歌声分析 Vol.16:back number 清水依与吏 聴き手に寄り添う普遍性、“感情を浄化し、整理する場所”の提示
声区をまたぐ真骨頂、物語を拡張する歌唱技術
一方「大不正解」(2018年/映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』主題歌)では、別の側面が垣間見える。本曲はback numberの中では比較的ロック文脈寄りのアップチューンであり、譜割りも細かい。この曲で清水は子音のアタックを強くしすぎず、母音とのバランスを保ちながら歌うことで、言葉一つひとつに独特の丸みを与えている。同時に語尾を少し跳ねさせ、リズムを加えているのだ。歌い出しの〈僕等は完全無欠じゃ無い〉という部分だけでも、バラードやミディアムバラードとは明らかに異なるリズム感を見せている。さらに、一部のフレーズでは母音をあえて溶かすようなアプローチも展開。そのコントラストが楽曲のフックとなり、ロックナンバーの中にもback numberらしい色気を生み出しているのだ。
次は、最新曲「どうしてもどうしても」(2025年/NHKウィンタースポーツテーマソング)。Aメロにはケルティックな音階を使った軽快な跳ねがあり、メロディも細かく動く。清水はリズムに振り回されることなく、自然な流れの中で、歌によってメロディとスケール感を拡張させていく。Aメロでは中音域メインだった歌が、サビの〈どうしても〉から高音域に移行する構成で、声量も大きくなり、展開もドラマティックでわかりやすい。サビのブロックでは、地声、ミドルボイス、ファルセットなどが登場するが、その境界線が明確にはわからないのが清水依与吏というボーカリストの真骨頂。自然に声区をまたぎながら感情を運んでいくのだ。このアプローチができるボーカリストは非常に珍しく、清水の場合は活動を重ねるごとに、その精度にさらに磨きがかかっているように思う。
最後に、清水はメロディを“物語”として歌うボーカリストである。その魅力が最もわかりやすく表れているのが「水平線」(2020年/令和2年度全国高等学校総合体育大会[インターハイ]応援ソング)だろう。王道のバラードと言える1曲だが、派手なアプローチや大きな仕掛けがないシンプルな構成だ。Aメロでは、清水の一つひとつのニュアンスが楽曲の表情になっている。ブレスの量、声量、響きを少しずつ変化させながら感情を積み上げていく。そのため感情も地続きになり、聴き手の中で物語が紡がれていくのだ。
back numberの楽曲は、過去に想いを馳せる楽曲が多い。しかし、清水依与吏の歌声は、その過去を思い出にするのではなく、痛みごと現在へ持ち帰る力を持っている。未練や後悔という、本来なら前へ進むことを妨げる感情を、自然と受け入れられる感情へと変換してしまう稀有な歌唱スタイル。そこが、多くの人が自身の人生をback numberに重ねてしまう理由であり、彼らの普遍性だと言えるのではないだろうか。
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