時速36km、『ONE PIECE』主題歌と共振したバンドの核心 ゼロ年代の文化を継承して描き出す“未来”

『ワンピース』主題歌「その未来」に詰め込まれた時速36kmの物語

ーー実際5年後、10年後にはどうなっていたいですか?

仲川:武道館をやりたいです。バンドが生き残るというのがどういうことかというと、緩やかに落ちていく人気に抗うために、それよりも速い速度で上昇するしかない。だからどうなっていたいかと言うと、無限に上を目指すという感じにはなるかなと。

ーー結成から10年、このバンドは飛び級のような何かに頼るのではなく、1歩1歩進んできたバンドなのかな、というのが私のイメージです。

仲川:まさにその通りかな。飛び級の何かなんてあればあるだけいいと思ってたけど、結果的にそうなったというか。

オギノ:確かにね。よく生き残ったな、というのが印象かな。

仲川:そうだね。ラッキーだったな。

オギノ:流れ弾に当たって死んでいった友達のバンドもいるし、自分から辞めてったやつもいるし、逆にわ!っと売れた同世代もいるし、なぜ我々はこんな牛歩でまだ生き残ってるんだろうと4人とも思ってます。

松本:でも、この10年間に必然性があるんじゃないの? たぶんこのペースでチンタラやってなかったら、もっと早くに解散か、もうちょい売れてたけど低空飛行で失速してるか、今よりも終わりが見えている状況になっていたと思う。このペースで10年続いてきたことに、必然性がある道のりだったとすごく思います。

オギノ:いいこと言うね。

ーー「その未来」の歌詞にも通ずる話ですね。自分の選んだ道が正解になるという。

仲川:そうっすね。「その未来」も『ワンピース』を意識して書きはしたんですが、それはそれとして、やっぱり我々の曲でないといけないから。そこでどういうことを思って書いたかっていうと、やっぱこの10年のことだったかなと思います。

ーー「その未来」の歌詞もそうですが、時速36kmは苦い現状認識やシビアな現在地への目線がよく歌われてると思うんです。しかしそれと同時に未来が開けていく様も描いていて、その対比がこの音楽の疾走感や上昇感を生んでいるように思います。

仲川:あえて暗いことを書こうとしてるわけでもなければ、あえて明るいことを書こうとしてるわけでもないんですがーーでも、そこは意識してるのかな。何か明るいことを書こうと思ったら、暗い側面というのは無視できないというか。トンネルを抜けた先の光が一番眩しいわけで、その眩しさを書こうとしたらやっぱりトンネルの闇を書かないといけない。

オギノ:それはふたりとも共通してることかもしれないですね。僕も作品の中で暗く終わろうとするのはやめてます。なるべく僕らの音楽を聴いて奮い立ってほしいというのが、直近5年ぐらいの我々の裏テーマだったりもするんですよ。音楽を聴いて救われようと思ってる人って、音楽を聴ける体力がある人だと思うんです。どん底にいる人は僕らがどんだけ頑張って助けようとしても、聴いてくれないから救えないと思っているので。だからこそちょっと頑張って手を伸ばした先にあるものの結論が絶望論なのって最悪じゃないですか。暗いことを言っても、最後の1行では絶望論みたいなものを入れないようにしています。

ーー奮い立ってほしいというのは、自分が聴いてきた音楽からも何か受け取ったものがあるからですか?

オギノ:そうですね。それこそゼロ年代のバンドが好きで、その世代の人たちに日々を彩ってもらったので。その人たちが作った市場や文化を継承して僕らがやっているのに、そこで受け取ったものを無視するのは、与える側の世代になったくせに無責任すぎるから。

ーー今日は「ゼロ年代」というワードが出てきますが、その時代のロックバンドからどんなところに影響を受けてると思いますか。

仲川:それもやっぱりオギノが言っていたことにも繋がるのかな。人間がやる意味、エラーすらパッケージするみたいなことだと思います。それは演奏的なエラーというのもそうだけど、歌詞とか思想においても、そんなこと言っちゃうんだみたいなこととか、あれは違うと思うよみたいなことも曲によってあると思うんです。でも、1個のバンドが間違っててもいいと俺は思ってて。だってこの世に何個音楽があるんだよって話だから。こういう気分の時はこれを聴いて、こういう気分の時はあれを聴いて、というのをみんなやってるわけですよね。その中で存在する価値は何かって言ったら、もう自分の視点から、めちゃめちゃ自分のことを言うっていう。受け取ったのが何かと言ったら、そういうところかな。ともすれば間違ってるかもしれないんだけど。

オギノ:そうだね、先輩をつかまえて身勝手というのも失礼だけど(笑)。歌詞や活動を考えてみると、みんな自分のことしか考えてないから。その中に多様性があったというか。

仲川:それを聴いて勝手にどん底に落とされたり救われたりしてね。なんかそれでいいというか、それでこそがいいというか。

ーー時速36kmとして、今後の活動で思い描いていることがあれば教えてください。

石井:絶対に武道館に立ちたい。それはみんな思っていることじゃないかな。それこそゼロ年代にやってたバンドたちが武道館に立っているのをど真ん中で見てきた世代ですし、すごくキラキラと輝いて見えたんですよね。

オギノ:たしかチャットモンチーが女性のロックバンドで最速で武道館をやったとか、俺たちはちょうど聴いてた世代だったんじゃなかったっけ? みんなこぞってやってたよね。BOØWYくらい売れたバンドじゃないとできないという存在から、もうここやんねえと始まんねえぞみたいな感じになったのがちょうど僕らの世代だったかもしれないですね。

松本:最近の周りのバンドを見てると、昔思い描いてたステージよりも武道館がちゃっちくなっちゃったような悲しさがあるんですよね。ちょっと言い方が悪いんですけど、あんまり憧れの舞台じゃなくなってきてるのかな。でも、僕らの中ではそれを通過点として単純に飲み込みたくなくて。いつかあの場所でライブをやることに説得力を持たせられるように、ちゃんとこの2、3年でレールを敷いていけたらなと思います。

オギノ:同世代のバンドと1個時代を作るような活動をしていきたいです。いろんなジャンルが流行っている中で、ロックバンドとしての復興を目指すなら僕らだけでは難しいと思うから。同世代とかちょっと上、ちょっと下の世代と一緒になって、今の中高生たちがバンドをやろうと思えるような時代であったと、20年後に振り返ってもらえるような時代に俺たちがしないといけない。僕らは10年やってきて、なまじかいろんなところに呼ばれてるおかげで、いろんなジャンルのバンドに知り合いが多いんですよね。なので起点となれるバンドのうちのひとつは、もしかしたら俺なのかもしれないなってちょっと思ったりもしますーーあんまり勢い悪くないかもなって、マジでここ1年くらいは思ってるんで。僕らだけじゃなくて周りも含めて、前ほど無視されてないかもってちょっと思っています。

ーーたとえばブラックミュージックやシティポップ、ヒップホップの勢いに押されていた時期もあると思いますし、ロックバンド自体が逆風の10年だったかもしれないですね。

オギノ:そう思います。ヒップホップの台頭に始まり、アイドルの第2次戦国時代やシティポップ、あるいはバンドなのかソロアーティストなのかちょっと怪しいところの音楽とか、そこにボカロも入ってきてすごい10年間だったなと思うんですけど。その10年に比べると、2025年はマシだったんじゃないのかなって。その波を掴めたらなと思います。

仲川:俺もオギノが言ってることと結構近いのかな。やっぱりロックバンドとして確立したいというか。俺がバンプを聴いて志したように、10年後、20年後にあれがあったからバンドを始めたっていうやつが出てくるような、アイコンになるようなバンドになりたいとも思います。そしてそれを達成するにはどうするかっていうと、やっぱさっき言ったように間違ったことを言い続けたいんですよね。

ーーいいですね。SNSを見てると、間違ったことを言ってはいけない空気が今ほどある時代はないと思います。

仲川:そうですね。間違ってること、正しいことは自分で決めりゃいいから。外しちゃいけねえっていう、それが嫌なんですよ。なんだよこれ? と思われるようなことも言いたいし、そういうやつらがどういう時に輝くかって思ったら、他にもいろんな変なことを言ってるやつがいる場合だと思う。だからみんなと一緒にやらないと意味がないんですよね。もしそれをシーンと呼ぶなら、シーンを作りたいっていう感じになるかな。こんな時代なのに珍しくロックバンドとしての矜持を持っているやつらがすごくいるような気がしていて、そんな中で僕らはバンドとして確立したいです。

■リリース情報
時速36km『その未来 / ハロー』
配信:https://36kmperhour.lnk.to/Future_

■ライブ情報
時速36km presents 『時代』
開催日:2026年4月24日(金)
開演:18:00
会場:東京・代々木公園野外ステージ
観覧無料

■関連リンク
HP:https://www.36kmperhour.com/
YouTube:https://www.youtube.com/@36km_per_hour
X(旧Twitter):https://x.com/36km_per_hour
Instagram:https://www.instagram.com/36km_per_hour/

関連記事