突如現れた“生々しく無加工”な衝撃――Nakamura Hakの歌が浮き彫りにするもの つやちゃん、伏見 瞬、小町碧音が徹底論考

 この春、無名の新人シンガーソングライター Nakamura Hakが突如としてデビューを果たした。

 加工や編集を一切施さない生々しいアコースティック音源を武器に、TVアニメ『とんがり帽子のアトリエ』(TOKYO MXほか)エンディングテーマや、ドラマ『るなしい』(テレビ東京系)オープニングテーマとしても楽曲がオンエアされ、早くも世間に衝撃を与えているNakamura。その正体は謎のベールに包まれたままだが、5月20日にはついに1st EP『白は夢』をCDのみ、デジタル配信なしでリリースし、さらに6月10日には1stシングル『ただ美しい呪い』のリリースも控えている。

 そこでリアルサウンドでは、ライター3氏によるクロスレビューを展開。それぞれの視点から、Nakamura Hakの現代性や特異性に迫っていく。(編集部)

「黒さすら、自らの美しい“白”の中へ取り込んでしまう」(小町碧音)

 全くの無名ながら、今春に「善と悪」がドラマ『るなしい』のオープニングテーマ、さらには「ただ美しい呪い」、「夜に浮かぶ」、未発表曲「光り」の3曲がアニメ『とんがり帽子のアトリエ』のエンディングテーマに起用されたシンガーソングライター、Nakamura Hak。彼女の音楽の特異性は、“1本のアコースティックギターと生身の歌”だけで成立していることにある。そして、録音はすべて一発録り。無修正、無加工、無編集。この徹底した制作スタイルが一体何を意味しているのか。その答えに迫るべく、5月20日にリリースされた1st EP『白は夢』へ耳を傾けた。

Nakamura Hak - 1st E.P.「白は夢」クロスフェード

 まず、『とんがり帽子のアトリエ』のエンディングテーマとして書き下ろされた3曲が、アニメの世界観や渡辺歩監督の意向に基づく絶望をテーマにしている一方で、『白は夢』は、そうした物語的な文脈から離れ、Nakamura Hak自身のアイデンティティを名乗る作品になっていた。

 Nakamura Hakは、『白は夢』で共通して生きにくい世の中を歌っている。そんななかで、作品全体にただ一本の糸が通っているとすれば、それは美しい白い糸だ。センチメンタルな響きを持った「十七」や「砂のお城」。純白な声色の隙間から現れた微かな息遣いの涙が、心に零れ落ちる。そうした繊細で美しい表現力も魅力のひとつだろう。しかし、Nakamura Hakの最大の武器は、美しいものをただ美しいまま肯定するだけでは終わらないこと。本来であれば、醜さとして切り捨てられてしまうような黒さすら、自らの美しい“白”の中へ取り込んでしまうところにある。

 たとえば表題曲「白は夢」では、〈白が似合う僕に 空が似合う僕に/なりたかった〉から〈真っ白なかすみ草が咲いた/真っ黒な土に 土に〉に着地し、自分が異質さゆえの疎外感を抱いているとしても生きていくという覚悟が歌われる。抱えている欠落感を、強さへと転換することができるのは、恥も、醜さも、衝動もフィルターを通さず、そのままさらけ出すという彼女の覚悟が軸になっているからだと思えてならない。そんな静けさの漂う「白は夢」とは対照的に、強烈なインパクトがあったのが、ドラマ『るなしい』のオープニングテーマ「善と悪」。獣性を剥き出しにしたボーカルが、黒い想像力を生々しい熱のまま暴れさせている。Nakamura Hakは、現実ではなれそうにもないものや、諦めるしかなかった感情を引き受けながら、歌という創作だからこそ辿り着ける豊かな表現を、繕うことなく『白は夢』の中へたっぷりと注ぎ込んでいる。

 そのうえで、テイク時の張り詰めた緊張感や感情、空気までもが、一発録りの音像という真空パックの中へそのまま封じ込められているのは、本作の強度を支えるファクターだ。解凍するたびに、まるで、今その場で歌われているかのような流動的なライブ感が立ち上がり、Nakamura Hakの歌に宿る覚悟を、いつまでも風化させないものにしていくだろう。

 Nakamura Hakの書く曲名には、「善と悪」「刃物と月」といった対比構造が一部で見られる。そのことを踏まえて『白は夢』を通して感じられたのは、白と黒を往復しながらも、その終着点には常に美しさが置かれているということだった。現実では、ときに、正しさはマジョリティによって決められてしまうが、その答えは、本当に正解なのかを疑っていたい。白に見えるものだけを肯定するのではなく、黒にも“美しさ”を見出していく。Nakamura Hakが『白は夢』で鳴らしているのは、そうした価値観の反転であり、正しさから零れ落ちた感情を拾い上げるための音楽なのだと思う。(小町碧音)

関連記事