歌声分析 Vol.19:Ms.OOJA ジャンルを横断する大衆性と普遍性 感情を“適温”に保つ表現力と引き算の美学
歌声分析
アーティストの魅力を語るうえで、楽曲だけでなく“歌声”そのものに宿る個性にフォーカスする連載「歌声分析」。声をひとつの“楽器”として捉え、音楽表現にどのような輪郭を与えているのかを掘り下げていく本連載では、技術的な視点からさまざまなアーティストの歌声を紐解いていく。
第19回目は、Ms.OOJAを取り上げたい。
Ms.OOJAの歌声を特徴づける3つの要素
今年デビュー15周年を迎えたMs.OOJA。4月には歌謡曲・演歌の名曲をカバーしたアルバム『Ms.ENKA 〜OOJAの演歌〜』をリリースし、同日から『「Ms.ENKA 〜OOJAの演歌〜」あなたの街に歌いに行きますツアー!』をスタートさせた。全国各地イオンモールやショッピングセンターなども巡り、文字どおり街へ歌を届ける活動を続ける一方、デビュー記念日となる10月18日には、15周年を記念した自身初となる大阪城ホール単独公演『Ms.OOJA 15th Anniversary Live「Ms.OOOOOJA! 〜あたらしい景色をみにいこう〜」』の開催も決まっている。積み重ねてきたキャリアは、今、新たなステージへ向かおうとしているのだ。
筆者はリアルサウンドにて『Ms.ENKA 〜OOJAの演歌〜』のレビューを執筆した(※1)。そのために作品を繰り返し聴く中で驚かされたのは、演歌というジャンルへ自分を寄せていくのではなく、演歌を“Ms.OOJAの歌”へと昇華していたことだ。こぶしなどの演歌の様式をそのままなぞるのではなく、楽曲が持つ情感を丁寧にすくい上げ、自身の歌声で再構築していたのである。
彼女の歌声を特徴づける要素は、大きく3つある。1つ目は、中低音を軸にしながらも暗く沈まず、明るさを帯びた声質。2つ目は、ジャンルごとに歌声の重心を自在に移しながらも、楽曲を自身の歌へと落とし込むための解像度の高さと、それを表現できるスキル。そして3つ目が、楽曲の中にある感情の温度を“適温”に保つ表現力だ。
多くのシンガーが感情を増幅させる方向へ向かうのに対し、彼女は悲しみを必要以上に悲しく、喜びを必要以上に華やかに演出することがない。だから、聴き疲れることがない。かといって単なるBGMにはならず、芯のある声で、歌に上質なリネンのような肌触りを残していく。自身の歌に対して、自問自答を繰り返さなければ到達できなかったであろう、歌声に対する俯瞰的な視点がMs.OOJAには備わっているのだ。
こうした歌唱力が磨かれてきた背景には、デビュー以来、定期的に発表してきたカバーアルバムの存在も大きいだろう。J-POP、歌謡曲、R&B、洋楽、そして先述した演歌まで、時代もジャンルも異なる名曲を歌い続けることは、それぞれの楽曲が持つ様式やバックボーンを理解し、自らの歌声へと落とし込む作業の積み重ねだ。カバーとは、Ms.OOJAにとって、自身の表現の可能性を広げ続けるプロセスそのものでもあるのだ。
ここからは、楽曲をピックアップしながら、改めて彼女の歌声について分析していきたい。
まずは、リリース当時、「RIAJ有料音楽配信チャート」で首位を獲得した「Be...」(2012年)だ。ドラマ『恋愛ニート~忘れた恋のはじめ方~』(TBS系)主題歌を筆頭に、計4つのタイアップがついている。王道のバラードとも言えるこの曲で、彼女は湿度よりも開放感と力強さに舵を切っている。ブレスもあまり混ぜず、ロングトーンのビブラートもあまりない。一つひとつの言葉をまっすぐ置いていくアプローチだ。中低音を中心に進む平メロ部分で、重さではなく明るさを感じさせるため、切なさはあっても、湿っぽさは残らない。朝日があたった朝露のような輝きが、この歌のテーマである未来を照らし出している。
「Footprint」(2020年)は、オーセンティックなロックを彷彿とさせるミディアムチューンだ。ストレートなメロディに対して、彼女は実に自然に多彩なスキルを繰り出していく。フレーズの歌い出しの言葉の立て方、中低音域のピークを揺らす母音のコントロール、コードに沿って声の重心の位置を滑らかに変えるなど、聴くたびに新たな発見がある。
中でも驚いたのは〈ねえ きっときっときっと 越えて行ける〉の“きっと”の部分。言葉の最初の“き”で、ファルセットのアプローチを見せ、すぐにミドルボイスに移行するパターンを3回繰り返しているのだ。音程も声音も統一されているところに、彼女の本領を感じる。この歌唱設計とも言えるスキルの繰り出し方こそが、楽曲の感情を適温に保つ、Ms.OOJAならではの才能だ。