Official髭男dismが日常の只中に届けたもの 楽曲と観客への深い“信頼”が生んだ、心に向き合う時間と未来への約束

「俺たちが行ったことのない場所、一緒に行きましょう。また帰りたい場所、一緒に帰りましょう。そうやって一緒に歳をとっていきましょう。どうか、よろしくお願いします!」

 Official髭男dismがホール&アリーナツアー『OFFICIAL HIGE DANDISM one-man tour 2026』を完走した。全国17会場で計26公演を行った今回のツアーだが、そこに至るまでの道のりを辿ると、その意味が見えてくる。

 2025年春に開催され、のちに映画化された初のスタジアムツアー『OFFICIAL HIGE DANDISM LIVE at STADIUM 2025』は過去最大規模の祝祭ながら、その中心にあったのは、バンドがどこまで大きくなれたかという誇示ではない。むしろ、「みんなが生きていて暮らしていることが、このバンドにとって大切な光」と観客に伝える姿が印象的だった。一転、同年冬には、メンバー4人のみでまわるライブハウスツアー『OFFICIAL HIGE DANDISM one-man tour FOUR-RE:ISM』を開催。ファンクラブ会員限定という親密な空間で、バンドの核にあるものを確かめた。そして今回のツアーで彼らが向かったのは、あなたが暮らす街だった。スタジアムで受け取り、ライブハウスで育んだ光を抱えたまま、一人ひとりが積み重ねている日常の只中へと、音楽を届けに行くツアーだったのだろう。

 ツアーファイナルの会場、Kアリーナ横浜は、音楽公演に特化して設計されたアリーナだ。開演直前、Official髭男dismのライブではおなじみのMy Chemical Romance「Welcome To The Black Parade」が大音量で流れると、その音の抜けの良さだけで気持ちが高まる。そして暗転後、紗幕の向こうでピアノに向かう藤原聡(Vo/Pf)の姿が浮かび上がった。1曲目は「Editorial」。メジャー2ndアルバムの表題曲だが、ライブで披露されるのは久々ということもあり、驚いたファンも多かったのではないだろうか。藤原の鍵盤弾き語りから始まり、小笹大輔(Gt)、楢﨑誠(Ba/Sax)、松浦匡希(Dr)が順に音を重ねていくアレンジは、一人の内省が少しずつ他者へと開かれていく過程そのもののようだ。音の広がりに呼応するように、ステージの奥にあるミラーボールが幕越しにぼんやりと光を放つ。

 まだ姿の見えないバンドが歌っていたのは、日々の中に見つけたまだ言葉にできていない感情を、丁寧に掬い上げて形にしたいという思い。そしてその思いを、他でもない“あなた”に受け取ってほしいという願いだ。「Editorial」の終わりには高音のピアノとシンバル、コーラスのSEが重なり合い、幻想的な音像が会場を満たす。続く「I LOVE...」のイントロが鳴らされた瞬間、紗幕が落とされ、ステージと客席の隔たりがなくなった。幕の内側にいた4人とサポートメンバーの姿がはっきりと現れると、客席一面に広がる手拍子が彼らを迎えた。

藤原聡(Vo/Pf)(撮影=TAKAHIRO TAKINAMI)
小笹大輔(Gt)(撮影=TAKAHIRO TAKINAMI)
楢﨑誠(Ba/Sax)(撮影=TAKAHIRO TAKINAMI)
松浦匡希(Dr)(撮影=TAKAHIRO TAKINAMI)

 この日のライブを観ながら、私の頭に浮かんだのは“信頼”という言葉だった。スタジアムツアーでは、総動員25万人の観客へゴージャスなサウンド&セットリストを惜しみなく披露し、Official髭男dismというバンドのスケールと懐の深さを示した。一方、今回のツアーで彼らが選んだのは、それとはまた異なるアプローチだった。ライブハウスツアーで確かめた温度感を引き継ぐように、4人だけで演奏する場面を多く設け、バンド自身をショーアップするような仕掛けには頼らない。そんなアプローチを可能にしたのは、自分たちが生み出してきた楽曲への信頼、そしてその音楽を受け止めてくれる観客への信頼だろう。

 だからこそ、一曲一曲が持つ表情が鮮やかに立ち上がってくる。音のテクスチャや幾重にも重なるレイヤー、バンドサウンドならではのグルーヴ。その一つひとつをつぶさに感じ取れる“時間”が、このライブにはあった。「Amazing」では、ロックなギターリフの推進力にゴスペル的なコーラスワークが重なり、大きな高揚感を生み出していた。5拍子と6拍子を往来する「Same Blue」では、縦のラインを緻密に刻むリズムと、歌メロが描く横の流れが同居。さらに身体に響くキックが、熱量を増していくアンサンブルの道標となり、楽曲全体を確かな方向へ導いていた。続く「イエスタデイ」は、うねるベース、輪郭のくっきりしたビート、伸びやかなボーカルという異なる質感の音が絡み合い、一つの楽曲を形作っていく過程を味わえた。忙しない日常の中で、美しいものを美しいまま受け取ることは決して簡単ではない。この日彼らが観客一人ひとりへ、そして自分たち自身に差し出した静かな時間は、心を整えるための小さな贈り物だったのではないだろうか。そんなことを思いながら聴いた「Laughter」では藤原のボーカルがあまりに美しく、気を抜けば涙がこぼれそうだった。

 ライブが進むにつれて、4人とオーディエンスが共有する時間はさらに濃密になっていった。その象徴が、ライブ中盤に設けられたバラードセクションだった。藤原は鍵盤を奏でながら、予定を空けて足を運んでくれる一人ひとりの存在が、Official髭男dismの歩みを作ってきたのだと語る。そしてその思いは、「日本で一番大きなステージ」に立ったあとも何も変わらなかったという。

 「みんながいつでもライブに来られるわけじゃないし、いつでも音楽を聴けるようなメンタルじゃないのはもちろん分かってるんだけど、聴けたり、足を運べたりする状況になった時には、必ず最高の状態でそばにいたいと思ってます」――そう告げて始まった「エルダーフラワー」に、「Trailer」「アポトーシス」が静かに重ねられた。3曲を通じて紡がれたのは、祈ること、待つこと、ともに時を重ねていくこと。バンドが差し出された想いを受け取りながら、観客もまた自分自身の記憶や感情と向き合っていた。そんな時間が大きな会場の中にゆっくりと満ちていくのを、メンバーも肌で感じていたのだろう。「スローナンバーでもみんなの熱気がすごい」という言葉には、驚きと喜びが滲んでいた。

 そして、この日限りの時間を未来へ持ち帰るように届けられたのが、リリース前の楽曲「風船」だった。これまでもしばしば、未発表曲をライブで先行披露してきたOfficial髭男dism。今回のツアーではその理由について、「いつかリリースされたら、今日のことを思い出しながら聴いてほしいなと思うんです。その時、みんなにとって“ただの新曲”じゃなくなる。そういう絆を作りたくなって」と語られた。輪の形をした照明がステージを優しく彩るなか、4人は穏やかに微笑みながら音を重ねていく。ふわりと浮かび、そっと着地した今日の音楽の記憶は、聴く人の胸に、そしてメンバー自身の胸にも、温かなものとして残り続けるだろう。

 このあとバンドは、アジア4都市をまわる『OFFICIAL HIGE DANDISM ASIA TOUR 2026』へと向かう。国内での次のツアーはまだ発表されていないが、彼らは「なるべく早めに決めたい」と意欲を燃やしていた。そして“再会の約束の歌”として、この日最後に演奏されたのは「50%」。エネルギッシュなバンドサウンドに導かれるように、大音量のシンガロングが沸き上がった。ツアーの規模や形を変えながらも、Official髭男dismが届け続けてきたものは変わらない。音楽を信じ、音楽を受け取る人を信じること。その信頼を胸に、また新しい場所へと向かっていく。

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