オレオレ詐欺、なぜ被害が後を絶たない? 『オレオレの巣窟』著者が語る、高度化する手口とその背景

 暗躍する詐欺グループの実態に迫る前半から一転。当局の捜査によって、次第に追い詰められていく詐欺グループの若者たち。それは、彼らに直接/間接的に関わっているさまざまな人物たちの未来も、また大きく変えていくのだった。そして終盤、それはまるで青春小説のように瑞々しく、若者たちのリアルな“生”を浮き彫りにしていく。自分たちにとって、本当に大事なものとは何なのか。

「そこは、まさしく狙いのひとつだったというか、最初からこれは青春小説にしたい、詐欺師の青春小説にしたいなっていうのは思っていたんですよね。そう、騙されたあと、ある登場人物が、急にガラッと変わって、自分で努力し始めるじゃないですか。それまではいろんなことを言い訳にしてきたけど、結局それを全部かぶるのは自分自身じゃないかと。そこに気づいてガラッと変わったり、別の登場人物が『いつまで詐欺をやるの?』って恋人に聞かれてから、ちょっとずつ何かが揺らぎ始めていったり……やっぱり、それぞれの立場で人は変わっていくというか、ある種成長していくところを描きたかったんですよね。そこが青春小説の醍醐味だと思っているので。やっていることの良し悪しはあれど、ひとりひとりはやっぱり憎めないところがあるので」

 自分はあくまでも小説家なので、最終的な判断は読者に委ねたい──そう言いながら本書を執筆するなかで、彼の胸中には、若者たちに向けたある“思い”があったという。本書のなかで、詐欺グループの“社長”を務める人物が、厳しい研修を終えた“架け子”たちに演説するとても印象的なシーンがある。「俺たちはこれから人を騙してオレオレ詐欺をする。だけど本当に騙されているのは、実は俺たちのほうだったんだ」、「おまえたち、最近の日本はどこかおかしいと思わないか」、「なあ、いつから日本は、こんなに夢のない国になってしまったんだ」、「俺はオレオレ詐欺っていうのは、革命だと思っている」。

「あの台詞は、僕の心情とすごい近いところがあるかもしれないですね。かなり飛躍しているけれど、すべてが間違っているとも思えない。この小説を読んで、もしかしたら“オレオレ詐欺”をやっている若者たちに、強く共感する人がいるかもしれないし、むしろこれは本当にけしからんって思う人もいるでしょう。ただ、『若者たち、頑張れ!』という気持ちは、書いているときからずっとありました。そう、戦後の日本がここまで伸びたのって、僕は教育が良かったからだと思うんです。若者たちの教育にちゃんとお金を使ってきたから、日本はここまで経済的に成長することができた。だけど今は、そのお金が年寄りに行ってしまっていて、若者たちが苦労するような国になってしまった。それでは、国として成長していかないですよね。どこかでそれを変えていかないと、日本という国はこれからますます希望のない国になってしまう。大きな意味で、そういうことをみんなで考えていかなきゃいけないんだっていうのは、ひとつ裏の大きなテーマとしてありました。誰がいいとか悪いとかではなく、日本の今の問題として、この構造自体をちゃんと勇気をもって変えようよ、変えたいよねっていう。そういう気持ちは、この小説のなかに込めたつもりではあります」

(取材・文=麦倉正樹)

志駕 晃『オレオレの巣窟』

■書籍情報
『オレオレの巣窟』
志駕 晃 著
発売中
文庫:422ページ
出版社:幻冬舎

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