稲葉浩志、『WBC』応援ソングで「タッチ」をカバーした意味 侍ジャパンと重なり合ったロックスターの姿
野球の世界大会、『2026 ワールドベースボールクラシック』(以下、『WBC』)が3月18日(日本時間)に閉幕した。2度目の連覇を目標にしていた侍ジャパンは、大谷翔平選手、山本由伸選手、鈴木誠也選手らメジャーリーガーを8人揃えて“過去最強チーム”と期待を集めたものの、15日(日本時間)に行われた準々決勝のベネズエラ戦に敗れ、ベスト8という成績に終わった。
それでも選手たちのプレーは私たちを熱狂させ、大きな感動を与えてくれた。イタリア代表の躍進などからは世界全体で野球のレベルが向上していることを実感させたほか、日本のみならず強豪国・キューバが早々に散ったことから「スポーツに絶対はない」という勝負事の厳しさと怖さも、改めて認識させられた。
稲葉浩志が歌う「タッチ」が大会にもたらしたもの
そんな『WBC』を独占配信したNetflixによる日本国内でのライブ配信時の大会応援ソングとなったのが、稲葉浩志が歌う「タッチ」だった。同曲はもともと、あだち充原作の野球と青春を描いたマンガ『タッチ』(小学館)のアニメ化に際して制作された主題歌。作詞は康珍化、作曲は芹澤廣明が担当し、岩崎良美が透明感あふれる声で歌い上げた。〈呼吸を止めて1秒/あなた真剣な目をしたから〉という歌い出しは、物語の核心に触れているようにも感じられ、登場人物たちの青春がいかに特別な瞬間であるかを、その一節と緊張感が混じる歌声で表現されている。
野球の定番曲として広く知られる「タッチ」のカバーアーティストに稲葉が抜擢されたのは、意外な起用だったかもしれない。ロックのイメージが強く、強烈なハイトーンボイスを放つ稲葉が「タッチ」を歌う姿は、筆者自身も想像がつかなかった。ただ、『WBC』の開催が近づいて稲葉が歌う「タッチ」を実際に聴くと、原曲とは異なった魅力をそこには感じられた。
稲葉のハイトーンは、侍ジャパンが世界大会特有の緊張感を打ち破りながら躍動する姿にぴったりだった。サビの〈タッチ タッチ/ここにタッチ〉のパートも、原曲の岩崎の歌唱は爽やかでみずみずしい感触がある一方で、稲葉のカバーは、世界一を獲ろうとがむしゃらに手を伸ばす侍ジャパンのメンバーのパワフルさを連想させる。稲葉のカバーは、原曲の魅力を引き継ぐだけでなく、新たな解釈も加えながら曲の世界観を表現していたと言っていいだろう。
サザンオールスターズ、MISIA……キャリアを重ねたから生まれる大会への説得力
稲葉のようにキャリアを積んだアーティストが、こういったスポーツの世界大会の日本国内向けのテーマソングを担当することの妙は、どんなところにあるのだろうか。
たとえば、サザンオールスターズは2024年の『パリ2024夏季オリンピック』をはじめとしたTBS系スポーツ2024テーマ曲を「ジャンヌ・ダルクによろしく」、2014年と2018年の『アジア大会&世界バレー』のTBS系テーマソングを「東京VICTORY」が務めた。どちらも選手たちが栄冠をつかもうとする様子や、そこに至るまでのメンタリティなどの背景を思わせるナンバーだった。
また2023年の『ラグビーワールドカップ』では、NHKラグビーテーマソングとしてMISIAがRockon Social Clubとコラボした「傷だらけの王者」がセレクトされた。屈強な肉体が激しくぶつかり合う競技性や過酷な練習の日々などが曲の中に込められていた。
これらの楽曲は競技内容とリンクするのはもちろん、稲葉、サザンオールスターズ、MISIAのような国民的人気を誇るアーティストが歌うことで、競技の結果だけではなく、大会そのものの記憶が“時代の風景”のように刻まれるのだと思う。スポーツの世界大会は、世代を超えて、長く広く共有されるビッグイベント。彼らのようにさまざまな世代に愛され、長年にわたり支持されてきた演奏と歌声が重なることで、普遍的な臨場感を放つのではないだろうか。
そう考えると、今回の『WBC』で稲葉が「タッチ」を歌った意味も見えてくる。侍ジャパンにとって、そして応援するファンにとっても、ベスト8という悔しい結果に終わった2026年の『WBC』の記憶。ただ、この経験をバネに日本の選手たちがさらに力をつけていけば、稲葉がアグレッシブなアプローチで歌った「タッチ」が、今回の大会を象徴する一曲として、改めてクローズアップされる日がやってくるのではないだろうか。