東日本大震災から15年、“世代を繋ぐ役目”の大切さ 東北ライブハウス大作戦・西片明人が語る復興支援の歩み
「人と街と世代を橋渡しできる『場』」の芽生えを感じた15年
ーーそして2012年10月には3店舗目の石巻 BLUE RESISTANCEができました。
西片:石巻 BLUE RESISTANCEは、のちに幡ヶ谷再生大学のリーダーになる木村ゆかりさんという方から「石巻でもライブハウスを作りたいという動きがあるんですが、何か力になってあげられないですか」という打診を受けたことがきっかけです。石巻にはもともと石巻La Stradaというライブハウスがあったんですが、津波で大きな被害を受けてしまって。それを立て直すつもりで石巻に行ったら、ちょうど別の物件を借りて始動し始めたところで。「じゃあ僕は撤退して、支援に回ろう」と思ったタイミングで、今支部長をやっている黒澤英明が「大きい音を出せるライブハウスを作りたい」と言ってくれて。そこで石巻にも作ることになりました。
ーー3店舗の立ち上げも大変だったと思いますが、その後15年継続してきたのも大変だと思います。この15年のなかで特に印象的だった出来事や、うれしかったことは何ですか?
西片:気仙沼で開催されている『気仙沼サンマフェスティバル』というフェスがあるんですが、そこでさっき話した「人と街と世代を橋渡しできる『場』」の芽生えを感じた出来事があって。ライブハウスができてすぐのときにASPARAGUSの一瀬正和がドラムのワークショップをしに行ってくれていたんですが、そのワークショップでドラムを習いにきていた中学生が、その後バンドを組んで、2023年の『サンマフェス』でMONOEYESと共演したんですよ。それはうれしかったですね。それが『東北ライブハウス大作戦"LIFE"2026』の東北・金沢編にも出るFUNNY THINKです。
ーーそれは関わった全員がうれしくなる出来事ですね。
西片:はい。しかも、予算がないのでステージは大船渡 KESEN ROCK FREAKSの店長の千葉裕昭の手作りで、楽器は石巻 BLUE RESISTANCEから持ってきたもの。そうやってできたステージで、当時中学生で一瀬に習っていた子が、一瀬と対バンした。自分で掲げた「人と街と世代を橋渡しできる『場』」が少し形になったのかなとうれしかったですね。よく「ライブハウスがオープンできたときはうれしかったですか?」と聞かれるんですが、実際はそうでもないんですよ。「これからが大変だ」と思っていたから。だからオープンして10数年経って、この繋がりが生まれたのは本当にうれしかったです。
ーーそうですよね。
西片:もう一つ、これはちょっと個人的なことになってしまうのですが……2012年の3月に、東北ライブハウス大作戦の名前を冠して全国から絵本を送ってもらったことがあって。それをハイエースにパンパンに詰め込んで、小学校と幼稚園を20カ所くらい回ったんです。宮古、大船渡、気仙沼だけじゃなくて、沿岸部の小さい街もくまなく回って。その本を受け取った子が、高校生になって『サンマフェス』に来てくれたんです。親御さんが東北ライブハウス大作戦のブースにきてくれて「10数年前に絵本を受け取った者です」って。『サンマフェス』はそういう繋がりをたくさん見られる場所になっていますね。
ーー「15年間の中で特に印象的だったことは何ですか?」という質問の回答が、「ライブをやって地元の人に喜んでもらえた」といった出来事でなく、「繋がってきている」といった実感であることに、東北ライブハウス大作戦の大きさや、その代表としての西片さんさんの責任感を感じました。
西片:そうですね。伏線を張っていたわけではないですが、「繋がっていく」というのは、こういうことなんだなと実感できたことがうれしいですね。震災では、離れ離れになってしまうことのほうが多かったと思うので、繋がりが生まれることに意味がある。実際、うちの社員も東北で知り合った方と所帯を持ちましたし。
ーー素敵ですね。それこそライブハウスで出会ったり、3つのライブハウスを通してバンドと出会ったりした人もたくさんいらっしゃるでしょうしね。東北ライブハウス大作戦では、今回のイベントにも出演するバンドなど、パンクバンドが多く賛同しています。パンクバンドや、パンクバンドマンの魅力を西片さんはどのように感じていますか?
西片:信念を感じます。それに、すごくピュアでまっすぐな感じがします。ライブハウスにいるお客さんの数が多かろうが少なかろうが、手抜きをしないとか、自分のやっていることをすべてにおいてごまかそうとしないとか。たぶんすごく不器用だとは思うんですけどね。不器用だけど、自分がやると決めたことに関しては信念を持っている。それはジャンルに限らず、なんなら音楽じゃないところでも言えること。例えばHIPHOPでもスポーツでも、何かを突き通している人はカッコいいなと思うし、本物だなと思います。
ーー西片さんもそういう考えを持っている方なんでしょうね。
西片:どうですかね。でも確かに、進める上で頭が固すぎて反省したことはありますね。例えばライブハウスを作る上で、スポンサーを募らずにお金を集めようとしたことがあって。というのも、スポンサーをつけて、ライブハウスにその会社の名前を書かれると、ライブハウスにお酒を入れてくれる街の酒屋さんが、それでは生計を立てることができなくなる。そういうことはやってはいけないと、僕は当たり前に思っていて。だからお金を集めるためにグッズを作ったり、「木札作戦」として全国の皆さんからの支援を募ったりした。そうやってみんなで作りたかったし、僕の中では丁寧に作ったつもりですけど、下手なやり方だったのかもしれないなと思います。普通に作るより時間がかかったかもしれないし。
ーー先ほど西片さんが、パンクバンドに対して「不器用だけど、自分がやると決めたことに関しては信念を持っている」とおっしゃっていましたが、まさに西片さんもそうですね。
西片:そうですね。下手くそと言われたらそこまでなんですけどね。
「もう一度、東北ライブハウス大作戦とは何かを知ってもらいたい」
ーーそして3月10、11日には神奈川・ぴあアリーナMMにて『東北ライブハウス大作戦"LIFE"2026』が開催されます。これはファンドレイジング・イベントということですが、改めてどのような思いで開催に至ったのか教えてください。
西片:コロナ禍以降、どこのライブハウスも経営が厳しくなりました。東北ライブハウス大作戦の3店舗も、コロナ禍が明けてから経営が傾きっぱなし。だから3店舗の経営を助ける意味でファンドレイジング・イベントを、細美武士とともに企画しました。これで集めたお金で実際に立て直せるかは各店舗の力量にかかってくると思いますが、今回はその起爆剤であり、けじめでもあり。いろいろな意味を持ったイベントになります。
ーーファンドレイジング・イベントという名目ですが、来るお客さんにとってはどのようなイベントになってほしいと考えていますか?
西片:今や東北ライブハウス大作戦が何なのかということをあまり理解せずにグッズを身につけている人も多いと思うんです。そういう人たちに、もう一度、東北ライブハウス大作戦というものは何かを知ってもらいたいですね。もちろんライブは楽しんでもらいたいですけど、改めて東北ライブハウス大作戦とは何なのか再認識していただけるイベントになればいいなと思っています。YouTubeでは3地域の支部長にも集まってもらって、いろいろと話をしているので、そちらも見てもらえるとうれしいです。
ーーさらに3月13日~17日には、宮古、大船渡、石巻、そして能登半島地震で大きな被害を受けた4都市のライブハウスで「東北・金沢編」も行われます。
西片:このツアーは僕から提案させていただきました。大船渡出身のFUNNY THINK、石巻出身のメンバーがいるcarabina、東北南部・いわき出身のureiという、東北出身の次世代バンドで3地域を回ってもらいたくて。さらに、まだまだ復興とは程遠い石川も回ってもらいます。さらに各地、ヘッドライナーとしてHAWAIIAN6、the band apart、ASPARAGUS、MONOEYESに出演してもらって、世代を繋げるという意味も込めたツアーです。
ーー「石川は復興とは程遠い」とおっしゃっていましたが、そういう土地にバンドが行くことや、そういう街のライブハウスで音を鳴らすことの意味や役割はどのように感じていますか?
西片:まずは単純にその街の人たちに元気になってほしいから。あとは「金沢まで行ったら、能登まで足を運んでみよう」と思ってくれる人が、本当に数人でもいてくれたらうれしいからですね。テレビやいろんな媒体で見るものと、実際に自分の目で見て得るものって全く違うということを、自分が東日本大震災で体感したので。能登は発生からもう2年経っていますが、正直当時のまま何も変わっていない場所もあると思うし。そもそも被災地に限らず、ライブというものが、いろんなところに行くきっかけになるだけでもいいと思うんです。僕が宮古のライブハウスを作ったのは、震災以前に行ったときの繋がりがあったからで。僕は仕事柄、全国各地を回っていますが、震災が起きて、知っている街が変わり果ててしまうことが一番強烈だし、だからこそ何かしたいと思う。今回は宮古、大船渡、石巻、金沢を回りますので、これをきっかけにぜひ足を運んでもらえたらと思います。少しでもお金を落としてもらえればその街自体も元気になると思うので。
ーーでは最後に、東北ライブハウス大作戦の今後の展開を教えてください。
西片:グッズ販売はもう少し継続していきますが、募金は早い段階で受け取らないようにしていたんです。なぜかというと、3店舗とも東北ライブハウス大作戦の冠の下でなく、自立した店舗になってほしいから。東北ライブハウス大作戦としての支援は、肩に回していた手をほどいて、背中を押してあげること、そしてそれぞれが自分の足で歩いていけるようになるまでだと思うので。その手をいつほどくかはまだ見えていないですが、そこまではしっかり支援するのが東北ライブハウス大作戦の真意だと考えています。あと、東北ライブハウス大作戦の映画の第二弾が現在制作中なので、こちらも楽しみにしていただけたらと思います。
東北ライブハウス大作戦“LIFE” 公式YouTubeチャンネル