劇場版『チェンソーマン レゼ篇』劇伴・牛尾憲輔インタビュー レゼの生い立ちを音像化したファン垂涎の制作秘話

「in the pool」「Reze」「ジェーンは教会で眠った」……各楽曲への想いとこだわり

──その中でも今回特に大きなキーとなる曲は、やはり物語の山場のひとつとなるシーンに使われた「in the pool」だと窺っています。

牛尾:この曲が、先ほどから何度か話に登場したデンジとレゼのプールのシーンで使われた曲ですね。2023年のティザーPV制作時のB案としてあった「俺らの曲」です。元々監督や演出陣と話している時は「もう少し曲自体を細切れのトラックにしようか」と話していたんですが、繋がって“組曲”とした方が美しいかな、と思って勝手に作っちゃったんですよね。

 男の子にとって、あんなにドキドキするシーンはないわけですよ。それぐらい肌を感じる繊細な所から始まって、だんだん盛り上がっていってうお~っとプールに飛び込んで山場を迎える、という構造なんですけど。曲の途中で、映画だとちょうどレゼがプールの中でこちらに泳いでくるシーンのあたりかな……その辺からオーケストラの和声が、近現代ロシアのピアノコンチェルトに影響を受けたものになるよう構成してもらってるんです。あのシーンでレゼの生い立ちというか、寒い地帯から来た彼女の辛い背景を拾い上げておきたくて。そういう構造まで到達できたのは、あの曲を作っていてよかったと思ったポイントでしたね。僕自身はオーケストラの楽曲に対する理解がまだまだ浅い部分もあるので、僕が書いた構造に対してオーケストレーター、アレンジャーと打ち合わせを重ねてディレクションしていきました。そういう所まで踏み込むチーム作りができたことも、制作を通して得られた良い経験だったと思います。

 また、同じくオーケストラの話で言うと「edge of chainsaw (typhoon ver.)」も、TVシリーズ版で『チェンソーマン』の“顔”的な曲として作っていた「edge of chainsaw」に弦楽器アレンジを加えたものです。やっぱり劇場版でも使いたくて。大きな楽器編成の「edge of chainsaw」をやってみるのも面白そうだと思っていたので、それも今回実現できてよかったです。

──また、今回は弦楽器のみならず生音感のあるピアノが印象的な楽曲も多かったように思います。

牛尾:「slow summer eve」のピアノなんかは自分でもよく書けたな、と思いました。あとはやはり「Reze」でしょうか。プロジェクト最初期から雛形はありましたし、ティザーPVにも使った曲なんですけど、劇中では終盤のデンジとレゼの波打ち際のシーンで使われています。時折みえる、素に戻った美しいレゼ宛に書いた曲をあのシーンで使いたいと当初からずっと考えていたので、思い通りの形で世に出せてよかったな、と。

──個人的には、サントラの中で唯一日本語題となる「ジェーンは教会で眠った」についても伺いたくて。この曲題は元々、原作でレゼが夜の学校で殺されかける回のタイトルですよね。

牛尾:該当のシーンでレゼが謎の男を殺しながら歌うロシア語の曲ですね。先生(藤本タツキ)が原作で作詞されたものをそのまま使わせていただいているので、先生に名付けていただいたと認識しています。僕はその詞に対して音楽を当てた、という形で。

──劇伴曲の中でも唯一、先行して存在する詞にメロディを当てるというイレギュラーな制作が必要な曲だったかと思うのですが。

牛尾:ロシア語の曲、制作がすごく大変でしたね。知らない言語の曲を作るのって難しくって、単語の正しい区切りの位置とかが全然わからないんですよ。喩えば「リアルサウンド」という言葉があったとして、「リアルサ」「ウンド」で区切ると正しく意味が伝わらないじゃないですか。ロシア語の発音もわからないし……もちろん原作の詞を全部さらってるんですけど、シーンの尺に対して詞が結構長かったので、ぎゅっと詰め込まなきゃいけない、というミッションインポッシブルも発生したり。大変な所もあったのですが、なんとか形になってよかったです。

──マンガを読む際は人それぞれのメロディが頭の中で鳴っているものに、アニメ化の上でひとつの解釈を提示しなければいけない難しさもあったのではないでしょうか。

牛尾:そうですね。「大丈夫かな?」という不安もいまだにありますね(笑)。

──非常に聞き応えのあるお話をありがとうございました。最後に、これから劇場へ足を運ばれる皆様へのメッセージを改めていただければ。

牛尾:初回、2回目の鑑賞ぐらいまでは日本を代表する作画に目が奪われてしまうと思いますが(笑)、劇伴も頑張ってたくさん小ネタを仕込んでおりますので、3回目、4回目の鑑賞時にはぜひサントラも意識して聴いていただけると楽しいと思います。劇中の音楽も含め、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』を引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

■リリース情報
『CHAINSAW MAN THE MOVIE: REZE ARC original soundtrack -summer's end-』
2025年9月19日(金)発売

購入はこちら:https://mappa-onlineshop.com/shop/g/g4580575588852/
配信はこちら:https://MAPPA.lnk.to/LxWiXo

<収録曲>
1.from below with love
2.our film
3.silly walk
4.first glance
5.daydream
6.past
7.parallel lines
8.the skin
9.in the pool
10.fable
11.two storms
12.ジェーンは教会で眠った
作詞:藤本タツキ/歌:レゼ(上田麗奈)
13.slow summer eve
14.sweet danger
15.she is coming
16.her strike
17.flashforward
18.leave the lights
19.sword battle
20.stroke of genius
21.ride the storm
22.Typhoon Devil
23.eye of the typhoon
24.edge of chainsaw (typhoon ver.)
25.Bomb
26.dance with chainsaw
27.in the sea
28.Reze
29.the secret
30.the city mouse and the country mouse

 

■作品情報
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』
9月19日(金)全国公開

【STAFF】
原作:藤本タツキ(集英社「少年ジャンプ+」連載)
監督:𠮷原達矢
脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:杉山和隆
副監督:中園真登
サブキャラクターデザイン:山﨑爽太、駿
メインアニメーター:庄一
アクションディレクター:重次創太
悪魔デザイン:松浦力、押山清高
衣装デザイン:山本彩
美術監督:竹田悠介
色彩設計:中野尚美
カラースクリプト:りく
3DCGディレクター:渡辺大貴、玉井真広
撮影監督:伊藤哲平
編集:吉武将人
音響監督:名倉靖
音楽:牛尾憲輔
配給:東宝
制作:MAPPA
主題歌 :米津玄師「IRIS OUT」(Sony Music Labels Inc.)
エンディング・テーマ:米津玄師、宇多田ヒカル「JANE DOE」(Sony Music Labels Inc.)

【CAST】
デンジ:戸谷菊之介
ポチタ:井澤詩織
マキマ:楠木ともり
早川アキ:坂田将吾
パワー:ファイルーズあい
東山コベニ:高橋花林
ビーム:花江夏樹
暴力の魔人:内田夕夜
天使の悪魔:内田真礼
岸辺:津田健次郎
副隊長:高橋英則
野茂:赤羽根健治
謎の男:乃村健次
台風の悪魔:喜多村英梨
レゼ:上田麗奈

© 2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト
©藤本タツキ/集英社

■関連リンク
牛尾憲輔 公式X:https://x.com/agraph
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』公式サイト:https://chainsawman.dog/

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