恋愛指南本でも自己啓発本でもない? 続々と書籍化する「Twitter/インスタポエム」の特徴
具体性を捨象することで、誰でも共感できるようにする
2015年に『だから、そばにいて』(ワニブックス)で書籍化デビューしたカフカは明確に「「恋愛指南本」でも「自己啓発本」でもありません。そこにあるのはただの言葉達です」と語っている。「本当は前向きでいたい、でも無理矢理ポジティブになる必要はない」(『だから、そばにいて』)と。
カフカもTwitter/インスタポエムならではの技巧を持つ書き手である。際立った特徴として、具体性・身体性の捨象がある。「言葉だけでは繋ぎとめられないと分かっているから/心で繋がっていたい」といった具合で、カフカの文章には性描写、肉体に関する記述がほぼまったく出てこない。ばかりか、自分や相手が何歳でどんなことをしている人間なのかといった情報もオミットされている。
「友達の関係で良かったのにそれ以上を望んでしまった。心苦しくて苦しくて本当の気持ちを隠すことで精一杯だった」(『ただそれだけで、恋しくて。』ワニブックス)といったように、「どこの誰か」という情報を消し去り、やや抽象化された状況と切なさなどの感情だけを記述する。これにより、たとえば「あの人は金持ちだからそうするんだよ」などの“自分とは関係ない人間である”という切り離しも、「なんであんなやつだけが」といった嫉妬の喚起も起こりづらく、「人」ではなく「感情」にフォーカスして共感しやすい文章になっている。たとえば「心から好きなものがあれば、それだけで生きていける」(『いつか想いあふれても』セブン&アイ出版)というのは、年齢も性別も収入も関係なく、誰もが少なくとも一度は思ったことがある言葉のはずだ。
カフカをはじめ、Twitter/インスタポエムの書き手には、文章に表す情報や感情をコントロールし、あえて絞ることで読者の想像と共感を促すことに長けている者が多い。他にもFや0号室、ニャン等々、注目すべき書き手はたくさんいる。機会があればまた文脈込みで論じてみたい。
■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。