上野皓平、新たなスタート地点で歌う“愛”のあり方 ソロ1st EP『Silver Lining』で描く渇望と光
歌を歌うきっかけになった祖母との別れ……「正直、パーソナルすぎるとも思った」
――たしかな信頼のうえで、EPを構築していくことになるんですね。「All Your Love」は、どういったところから着想を得て制作されたものなんですか?
上野:この曲は、もともと提供をする予定で書いた曲なんですけど、ストックに眠っていたところを阿南さんが選んでくれて。最初のアレンジではラテンっぽいサウンドアレンジを施してくれたんですけど、今の自分にはラテンのイメージがつかなくて、あらためて「こういう方向性でやっていきたい」と自分の入れ込みたい要素を伝えて。そこで上がってきたのが、「All Your Love」の原型となるデモでした。それがすごくかっこよかったんですよ。歌詞も最初は提供するつもりだったので、一対一の男女の恋愛を描いたものだったんですけど、阿南さんのアレンジから自分が歌うイメージをあらためて構築していって。当時ちょうど読んでいた本がSFだったのでその世界観もありつつ、「愛だよな」と自分が思うようなことも表現しました。昨年末から、「自分はこれまで与えてもらうことの多い人生だったな」と気づいたんですよ。だから、「これからは自分から与えられる人になりたい」という今年の目標を立てて。そういうこともメッセージに入れ込みたいなと思って、歌詞を書いていきました。
――最初はどんなサウンドを求めていたんですか?
上野:シンプルなバンドサウンドというのが、大きくあったかもしれないです。ラテンはラテンでかっこよかったんですけど、メロディと歌詞がいちばんスッと心に入っていきやすいのはバンドサウンドなんじゃないかな、と。そういうイメージを手探りではあったんですけど、そのまま阿南さんに伝えました。
――功を奏していると思います。ちなみに上野さんは、曲を書く時、どのように進めていかれるんですか? 今のお話だと、自分の手の届く範囲のものを集めて作品を作るのかなと思ったんですけども。
上野:完全にそうですね。作り方に関しては、その都度変化はあるんですけど、いちばんデフォルトな作り方は、ギターを弾きながらメロディを適当に口ずさんで、コードとメロディーの組み合わせでいいなと思ったものをストック。もし同時に歌詞も出てきたら一緒に録音して、そのまま歌詞とワンコーラスぐらいがパッとできることも稀にあります。大体は、コードとメロディだけ録音して、その時漠然と考えてることや何か書きたいなと思っている曲のテーマみたいなところをぶつけていくことが多いですね。ただ、提供曲は少し異なる作り方をしていて。ループ音源をサイトから引っ張ってきて、そこからインスピレーション得て世界観を広げるみたいな曲の作り方をしているんです。「All Your Love」はその作り方で最初のデモを作りましたね。
――面白い作り方ですね。
上野:もとからあるフレーズに乗っかって作っていくので、いつもの作り方とは少し異なった出来になるんですよね。とはいえ、メロディには自分の手癖が反映されますし、ただ、このバランス感がちょっと新しいと思っていて、ここ一年くらい提供曲ではこの作り方をしているんです。この方法をやり始めたのは、本当に行き詰まった結果なんですけどね(笑)。
――そうなんですか。
上野:自分の手癖から抜け出せないなと思った瞬間があったんですよ。イメージはあるんだけど、それを自分の引き出しでは出せないと思った時に、ループをバーッと聴いていったんです。そこから「この雰囲気いいかも」と当てはめていったら、自ずと引き出しも増えていった感覚があって。作り方として、普段から自分も何か新しいことに挑戦したいという気持ちは常にあるから、提供曲の時は、このやり方にトライしようと思ったんです。
――なるほど。続く、「Self Timer」も阿南さんセレクトですね。
上野:「Self Timer」は、一昨年の年末ごろに作っていた楽曲で。SNSで、自分が公園で弾き語りしてる動画を上げていたりしたんですけど、そこからライブでも頻繁にするようになって。ライブではルーパーを使ったアレンジをしていたなかで、阿南さんはそういう背景を知らずにこの曲を選んでくれました。「こういうイメージが上野くんにはある」と話してくれたうえで送られてきたデモがめちゃくちゃよかったんですよ。自分はギターだけのイメージだったんですけど、そこに鍵盤が乗るだけで自分の持っていた世界観よりも何かの情景が見える感じになった。だから、この曲に関しては何もリクエストすることなく、ただよりよくするために一緒にアイデアを出し合って完成しましたね。
――情景で言えば、今作はすべての曲で情景が見えますよね。
上野:そう言ってもらえて嬉しいです。
――上野さんもそこを意識しているんじゃないかなと思ったんです。歌詞のなかにも実在する名称が出てくるじゃないですか。リスナーにも想起させやすい言葉と、そこに乗っかるサウンドスケープで情景を見せるというか。そこは意識されていますか?
上野:そこは大事にしています。でも、あまり意識はしてないんですよ。そのマインドは、自分のなかに刻み込まれているものというか、当たり前に楽曲に付加するものだと思っているから。
――その情景を見せるということが、今後の上野さんの色になっていく気がしたんですよね。あと、これは完全に私感なんですけど、「これから僕はこういう曲をやっていく」「こういう曲もできる」という意思表明的な作品だとも思っていて。だからこそ、内包される楽曲に幅を持たせたのだろうな、と。そこも無意識ですか?
上野:そうだと思います。でも、結果的にそうなった、という部分はあるかもしれないです。CD限定のものも含めて6曲、自分が「この6曲でいきます!」と決めたわけではないし、阿南さんに選んでもらった曲もあります。そのなかで、曲の世界観や伝えたいことを第一にそれぞれを考えた結果、この6曲になっている。最終的には、ジャンルもいろいろ混在していて、伝えたいテーマは伝えることができたんじゃないかなと思ってます。あとは、僕の表現の根幹には自分のメロディと歌があると思っているから……「ジャンルや曲調に振れ幅があってもやれるんだぜ」という気持ちはたしかにあったのかもしれないですね(笑)。
――その根幹がブレないから、ここまで自由に音を奏でてもひとつの作品群としてまとまりがあると思うし、表現者として新たなフェーズに行き着いた気がします。
上野:ありがとうございます! 嬉しいです。
――「Grandma」は、個人的にすごく好きな曲で。上野さんのマインドの原点回帰というか、幼少期に歌うきっかけを与えてくれたおばあさまのことをこのタイミングで歌にするって、何か運命的なものを感じたんです。
上野:このEPのなかで、最後に作った曲なんですよ。一昨年の年末頃に祖母が亡くなって。もちろん、お葬式で顔を見てお別れをしているはずなんですけど、この世界に祖母がいないことに実感が湧かなかった。昨年実家に帰って、祖母と散歩した場所を歩いてみた時に、ようやく「もうおらへんのか」と実感が湧いてきて、そこから徐々に自分の中で消化していった感情があったんですよね。振り返ると、自分が歌を歌うきっかけになってるのは祖母だから、自然と歌詞も書けましたし。正直、パーソナルすぎるとも思ったんですけど、スタッフさんたちにもこの曲がいいと背中を押してもらいました。結果的にソロ活動をスタートして、最初のまとまったEPのなかにこの曲が入るということは、自分にとっても結構大きな意味を持つし、よかったなと思ってますね。
――「夜を越えて」からの「Grandma」という曲順も素晴らしいです。
上野:表現の鮮明度というか、そのグラデーションがこの2曲にはありますよね。