初音ミク関連ライブの新潮流 『デコミク』『ポケミク』ら解釈の多様化に表れる文化の成熟と寛容さ

“デフォルトの初音ミク像”ではない初音ミクらによるライブの可能性

 電子の歌姫として、VOCALOIDという音楽ジャンルの黎明期から多くの人々を魅了し続けてきた初音ミク。当初こそ画面の向こうの二次元的キャラクターとして扱われることも多かった彼女だが、今ではいちアーティスト・初音ミクとして現実世界に顕現し、観衆の前でリアルタイムにパフォーマンスを披露することも珍しくなくなった。

 遡ること2009年8月。彼女がアーティストとして“史上初のリアルライブ”を行ったのは、さいたまスーパーアリーナで開催されたアニソンライブイベント『Animelo Summer Live 2009 -RE:BRIDGE-』だった。その際は大型スクリーンに映像を投影しての登場だったが、同月に開催されたライブイベント『ミクFES'09(夏)』では、舞台上に彼女の姿が直接投影され、まるで初音ミクが実際にステージに立っているかのような、現在の形式に近いスタイルでの公演がすでに行われている。

 その後、2013年から現在に至るまで毎年開催されている『初音ミク「マジカルミライ」』内でのライブコンサートや、2014年に始まった国内外ツアー『HATSUNE MIKU EXPO』。さらには2020年以降、アプリゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』関連のリアルライブに、2024年の『コーチェラ・ヴァレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバル』出演など、従来の手法から徐々に3DCGの活用なども主流としつつ、初音ミクたちバーチャルシンガーによるライブはさまざまな形式で世界各地で開催されてきた。

【初音ミク】「マジカルミライ 2018」ライブ映像 - グリーンライツ・セレナーデ / Omoi feat. 初音ミク【Hatsune Miku "Magical Mirai 2018"】

 そんな中、直近では2026年開催予定の初音ミク関連のライブイベントが短いスパンで一気に複数発表され、それぞれのニュースが大勢のファンの間でも話題となっていた。だが今回発表されたイベント群には、いわば従来の催しとはやや異なる趣向・性質を持つ公演もある。その事象からは、今後のスタンダードになる可能性をも秘めた「初音ミク関連ライブの新潮流」の気配も漂っているように感じられる。

 今回開催が発表されたイベントは3つ。2026年1月開催の『初音ミク LAWSON 50th Anniversary Special LIVE』(以下、『ローソンライブ』)、2026年2月開催の『デコミク LIVE starring 初音ミク『Hello』Produced by DECO*27 / OTOIRO』(以下、『デコミクライブ』)、そして2026年3月開催の『ポケモン feat. 初音ミク VOLTAGE Live!』(以下、『ポケミクライブ』)である。

 初音ミクと他コンテンツ・企業とのコラボライブは、これまでバーチャル空間などではたびたび実施されてきた実績がある。しかし、今回の『ローソンライブ』のように、コラボ先企業が主催となる初音ミクのリアルライブ開催は非常に稀なケースだ。さらに、『デコミクライブ』、『ポケミクライブ』に関しては、従来のライブと比較し「クリプトン社による“デフォルトの初音ミク像”ではない初音ミクによるコンセプトライブ」であることが、今回の特筆すべき大きな特異点となっている。

 『デコミクライブ』は、イベント名に冠された通り、今や誰もが知るシーンの大御所クリエイター・DECO*27がプロデュースする“初音ミク=デコミク”によるライブ公演だ。DECO*27本人の出演はなく、彼の楽曲のライトで可愛い面を表現するデコミク(ライトネス)と、ダークな病みの面を反映するデコミク(ダークネス)のふたりによる3Dワンマンライブという構成になっている。

デコミク LIVE starring 初音ミク『Hello』 Trailer

 これまでにもボカロP自身がステージでパフォーマンスをする形式は、ピノキオピーやきくおの他、多数の開催事例が散見される。しかし、今回の『デコミクライブ』のように、公演に名前を冠しつつもボカロP自身は裏方に徹し、代わりにオリジナリティある初音ミクにステージを託す形式のライブは、おそらくシーンでも初の試みではないだろうか。

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