乃紫、時代に消費されない音楽の強度 “流行から最も遠い場所”で反骨と青春を鳴らした2度目の全国ツアー

乃紫、2度目の全国ツアーレポ

 2度目となる全国ツアー『noa live tour2026』、6月27日の東京公演。乃紫は赤のタータンチェック×黒ミニスカのパンキッシュなスタイルで現れた。装飾を限りなく抑えたステージに、ギター、ベース、ドラム、キーボードというバンド編成。会場は六本木のEX THEATER ROPPONGIだが、下北沢のライブハウスに近いような雰囲気があった。国内ロックフェスにも多数出演してきた乃紫。ポップスの印象が強い彼女だが、実はロックミュージシャンの側面も持ち合わせているアーティストだ。そんな自身の音楽性をきちんと届けようとしていることが伝わってくる。

 そんな彼女が歌うのは、ままならない恋愛模様。恋人の曖昧な態度に苦しむ「ヘントウタイ」、もどかしいひと夏の恋愛を描いた「ハニートラップ」、危うい恋に落ちる「初恋キラー」、年上女性に翻弄される男心を歌った「先輩」……登場人物たちは「あなたの本音はどうなの?」と聞きたくて仕方がない。恋愛が与える刺激と代償にがんじがらめになっている。そんな楽曲に対して、時折ギターを豪快にかき鳴らす乃紫の姿が痛快だった。鬱屈をヒールで蹴り飛ばすような反骨。

乃紫 ライブ写真

 乃紫のスタンスは面白い。愛嬌のあるキャッチーなメロディやサウンドメイクに対して、世の中への皮肉や諦念混じりの歌詞、温度を抑えた歌唱、見透かしたような視線、煽りは「私のタイプはライブでしっかり飛んでくれる人です」などと挑発的。そのすべてに批評的な目線があり、決して他者に自分自身を明け渡そうとはしない強かさがあり、なぜ彼女は若くしてここまで達観しているのだろうかと想像したくなる。しかしそれも簡単には明かしてはくれないだろう。

 「お疲れ様です」。乃紫はMCが始まるたびにそっけなく挨拶する。そんなミュージシャンもなかなかいない。客席から笑いが起きると「会話の始め方が“お疲れ様”しかわかんない。仕事人間だからさ」という(実際その言葉通りリリース前の新曲を4曲も披露していた)。

乃紫 ライブ写真

乃紫 ライブ写真

 「全方向美少女」がバイラルヒットしたことを機にJ-POPシーンの最前線に躍り出た乃紫は、度々「SNSでバズるアーティスト」と紹介されてきた。“自己プロデュースが得意な器用な若者”として注目されているところもあっただろう。けれどここにいる彼女は、そういったイメージとは少し違う。MCのたびに何度も何度もファンに感謝を伝える姿だって少したどたどしい。MC中の彼女には素のようなものが見えた気がした。こんなことも語る。

「音楽始める時代を間違えたなとか思ってたんですけど。流行から最も遠い場所であなたたちに会いたいと思ってて、それがライブで、生活の中に流れる音楽で。一生残り続ける音楽を作りたいと思ってるし、みんなの青春時代になりたいと思ってる」

乃紫 ライブ写真

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 ライブ中盤からは紗幕を用いた演出が続いた。「とある夏」では日差しがさした青空、「踊れる街」では白い衣装を纏った男女が夜中の道を走り回るMV、「アフターオール」では実際に乃紫が学生時代に撮った写真……そうした映像も相まって、青春時代を慈しむようなノスタルジックな空間へと変わっていく。しかも、〈私も東京の一欠片/ハートをすり減らす様な日々〉(「東京依存性」)と悲観的だった彼女が、今では〈都会の夜空に星座を描き/ロンリー、でも底無しにフリーダム〉(「バグった女神」)なんて堂々と歌っている。そんな時の経過を感じさせる場面もあった。流行をキャッチするのが得意であるのと同時に、時間に対する意識も強いのだと気づく。

乃紫 ライブ写真

 乃紫は世の中を冷静に見つめながら現代の恋愛観を切り取ってきた。それをいち早く嗅ぎ取ったティーンたちは彼女の曲を積極的にSNSで使い、それにより今度は私たちの元に何度も何度も曲が届く。そんなサイクルが目まぐるしく繰り返される。そうなることもわかっているからか、彼女の曲には刹那性や焦燥が付き纏う。若さや時代を消費していることにかなり自覚的な。

乃紫 ライブ写真

 とはいえそうした曲の数々もまた、時が過ぎれば今度は淡い輝きを放つことだろう。この日のライブを観てそう思った。トレンドに適合させた展開の中には、日本人に馴染みのある哀愁や切なさもふんだんに含まれていて、時代によって輝き方が変わるであろう強度がある。かつてタイアップソングとしてテレビで何度も流れた曲の中には今でも世代を超えて愛されているものもあるが、乃紫の曲はそのタイプだ。

乃紫 ライブ写真

 またそれはこの日のライブでより強調されていたように思う。今の彼女なりの反骨を感じさせる前半から、時間の移り変わりを見せる展開へと変わっていく流れは、乃紫が時代に消費されるミュージシャンではないということを象徴していた。

 最後に披露されたのは「1000日間」。〈人生の春なんて花びら一枚/風吹けば記憶の彼方/大人になったら気付けるよ/みんな大人のフリした子どもだと〉。“まさにその通り”と、大人と呼ばれる年齢になった筆者も思う。一方で、その言葉にまだピンとこないリスナーが、いつかこの意味を知るとき、当時とは違った曲に聴こえることだろう。そんなこともきっと乃紫の音楽は織り込み済みだ。

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