荒谷翔大、孤独の先で自らの心が鳴る音を追求した意欲作 『TASOGARE SOUL』で掴んだ確かな手応えを語る

『TASOGARE SOUL』を形成する多彩な音楽ルーツ

ーーここまで話してくれた気持ちや考え方のすべてが繋がっている選択だったのだなと思って。自分で演奏も編曲もトライしてみたいと思ったのは、自分の心が音として鳴っているようなものを追求するためでもあっただろうし、このタイミングで音楽のインプットも改めてやりたいという気持ちも、孤独であっても自己責任ですべて自分で背負ってやってみたいっていう思いもあったのだろうし。

荒谷:すごく楽しかったですね。生き生きしてました。今までも楽しかったけど、楽しさの質が変わりました。

ーーどう変わりました?

荒谷:それこそ責任を背負うっていう意味で……自分でやれていないのに、誰かに任せるのは違うなっていう気持ちが、ずっとどこかにあったんでしょうね。でもやっちゃっていたので、楽しさがありつつも、ちょっとだけ後ろめたさみたいなものがあった。その後ろめたさを取っ払えたという、その違いでしょうね。

ーー何事においても「自分がやれないから人に任せる」というのと、「自分もやれることを人に委ねる」というのは、どちらがいい悪いとかじゃないけど、別物ですもんね。前半は1曲目から6曲目まででひとつの物語を描くような流れになっていて、7曲目からの後半はジャンルがバラバラな曲が並んでいる構成が面白いなと思っていたんですけど、それは歌謡、R&B、シティポップ、ベッドルームポップとか、各楽曲で自分のルーツを振り返りつつ、アレンジ面でもいろんなものをインプットしてアウトプットしたいという思いからですか?

荒谷:さっき言った『TASOGARE SOUL』を表現するという意味でも、自分のルーツを題材に、ジャンルに富んだものにしたいなとは思っていました。「Amber」は、実はロックな曲がけっこうルーツにあるので、それを前面に出したいなという思いで作り始めた曲で。Arctic MonkeysとかKing Gnuを意識しつつ、ギターフレーズも全体の雰囲気もお気に入りです。「Supernova」はSuchmosやArctic Monkeysをリファレンスにした感じがありつつ、Earth, Wind & Fireみたいな開けた感じも意識した、ロックチューン、かつ、踊れるダンスチューン。「Lovely Baby」は、桑田佳祐さんの「祭りのあと」にめっちゃハマっちゃって、ずっと歌っていた時に、こういう感じのビート感やコード感で自分なりの解釈で作りたいなと思って。大滝詠一さんのエッセンスも入れて、古き良きバイブスを詰め込むことを意識しました。

ーー荒谷さんの中にはHIPHOPの要素もすごくあるんだなっていうことも、このアルバムを聴いて思いました。

荒谷:俺もそれを再認識しました。正直、今まで全然意識してなかったんです。それこそArctic Monkeysにはめちゃくちゃ影響を受けている自覚があるんですけど、アレックス・ターナー自身がHIPHOPの影響を受けていて、その要素があるんだなとも思って。5lackさんとか、日本のHIPHOPも好きだし。D’Angeloとかも好きだから、がっつりHIPHOPではないけど、歌ものの中にラップみたいなノリがあるような詞のハメ方は、昔から好きなんだなって自覚しました。今作っている曲もそうですけど、HIPHOPの要素があった方が自分で気持ちいいな、しっくりくるなって思いますね。

歌詞から滲み出る荒谷翔大の“信じるもの”

ーー歌詞のことももう少し具体的に訊きたいなと思うんですけど、最後の「心」は、アルバムの前編と後編を締めくくるエンドロールのような曲であり、1曲目「黄昏ソウル」へと繋がる感じもあって、アルバムを表すテーマ曲のような存在感もあると思いました。「死と生」、「輪廻転生」みたいなことも歌詞から感じたけど、そこは意識してました?

荒谷:そうですね。「私を越えたところで、また会えるんじゃないか」という希望を持って生きないとなっていう想いもありますね。いつかはひとつになれるのかもしれないっていう希望のもと、生きられたらいいよねっていう。そういう自分の信じるものを、最後の「心」には投影しているかもしれないです。

ーー死後の世界で、別れてしまった人とも、現世では分かり合えなかった人とも、ひとつになれるかもしれない。そういうイメージがあるということですか?

荒谷:「心」っていうのは、もともとひとつとしてあるものだと僕は思っていて。それぞれの人にあるというより、「心」っていうひとつのものがあって、体をデバイスにしてそこにアクセスしている、みたいな感覚が僕はしっくりくる。もとはみんな一緒で、ただデバイスとしての体でそれぞれが存在していると思って生きた方が幸せだなっていう意味で信じているんですけど。「自分」っていうじゃないですか? 「自分」って「自を分ける」って書くから、「おのれ」というものはひとつなのかなって思う。だからきっと、体というものがなくなったら、結局ひとつで。

ーーうわ、「自分」の漢字の由来を考えたことはなかったです。確かに「おのれを分ける」って書きますね。

荒谷:僕的には「分ける」という感覚がすごくしっくりくるなと思って。その方が寂しさも捨てたもんじゃないなって思える。これもぶっ飛んでいる発想かもしれないですけど、自分が創造主や神様だったらーーもし「心」がひとつとして存在していたら、ずっと平穏だし、孤独なんてないかもしれないですけど、それ故に退屈でもあると思うんですよ。だから、あえて体というデバイスで心を分けることによって、体験できる感情や味わえる美しさを作ろうとするんじゃないかなって、そういう考えを勝手に信じていて。そういう意味でも、俺らはもともとひとつだけど、あえてそれを選んで、別れや出会いっていう儚さや美しさを楽しんでいるっていう。そう思う方が僕は生きていていいなと思うので。何を信じるかは自由じゃないですか。

ーーもちろん。世界をどう見るかも自分次第で、荒谷さんのその視点はめちゃくちゃ素敵だなと思ったし、荒谷翔大というアーティストが綴る歌詞の根底にあるものを聞かせてもらえた気がしました。

荒谷:それはバンドを始める前から思っていたことで、バンド時代もそういう思想のことを書いてはいたけど、ここまで曲に落とし込んでなかったかもしれないです。こうやって言葉にして話せるのは、一人になってより自分と向き合ったおかげかもしれないですね。特に「心」という曲には結構入れつつ、アルバムの他の曲でもちょっと見えるのかなって感じがします。

ーー自分をより掘り下げたのもあるし、きっとバンドだと個人の思想だけを強く歌いきれない部分もあっただろうから。

荒谷:いや本当、そうですね。この2年間でメンバーと会う機会もあったんですけど、それぞれ気を遣っていたんだということを言葉で知れて、「あ、そうなんや」みたいな。各々が気を遣って自分の色を変えていたのを、俺は気づいてなかったし、自分がそうしていたことにも気づいてなくて。それがわかったことはデカかったです。いい意味で影響し合っていたし、遠慮をしていたんだなって。それはバンドを離れて感じました。

『TASOGARE SOUL』で受けた刺激とマインドの変化

ーー別にyonawoというバンドに限らず、人と人が一緒に何かをやるという場面においては、そういうことが当然発生しますよね。でも今回、「黄昏ソウル」「Osmanthus」「disco」のミックスはyuya saitoさん、ジャケットは野元喬文さんにお願いしていて、yonawoのメンバーは荒谷さんにとって自分の大事な作品を託せる仲間なんだなって思いました。

荒谷:yuyaに関しては、Skaaiとやってる作品を聴いてやっぱりいいなと思った上で、ちゃんと本人と会って話す機会があって「もう一回託せるかも」という思いになれたので。最初は1曲だけお願いしようかなと思ったんですけど、めっちゃスムーズに行ったので、「じゃあもう1曲」って言っていたら3曲になりました(笑)。やっぱりyuyaの音作りが好きだなと思って。それこそ最初の1年は自分の軸がブレブレで、かつ、yonawoと比べられるから、正直「yonawoから離れたい」という想いがあったんですよね。でも『TASOGARE SOUL』というコンセプトもちゃんと作って、自分の芯となるものができたからこそ、これならyuyaが入ってもブレないという自信があったので頼めました。

ーーyonawoの脱退理由のひとつとして、自分の曲を大事にしてくれていないんじゃないか、同じ熱量を持ってくれていないんじゃないか、というジレンマがあったと思うんですけど、そこも解消できたんですね。

荒谷:そうですね。正直、最初はお試しな感じもありました。でもyuyaと話していて「変わったな」という印象が強くあるので、今後もミックスや録りからやってほしいなと思ったりはしています。でもyuyaはyuyaで、やりたいことをやれているんだろうなとも思うから。

ーーリリース後のライブツアー『荒谷翔大 Duo Grand Piano One Man Live』は、なぜグランドピアノでやろうと思ったんですか? 去年の『ひとりぼっちツアー』で「tokyo」や「丸の内サディスティック」(椎名林檎)をグランドピアノの弾き語りで歌われた場面は、今もすごく記憶に残っています。

荒谷:そうおっしゃってくれる方がいるし、自分もピアノで歌うのはすごく好きで。自分は歌にフォーカスして、誰かにグランドピアノを弾いてもらうという形のデュオをずっとやりたかったんですよね。玉置浩二さんとかもやられているから、いつかやりたいなあと思って。今回『TASOGARE SOUL』というコンセプトがしっかりあるので、音数が少ない編成で、歌や詞を届けたいなと思っています。

ーー『TASOGARE SOUL』というアルバムで編曲や演奏を全部自分でやる時期を経て、この先、どんな音楽が生まれてくるのかも楽しみです。

荒谷:全部自分一人でやるっていうテーマを達成できたから、次はいろんなプレイヤーや外部の刺激を入れてやっていきたいというマインドの変化がありますね。このアルバムができたから、ここでできなかったことをやりたいっていう、次の意欲に繋がっています。一人でやったからこそ、やっぱり人とやるのは楽しいし成長できるなって実感しているので、次はそれをやるのがすごく楽しみです。

『TASOGARE SOUL』

■リリース情報
荒谷翔大
メジャー1stフルアルバム『TASOGARE SOUL』
2026.04.17(金)リリース

〈収録曲〉
01.黄昏ソウル
02.東京
03.Amber
04.ピーナッツバター
05.Osmanthus
06.i miss you – Twilight
07.真夏のラストナンバー
08.Lovely Baby
09.disco – Tasogaression
10.Supernova
11.煌めきワンダー
12.夕凪小焼
13.i'm in love – Angel
14.心

■ライブ情報
『グランドピアノツアー「荒谷翔大 Duo Grand Piano One Man Live」』
6月6日(土)東京 BLUE NOTE PLACE 開場18:00 / 開演19:00
6月12日(金)大阪 島之内教会 開場18:00 / 開演18:30
6月13日(土)福岡 Gate’s7 開場18:00 / 開演18:30
URL:https://aratanishota.com/news/news-1580/

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