CRAZY BLUES、代表曲「Lot」の広がりに見出す希望 3人の個性が混ざり合う新世代のオルタナロック
京都で結成された、よしださほ(Vo/Gt)、ゆっち(Ba/Cho)、いのうえじげん(Dr/Cho)から成る3ピースバンド・CRAZY BLUES。昨年リリースされた1st EP『Lot e.p.』のリード曲「Lot」のMVの再生数がすでに50万回を超えるなど、今じわじわと注目を集めている3人組だ。
1stシングル「表面張力」には若さゆえのフラジャイルな感性が生々しくパッケージングされ、現時点での代表曲「Lot」にはギリギリの場所にいる人間の静かな叫びが、いつしか普遍的な祈りへと辿り着く道筋が露わになる。今年6月にリリースされた「YoungGirlsNeverApart」には哀しいくらいに幸福な光景が激しくも幻想的に描かれ、新曲「夏、駆け抜けるような」では、さまざまな感情が粒子のように混ざり合い、疾走し、永遠に届かない想いに溶けていく。CRAZY BLUESの楽曲の中では、音と感情が極めてピュアに、密接に、繋がっているように感じられる。現時点では羊文学やリーガルリリー、kanekoayanoといった先達たちの次世代に当たる“オルタナティブロックの新鋭”、という位置づけが相応しいと思うが、CRAZY BLUESはこの先もっともっと枠からはみ出して広がっていきそうな可能性がある。今のうちに出合ってほしいニューカマーだ。
このインタビューでは、バンド結成の経緯から曲作りの話まで、たっぷりと話を聞いた。「この3人でいること」をとても大切にしているような、そんなバンドの柔らかで温かな佇まいがとても印象的だった。(天野史彬)
羊文学、藤井 風、VOCALOID……3人それぞれの音楽ルーツ
――CRAZY BLUESは高校の軽音部で結成されたそうですが、言い出しっぺはどなただったんですか?
よしださほ(以下、よしだ):私です。最初は違うバンドでギターを弾いていたんですけど、「自分でも歌いたいな」という思いがあって、まずはベースのゆっちに声を掛けたんです。そのとき、本当は女の子だけで3ピースバンドを組みたかったんですけど、田舎の軽音楽部だったので……(笑)。
ゆっち:ドラムをできる人があまりいなかったんだよね。
いのうえじげん(以下、いのうえ):僕は中学校の頃に吹奏楽部でパーカッションをやっていたのでドラムは一応叩けたんですけど、本当に好きなのはベースで。ベースで他のバンドに参加していたんですよ。でもどこで情報が漏れたのか、ふたりが「こいつドラムできるらしいぞ」と聞きつけて(笑)。
よしだ:それで「ドラム叩いてください」と、正座でじげんにお願いしました。
――ギリギリ土下座には行かないくらいの感じでお願いしたんですね(笑)。よしださんは“3ピースバンド”がよかったんですね?
よしだ:中学生の頃にSHISHAMOのコピーバンドを地元の子とやっていたこともあったし、他にもサンボマスター、Hump Back、Saucy Dog、My Hair is Bad……って、好きなバンドは3ピースが多かったんです。「3ピースのギターボーカル、カッコいいなあ」と思って、やってみたかったんですよね。
――ずっとバンド音楽が好きなんですね。
よしだ:そうですね。でも小学生の頃は星野源さんにどっぷり浸っていて、初期のちょっと暗くて、でも落ち着くような、弾き語りの曲をずっと聴いていたんです。バンドを聴くようになったのは中学の頃からですね。
――CRAZY BLUESを組んだとき「自分たちはどういう表現をしたいのか」という部分は、何かしら見定めていたものはあったんですか?
よしだ:高校1年生の夏に組んだんですけど、最初は「何がしたい」よりも「3ピースでギターボーカルがやりたい」しかなかったです。ただ高1の冬に羊文学の「1999」のMVに出会って、最初は軽い気持ちで3人でカバーしてみたんですけど、「私がやりたい音楽性とか、私の声が合う音楽性って、これかもしれない」と思ったんです。そこから羊文学に始まり、リーガルリリーとか、女性のオルタナやシューゲイザーのシーンに出会っていきました。音楽性もそうだし、歌詞の面でも私の暗くてネガティブな性格にこの表現は合っているなと思って。
――星野源さんも初期の内省が露わになっている頃がお好きだったり、よしださんは人の心のブルー(憂鬱)な部分を表現したものに惹かれるし、自分自身もそういう性格の人間なんだという自覚があるんですね。
よしだ:まさにそうだと思います。小さい頃から「自分の性格がもっと前向きで明るかったらよかったな」と思うんですけど、どうしても「自分は気持ちが弱いな」っていうことは自覚していて。でも、星野さんの歌詞を読んだり著書を読んだりしても、自分の暗い部分や、「悲しい」「寂しい」という感情を表に出している。そういうものに触れることで「自分だけじゃない」と思える瞬間ってあると思うんですよね。どうしても暗い歌詞の音楽しか受け付けられないときが私にはあるんですけど、そんなどん底のときに寄り添ってくれるのが、ブルーな気持ちを乗せた音楽や表現で。それに助けられてきた経験があるからこそ、おこがましいですけど、私もそういうものを誰かに伝えたいと思うのかもしれないです。
――今のCRAZY BLUESの音楽性は、強いてカテゴライズするのならやはり“オルタナティブロック”になると思うんですけど、そうした方向性は3人で共有しているものなんですか?
ゆっち:私は正直、そういう音楽性だと軽音楽部のときに聴いた羊文学さんやリーガルリリーさんのようなバンドしか聴いたことがなくて。私はVOCALOIDの曲が好きでずっと聴いているんです。好きなボカロPは、いよわさんやNeruさん、sasakure.UKさんといった方々なんですけど、私が好きなクリエイターさんに共有しているのは、バンドサウンドというよりは電子音やピアノの音が多く出てくる楽曲を作る方たちだなと思っていて。歌詞が暗めっていうという部分は、オルタナと似ている気もします。
――なるほど。全員がオルタナを聴きまくっている中でCRAZY BLUESの音楽性が生まれているわけではないんですね。いのうえさんはオルタナへの距離感とか、リスナーとしての自分はどんなものですか?
いのうえ:よしだに羊文学を教えてもらったときは「こんなにいいバンドがいるんだ!」と思ってビックリしたし、今でもCRAZY BLUESの曲作りの大元には、羊文学からの影響は外せないものだと思っています。僕自身で言うと、そもそもは小さい頃からピアノやソルフェージュをやらせてもらっていて、小学5年生のときに『るろうに剣心』をきっかけにONE OK ROCKにハマったんです。初めてワンオクのライブを観に大阪城ホールに行ったとき、ステージにバンドメンバー4人のシルエットがバンっと映ったときに「あ、これが目指すべきものだ」って、すごく衝撃を受けたんですよね。
――ソングライターとしての自分に影響を与えている存在というと、誰が思い浮かびますか?
いのうえ:藤井 風さんの存在は大きくて。まだ「何なんw」が出る前の頃、「丸の内サディスティック」のカバー動画を観たときに「すごい人がいる」と思ったんです。風さんの「帰ろう」が、人生で出会った曲の中で一番聴いている曲だし、一番好きな曲なんですけど、あの曲を聴いたときに「自分も曲を作りたい」と思ったんですよね。風さんの歌詞はポジティブとかネガティブでは測れない、なんというか……すごくきれいな歌詞だと思うんですけど。だから、もちろん今オルタナティブロックをやっている自覚はあるんですけど、あまりそのジャンルの典型的な部分だけに囚われないようにしようとは思っています。自分の好きなものを純粋に取り入れていきたいし、そのうえで歌を大事にしていきたいなと思っています。
どん底の時期に生まれた代表曲「Lot」の存在
――お話を聞いていて、想像以上に3人がバラバラな個性や素養を持った人たちなんだなとわかってきました。その中で、CRAZY BLUESが“高校の軽音部で組んだバンド”という範疇からはみ出していく未来が見えた瞬間ってありますか?
いのうえ:僕は明確にありますね。高校の頃、ふたりが放課後の部室でハモりをする遊びをやっていたことがあって。今でも覚えているんですけど、Saucy Dogの「BLUE」を歌っていたんですよね。たぶんふたりは「楽しいね」くらいの感じだったと思うんですけど、端から聴いていると「え、すごい」って、ビックリしたんです。それまでCRAZY BLUESって、ほわほわしたバンドとして高校3年間で終わっていくんだろうなと思ったんですけど、「自分はすごい人たちとバンドをやっているんだ」と思って。そこから将来を考え始めたのを覚えています。
――CRAZY BLUESは、よしださんといのうえさんがそれぞれソングライターを担っているわけですが、お互いの作家性をどう見ていますか?
よしだ:私はギターの弾き語りで作るんですけど、じげんは最初ピアノで制作していた頃を経て、最近はGarageBandも使って作っているんです。だからそもそものアプローチが全然違うんですよね。私が作る曲はたくさん展開があるわけではなく、自分の生活に近いことを書いているっていう感覚なんですけど、じげんが作る歌は展開が面白いし、コード進行も変わったものを入れてくる。じげんは毎日違うアルバムを聴いているので、その影響もあっていろんな音楽性が1曲の中に集まってくる感覚があります。じげんの存在はちょっと脅威にも思ってますね(笑)。じげんの曲を聴くと「私も頑張らないとヤバいな」って焦るので。
いのうえ:いやいや、それは自分を下げて言いすぎだと思うけど(笑)。僕は逆に(よしだは)あんなにシンプルなコードでいい曲を作ることができるのがすごいなと思うし、恐ろしいなとも思います。使っているコード数は少なくてもそのシンプルさがライブではガツンッときたりするし、歌詞もよしだのパーソナルなことを歌ってると思うけど、共感できる人も多いと思うから。よしだの曲は大衆に届く力もちゃんとあると思うんですよね。ライブハウスでいろんな曲を聴きますけど、僕はよしだの曲でビビッとくることが一番多いです。
――いのうえさんは毎日違うアルバムを聴いているということですが、そうやって貪欲にインプットをしていく原動力はどこにあるんですか?
いのうえ:今はまだ、僕らの曲を聴いた10人のうち8人は「羊文学から影響を受けていそうだね」って言うと思うんです。でも、そういう言葉からどんどん離れて、「CRAZY BLUESらしい音楽」と言われるようになればいいなと思っていて。だから、ヒップホップのような今まで親しんでこなかった音楽も聴くし、それを混ぜ込んでいくことで“CRAZY BLUESっぽいもの”を模索したいんですよね。
――よしださんは、自分で曲を作ろうと思ったきっかけはなんですか?
よしだ:CRAZY BLUESはじげんが曲を作ってくれて、それを歌うことから始まったんですけど、ライブをするようになって、「自分にも歌いたいことがあるんじゃないか」と思ったのがきっかけだったと思います。初めてちゃんと曲を作ったのがいつだったかは覚えていないんですけど、「Lot」ができたのも、確かバンドを始めた最初の頃だったんですよね。「Lot」ができたときは、身の回りの人間関係や学業で上手くいかないことが多くて。あるひとつのことでも人と全然噛み合わない、みたいな時期だったんです。その時期が今までの人生の中でも最大級にどん底な時期だったなって。私は元々日記を書いたり文章を書いたりするのが好きで、その延長線上で、ギターを弾きながら歌いたいと意識したんだと思います。高校の頃からそういうことを少しやったりしてはいたんですけど、初めてちゃんと形になったのは、そのどん底の時期だったと思います。
――「Lot」は現時点でCRAZY BLUESの代表曲と言える曲だと思いますが、そういう時期にできた曲だったんですね。
よしだ:そのときは毎日涙が止まらなかったし、夜も眠れなかったし。そのとき自分に起こっていたのが、そう簡単に自分とは切り離せない存在との衝突だったので、ずっと暗くなっていましたね。今音源になっているものよりもデモはもっと暗くて、歌詞も言葉が伸ばし伸ばし歌われていくような、文字数が少ない曲だったんです。それを最初に作ってから1年後くらいにAメロを書き変えてできたのが、今の「Lot」です。
――結果的に「Lot」はMVも50万回以上再生される曲になったわけで、今のよしださんにとって「Lot」はどのような意味を持つ曲になっていますか?
よしだ:MCでもよく言うことなんですけど、しんどいときのお守りになってくれるような曲だったらいいな、と思っていて。あのときは本当にどん底で、自分だけこんなところに生まれて、「自分だけ、自分だけ……」っていう劣等感や羨ましさみたいなものに苛まれていましたけど、いつかそれを遠目に見たときに「そんなことないよね」と思える日が来るっていう希望であり、お守りであり、「大丈夫、大丈夫」と言ってくれるような曲ですね、「Lot」は。他の誰かにとってもそういう曲であればいいなと思うし、自分の暗い部分から生まれた曲が誰かに受け取ってもらえることは、自分自身を肯定してもらえるようなことなんだとも知ったし。あのしんどかった時期は無駄じゃなかったんだなって思います。
――「Lot」は、デモを作って最初に歌詞を書いた段階からとても個人的な歌であると同時に、よしださんの中には「これを他の誰かに受けとってほしい」という思いはありましたか?
よしだ:私の曲を作るときの癖で、一度歌詞を書いたら、それをバイト前とか、曲作りから離れた時間で何度も聴き直すんです。「Lot」のときも、最初は全部暗い歌詞だったんですけど、「こんな暗い歌詞書いても、誰も救われないな」と思って、明るい言葉を無理やりねじ込んだ記憶があります。だから〈全てがハズレじゃなかったって/いつか思えるでしょう?/だから祈るんでしょう?〉と歌っていて。なので、最初から誰かに受け取ってほしいという思いはあったんだと思います。