韓国のアンダーグラウンドとオーバーグラウンドの音楽文化に触れる旅 MoIMから『ASIAN POP FESTIVAL』を巡って

 音楽と言葉の旅を鈍行列車、時にフェリーに揺られながら、スポークンワーズとサックスを携え、日本各地の見知らぬミュージシャンと邂逅しセッションを繰り返す旅を、2007年から断続的に行なってきた。北海道・北見から南は石垣島まで。2018年の沖縄行以後、コロナ禍を挟んだゆえ東京での活動が主だったが、バンドFlight Of Ideaを離れ、ソロプロジェクトYAZUMAとして25年ぶりに韓国への音楽旅に、5月出た。90年代終わりから00年代終わり頃までは音楽ジャーナリストとして、筆を執りながらが主な生業であったが、今回の旅は、何者でもない「詩人・ミュージシャン」を騙る「得体の知れない東京からの男」として旅がしたかったのだ。身体ごと街に入り、ソウルでの即興音楽シーンに参加し、そこでの縁から日本ではまだ知られざる韓国フェス(『ASIAN POP FESTIVAL』、以下『APF』)まで目撃するという予想外の着地点へとたどり着いた10日間について考察していきたいと思う。

 国内での音楽旅は、対バン形式の各地のアマチュアバンドのリハを見て、その日のセッションバンドメンバーとして声を掛け、一夜限りのバンドを作り、既成の詩曲と共にインプロセッションをお互いのことを知らずにやり逃げ。2012年の沖縄初上陸の旅では、ホストバンドのメンバーであったギタリスト 儀間崇氏(ex.MONGOL800)と浦添、名護でフリーセッションする歓迎すべきハプニングもあった。そのノウハウを、あらかじめ参加したい旨を伝えていたソウルのMoIMという即興音楽のプロジェクトでも活かせればと思い、ストレンジャーとして紛れ込ませてもらった。何も知らぬまま訪れ、フリーセッション。後からの回収となるが、韓国における即興音楽の歴史と現状について、MoIM(Meeting of Improvising Musicians)の成り立ち、現在地について、テグム(韓国の伝統的な横笛)奏者であり、即興演奏家、キュレーター、教育者でもあり、パリで8年間フリー・インプロヴィゼーションを学び、現地の即興演奏や実験音楽のシーンに深く関わった主催者の一人ジユンさんに答えてもらった。

「韓国では1970年代後半以降、フリー・インプロヴィゼーション、実験音楽、ジャズ、電子音楽、現代音楽といった分野のアーティストたちが、小規模ながらも非常に熱心なミュージシャンたちのコミュニティによって発展してきました。カン・テファン(Kang Tae Hwan)のような先駆的なミュージシャンが、1978年頃からこのシーンを築こうとする絶え間ない努力が続けられてきました。しかし、ベルリン、ニューヨーク、東京といった都市と比べると、ソウルには即興音楽に特化した大規模で安定したインフラが存在したことはありませんでした」

 ブライアン・イーノ、プロデュースの名盤『No New York』リリース前後、ポストパンク突入の時代に静かに勃興した韓国でのインプロシーン。情報量の少ない時代にどこかで共鳴していたのかと想像できる。同時期、東京で言えば東京ロッカーズの頃だ。MoIMは韓国の中では、決してメジャーな活動軸として捉えられないが、匂いと動線は始祖期と繋がっているはずで、月一の定期的な試みとして、サックス奏者のキム・テクジュン氏と共にプロジェクトが2024年に立ち上がった。

Kang Tae Hwan/姜泰煥&Otomo Yoshihide/大友良英 '94

「パンデミック以降、このシーンの活動は目に見えて活発化しています。海外で学び、活動していた多くのミュージシャンが韓国に帰国し、新たな視点や国際的なつながりをもたらし、同時に、即興音楽に関心を持つ若いミュージシャンも増え、演奏やコラボレーション、アーティスト主導のプロジェクトの数も増加。韓国の即興音楽シーンをユニークなものにしている要素の一つに、韓国の伝統音楽との関係性が挙げられます。多くのミュージシャンは、伝統と即興を別々の世界として捉えるのではなく、両者が交差する領域を探求しています。彼らは異なる芸術的言語を融合させることで新たな音楽の可能性を創造しており、それこそが今日の韓国のシーンを特徴づける要素の一つになっていると考えています」

 実際、私も、スネア/パーカッションとジユンさんの奏でるテグムとのセッションだった。他の参加者にも韓国箏カヤグム奏者やインプロダンサーなど、国内のインプロセッション現場がフリージャズ寄りなのと比べ(全てを体験した訳ではないが)、フリーフォーム・ミュージックの濃度が高い所感だ。

「私たちの目的は、単にコンサートを企画することではなく、アーティスト同士が関係を築き、観客が自然な形で即興演奏に触れ、そこから新たなコラボレーションが有機的に生まれるようなプラットフォームを作りたかったのです。MoIMを通じて出会った多くのアーティストが、その後、新しいアンサンブルを結成したり、独自のプロジェクトを立ち上げたり、様々な文脈で共演したりするようになりました」

 日本人が安易にイメージするK-POPに敬意を払いつつも、決してアンチテーゼではない、異なる音楽の座標軸として有機的な発展を望む意思に、人や音楽の関係の自由さがMoIMにあることを彼女の言葉から知ることとなる。私は東京でも同じ意思を持つ場所が生まれることを願った。特に今回の私の15分のセクションは言葉が通じない。思いつくままのフリーポエトリーと音で会話するしかない。これまでにない緊張感と終えた際の好意的な空気。未知のものへの壁のなさ、それがMoIMのイズムなのだ。

韓国の若者が日本のバンドに熱狂する『ASIAN POP FESTIVAL』

 ソウルを離れて、私はあてどない鉄道旅をしながら韓国を放浪した。途中、MoIMで知り合ったダンサーの誘いにより、釜山のStudioBinjariという場所で、コンタクト・インプロヴィゼーションという馴染みのない即興ダンス集団とのセッションもあったが、厳密には音楽体験のアウトサイドなので深くは語らないことにする。MoIMでの新しい音楽経験で十分だったが、ひょんなことから帰国前日に『APF』という韓国のフェスを目撃する機会を得た。残念ながら、2日目夕方以降の参加だったので初日に出演した大貫妙子、2日目のサニーデイ・サービスら日本人アーティストのアクトは見逃したが、仁川国際空港至近のスクエアな会場での韓国フェス初体験記を残してみたい。

 会場は4ステージ(エリア)。メインステージでも程よい混み具合。個人的にまったく先入観、試聴体験のない韓国のバンド群を体験した。

 Kim Min-kyuは韓国オルタナ系ロックDeli Spiceのフロントマンで、今回はソロプロジェクト的な編成での登場。U2、R.E.M.の影響を感じる。ニューウェーブ的文脈のサウンドに少しウェットなメロディライン、ここに韓流ロックの湿度を感じ、夕暮れ間近のメインステージはちょうど良い。屋内会場は幕張メッセ近似のコンベンション会場を生かした造り。ここで見たのは、『MONGOL800 ga FESTIVAL What a Wonderful World!!』などで来日歴もあり、「Luxembourg」が20年前に韓国でヒットしていて、世代を超えて知られるCRYING NUT。スカコアロックが流行った日本のシーンとも接続していたことが理解できる明るいパンクロック。顕著だったのが、音楽性によらず、日本のフェスでベテランロッカーの登場なら、オヤジロック愛好家と希少な若手リスナーが会場を占めるイメージなのだが、『APF』では20代中心の若いロックファンが大半であることに驚かされた。よって自然発生的なサークルモッシュも、日本のライブのような激しいぶつかり合いではなく、陽気にステップを踏んだり、音楽に合わせてタオルを回したりする「ハッピーオーラ」満載。17年ぶりに『APF』で復活だという韓国オルタナメタルバンド Noisegardenは大韓ロックの矜持と濃密さを感じる。

크라잉넛(CRYING NUT) | ASIAN POP FESTIVAL 2026 | 2026.05.31 | @PARADISE CITY

 本年3月来日しているSunset Rollercoasterは現在のシティポップ流行りとシンクロする同時代的アーティスト。日本でもコアな音楽層に支持されている、中国系アメリカ人Ginger Rootも好意的に受け入れられていた。MoIMへの帰国後リサーチ同様に、言質協力頂いた『APF』のオーガナイザーである、韓国インディーシーンやフェス界における重要人物キム・デウ(Dae-Woo Kim)氏にライブシーンの現状などを尋ねた。

「パンデミック以降、韓国のライブ音楽シーンは大きく成長しましたが、その原動力の一つとなったのがバンド音楽だと思います。ロック、インディー、オルタナティブといったライブ主体のジャンルが、ここ数年見られなかったほどの盛り上がりを見せています。ストリーミングだけでなく、フェスティバルやライブパフォーマンスを通じて、こうしたアーティストの魅力に触れる若者が増えています」

 MoIMもAPFもコロナ禍を分岐点に、K-POPではない韓国音楽シーンが活性化しているようだ。以前では考えにくかった音楽が国境を超えたものとして友好的に機能している日本のシーンとの接続についてはこう述べている。

「韓国には以前から、日本の音楽を熱心に支持するファン層が存在していました。 最近では特に、アニメのサウンドトラックやいわゆるシティポップが若い世代に人気です。これらのジャンルは、ストリーミング・プラットフォームやソーシャルメディアを通じて多くの新しいリスナーを獲得し、より幅広い日本のアーティストを韓国の聴衆に紹介するきっかけとなっています」

 来年は日本からどんなアーティストが招聘されるのかという期待が膨らむ言葉。日本側フェスにも韓国ロックがより交われればいいなと思ったり。坂本慎太郎のTシャツを纏っている若者の様に未来のクロスオーバーを予見する。

 最初の起点であるMoIMでの体験からオーバーグラウンドのフェスまで。あてどない音楽旅の着地点が、5月終わりの『APF』での韓国フェスでの体験へと繋がり、これこそが有機的な時間。一歩現実を直視すると別世界の世界情勢。その反転する風景に思わず「平和っていいなぁ」とひとりごち、仁川空港から飛び立つ飛行機をぼんやり眺めながら思った。

■東雄一朗 関連リンク
公式サイト:http://travelinword.com/(公開予定)
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCJ-K_5s4Grqf6RG4mM5Ug1g

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