vistlip「夜明けに向かっていく決断ができた」 19年の航海と解放のアルバム『DAWN』を語る

ひねりを入れない挑戦「どこか懐メロっぽく、J-POP歌謡みたいなテイストで」

――ひとつのキャラクターを軸にして描かれている「Midnight Crown」は、物語性とリアリティが入り混じった詞が特徴的で。智さんらしいシニカルな表現もありますし。

智:前から鴉っていう生き物に対して強い興味を持ってたというのもあるんですけど、夜明けとか夜をテーマにしたアルバムなんだし、ここで鴉の詞を書いておこうと思ったんです。この音の雰囲気は、夜が明けていく時に烏が一斉に鳴き始めるあの様子と合うなと思って。

――〈僕も黒く紛れて居たい。〉というところは、智さんの心情が表われている言葉でもあるように受け取れて。

智:昔からずっと言っていることでもあるんですけど、僕、もともとあんまり目立ちたいほうでもないから(笑)。

――本音から生まれた詞ということですね。その点では、〈僕もこんな夜を越えて行けたらいいな。〉という歌詞からは、前向きで素直な想いを感じることができます。

智:そのあたりの言葉はラストの「Drawing Dawn」の詞で回収してたりもします。

――わかりました。「Midnight Crown」はTohyaさんが作られていますね。この曲の成り立ちはどのようなものでしたか。

Tohya:これはRPGで言うと、青白い洞窟の壁に水晶っぽいのがいっぱいあって光ってるシチュエーションというか。きれいなタイプのダンジョンで流れてそうな曲というイメージで作っていきました。自分の好きなように作ったから、狙ってない曲ですし、アルバムだからこそ入れられるタイプの曲になった気がします。サビの後半でリズムパターンが変わったり、だいぶはちゃめちゃにやってるんですけどね。意外にも、海が「すげえいい!」って気に入ってくれました(笑)。

Yuh:僕もまず弾きたいことを弾いて、隙間に海が音を入れていく感じでアンサンブルを構成していって。情景の部分では、水中っぽい印象をイメージしてましたね。キラキラしてて、きれいで透明感がある、みたいな。Tohyaの水晶のイメージともそんなに遠くなかったと思います。水中の泡をギターの音で表現することができたらいいなと思いながら弾きました。

Photo by Lestat C&M Project

――それから、「Last Order」。この曲はサウンド面で画期的なアプローチがあるのに対し、歌詞はどこか小説のような行間をも読ませる作りが印象ですね。

智:これも実体験なんですよ。別に恋愛は絡んでいないんですけど、中高生の頃に夜中に友達とふたりでよくいて、話の聞き役になっていた時のことを思い出しながら、物語として恋愛に落とし込んだ感じです。あの時、もし恋愛が絡んでたらこんな気持ちになってただろうな、っていう。

――青春の一場面ですよね。個人的には〈氷で薄まったこの夜とコーヒーが/寝惚けたこの目を醒ましてくれる。〉という部分が特に好きです。

智:ありがとうございます。

――繊細な心模様が描かれているという意味では、海さんが作曲した「Melt Away」も音と歌詞が素晴らしい噛み合い方をしていますね。

智:この曲を初めて聴いた時、卒業式とかでの桜の情景が浮かんだんですよね。なので、普段だったらあんまり書こうとしないベタな歌詞をあえて書きました。この曲なら、どこか懐メロっぽく、J-POP歌謡みたいなテイストでいけるかなと思って。自分としてはひねりを入れずに書いたので、それはひとつの挑戦でしたね。

――〈憂鬱で寂しい春が突き刺さった。〉〈残酷で優しい春が突き刺さった。〉は、沁みる歌詞です。

智:春ってそういうものかな、って。季節の花は時限式装置みたいなとらえ方もできるじゃないですか。ヴィジュアル系でありそうなパターンだと、たとえば〈あの桜が咲く頃に僕はもういないだろう〉みたいな?

Tohya:それ、誰の曲ですか(笑)?

智:いや、誰のでもないと思う(笑)。でも、ベタな桜の情景と、そういう季節の花が時限式装置になり得る残酷さを両立させた歌詞にしたかったんです。

――そういう曲がある一方で、「ドクガエルとアマガエル」は詞がとてもフィクション性が高いですよね。以前、「UNLOCKED」ではアイオライトとライオライトを対比させていましたが、ここでドクガエルとアマガエルを対比させた理由は何だったのかも気になります。

智:最近で言うと「Bedtime story」もそうだったんですけど、歌詞を絵本っぽく仕上げるのが好きなんですよ。これはドクガエルとアマガエルが出会うところから始まる物語として、まず最初に絵本チックな文をバーって書いて、そこから言葉を拾っていって、歌詞にまとめていったんです。ドクガエルとアマガエルは一緒にずっといるんですけど、アマガエルはドクガエルに触れると死んじゃうわけじゃないですか。だけど、ある時大雨が降って洪水がくるんです。流されて溺れそうになったドクガエルをアマガエルが助けるものの、アマガエルはドクガエルに触れたことで死んでしまいました――っていう物語ですね。

――なんとも切なすぎます。「Wait for Me, My Ghost」の詞も、胸がきゅっと締めつけられました。

智:これとは別で、もっと遠回しの表現で書いた詞も用意したんですけど、エンジニアとTohyaに相談したら「智の純粋な気持ちを優先したほうがいいよ」って言われたこともあって、最終的にこっちの詞にしたんです。

――これを曲としてかたちに残したことには大きな意味があると思います。

智:本当にそうなんですよ。この歌詞で救われる人がいたら嬉しいです。

――「Wait for Me,My Ghost」は、美しいきらめきをたたえているところに、Tohyaさんならではのメロディセンスを感じました。

Tohya:この曲はアルバムを作り出すよりも前の段階で、智が「こういう曲がほしい」っていうリクエストをくれて、そこから作った曲でしたね。今回は瑠伊がいろんな挑戦をしてくれてるけど、この曲は今までvistlipを聴いてくれていたファンのみんなに「よかった、vistlipは変わってない!」って安心してもらえるような立ち位置の曲にしていこうと意識して作りました。

Yuh:この曲は、とにかく曲のよさを活かすためのフレーズと音色を中心に考えながらアプローチしていきました。僕もこの曲に対してはきれいでキラキラした雰囲気を感じていたので……たとえば、Janne Da Arcさんの「桜」だったり、小田和正さんの「ラブ・ストーリーは突然に」のイントロで鳴るあの有名なギターフレーズとか、ああいうクリアな音を自分なりに作ってみた感じですね。

Photo by Lestat C&M Project

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