Nakamura Hakが鳴らす、誰の色にも染められない自分だけの“白” 生身の歌声とギター1本で静寂を割いた初ライブ

 今春、TVアニメ『とんがり帽子のアトリエ』(TOKYO MXほか)のエンディングテーマとドラマ『るなしい』(テレビ東京系)のオープニングテーマに立て続けに抜擢され、その歌声に一気にスポットライトが当たった無名のシンガーソングライター・Nakamura Hak。デビュー前の活動の形跡はほぼ見当たらず、音楽シーンに突如現れた新星と言うほかない。1st EP『白は夢』の表題曲「白は夢」は、急上昇中のネクストブレイク楽曲が反映される音楽チャート『Billboard JAPAN Heatseekers Songs』で2週にわたって2位にランクインしている(5月20日付・27日付/※1〜2)。1st EP『白は夢』は5月20日にサブスク配信なし、フィジカルのCDのみの形態でリリースされた。レコーディングで無修正・無編集を徹底する流儀も併せて、無数の情報が入り乱れた時代に逆行するそのスタンスが、Nakamura Hakというアーティスト像を逆説的に際立たせている。

 そんな彼女の自身初となるオンラインライブが、5月29日、YouTubeを通して無料で生配信された。会場となったのは、東京・虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの46Fにある「TOKYO NODE HALL」。ビジネスカンファレンスに使われることも多いが、これまで[Alexandros]や新しい学校のリーダーズといったアーティストのライブイベントも行われてきた場所だ。ライブと共に都会のビル群の夜景を一望できるロケーションは、通常の会場ではまず味わえるものではない。タイトルは『TOKYO NODE × maximum10 pre. Plugless Live』。今回のライブでは、作品を完成させるまでに無修正・無編集を徹底するその思想がそのまま会場に持ち込まれた。マイクや電気楽器を一切通さず、アコースティックギターと生身の歌だけでのパフォーマンス。当日は筆者を含めた関係者のみが会場に集まったが、最低限の機材で音を拾って生配信するため、拍手や歓声を含めた一切の物音が禁じられ、張り詰めた空気が漂っていたのが印象的だった。

 暗転すると、フードを目深に被り、アコースティックギターを抱えたNakamura Hakが、スポットライトの当たる位置までゆっくりと歩いてきた。Nakamura Hakは「音楽と歌声が表現できることのすべて」という理由から、顔も素性も明らかにしていない。小さく静かな夜明けを思わせる登場で「十七」をぽつりぽつりと歌い始めた途端、客席とステージは不思議と別次元のように感じられた。次第に、アコースティックギターのストロークの振り幅が広がると、感情がむせび泣くように溢れ出し、その音がこちら側にまで満ちてくる。アコースティックギター1本というミニマル編成では、ストロークの強弱と歌の息遣いがそのまま感情のメーターになる。

 正直、意外だった。音源は声の質感や温度までを、生々しいままに真空パックしていたから、その歌声もまた、自身をむき出しに解き放っていくタイプだろうと踏んでいた。しかし実際の彼女は、内向的な光を放ち、自身の内側へと潜る。そういう歌を響かせていた。

 高層ビル群の屋上や角で点滅する航空障害灯の赤い光と、ステージ上のNakamura Hakの姿が、ふと曲の世界に重なったのは、歌い出しが〈ビルとビルの間の赤くなれない夕日が/僕を照らす〉というフレーズで始まる「白は夢」。アコースティックギターを爪弾く彼女の背後で、無数の赤い光が静かに瞬いている。その数だけ人がいて、一人ひとりの希望や期待が夜空に消えては、また新しい光が生まれていく現実がある。多くの人が、それぞれの痛みを抱えながらも、こうして光り続けることを選んでいる。Nakamura Hakもまた、その星々のひとつなのだ。自身を強調するでもなく、ただ平等に歌を客席へ届けようとしているかのような佇まいから、この世界の一部に触れた心地がして、胸の内がスッと救われた。

 アニメ『とんがり帽子のアトリエ』のエンディングテーマ「ただ美しい呪い」の〈「もう助けてよ」叫んでも/声は自分にしか聞こえない〉に滲む緊迫感から、この世界を鳥瞰した「砂のお城」。そこから、ドラマ『るなしい』のオープニングテーマ「善と悪」へ。黒、白、あるいは名状しがたい感情までを抱え込んだ歌は、ギターの乱雑なストロークによって一度ばらばらに投げ出され、最後にはひとつの大きな叫びの塊へと収斂していった。電気を使用しないプラグレスだからこそかもしれないが、声に微かに混ざる擦れや、フレーズ終わりでスッと音量を抜いていく所作が、歌詞そのものよりも雄弁に意味を補強していたのも印象に残った。Nakamura Hakの音楽は、共感や承認を求める歌というよりも、自分という一人の人間がここにいたという事実を、誰の反応も気にせず、ただ淡々と記録しているように思える。

 彼女が歌う理由への決定打となったのは、穏やかなピッキングで彩られた「夜に浮かぶ」。〈正しさで飛べ〉の澄んで伸びやかな歌声が、筆者の心に優しく降り立った。約30分、6曲を聴いて浮かんできたのは、恐らくNakamura Hakは、自分自身の正しさを保つために歌っているのではないか、ということだ。1st EPのタイトルに刻まれた「白」は、誰の色にも染められないまま、これからも彼女が自分のために歌う拠り所であり続けるのだろう。YouTubeでは当日のアーカイブ映像が公開中。6月13日には、早くも第2回のオンラインライブ「境界」の開催が発表されている。さらに、9月から来年1月にかけて、『白は夢』の購入者限定で全国11カ所・全12公演に及ぶ初のツアー『Plugless(Out-store)Live Tour「異端」』が予定されている。この閉ざされた空間から外へと広がっていくときの色は何色になるのか。そんなことを考えさせられた夜だった。

Nakamura Hak - TOKYO NODE × maximum10 pre. Plugless Live(2026.5.29 /// Archive)

※1:https://www.billboard-japan.com/charts/detail?a=heat_seekers&year=2026&month=05&day=25

※2:https://www.billboard-japan.com/charts/detail?a=heat_seekers&year=2026&month=06&day=01

突如現れた“生々しく無加工”な衝撃――Nakamura Hakの歌が浮き彫りにするもの つやちゃん、伏見 瞬、小町碧音が徹底論考

この春、無名の新人シンガーソングライター Nakamura Hakが突如としてデビューを果たした。リアルサウンドではライター3氏…

◾️セットリスト
01. 十七
02. 白は夢
03. ただ美しい呪い
04. 砂のお城
05. 善と悪
06. 夜に浮かぶ

◾️ライブ情報
2nd Online-Live『境界』
2026年6月13日(土)24:00 配信スタート
リンク:https://youtube.com/live/Gxi5V7KdTMo

関連記事