世界に引きずり込まれてしまう。襲われたはずみで眼鏡を落とし、裸眼で逃げ惑うかわいそうなバーバラに、画面のこちら側から手を差し伸べることができたらどんなにか、とフィクションの世界に想いを馳せた。本コミックで再現される数コマを見てその気持ちがよみがえり、せつなくなってしまった。
本編のほかに、切り取って額装したいほど美麗なカラーグラビアが10ページ以上、さらにフリーコミックブックデイで配布された、シーズン1の後日談を描いた短編『ゲーム・マスター』が収録されているのはうれしいオマケだ。この短編はまだ付き合っていた頃のスティーブとナンシーを軸に進む。思いがけず、シーズン1の1話のマイク宅で4人の解散時に語られた「エルフの衣装を身にまとったナンシー」が見られてナンシーファンとしては心をくすぐられもした。
裏側の世界でウィルに何があったか。もっと『ストレンジャー・シングス』を知りたいファン、本編を繰り返し観るだけじゃ物足りないカラダになってしまったファンに、ぜひ手に取ってみてほしい一冊だ。
■大信トモコ
元Supersnazz、現在はTweezersとRock Juiceで活躍中の歌うベーシスト。趣味は映画と音楽鑑賞、料理本集め。Twitter @tomokorocks
■書籍情報
『ストレンジャー・シングス 裏側の世界』
ジョディー・ハウザー、ステファノ・マルティーノ 著
長沢光希、ルビー翔馬ジェームス 訳
発売中
価格:2000+税
判型:B5
発行/発売:フェーズシックス
公式ホームページ:https://p6books.com/