early Reflection主催イベント『early Depts』 ワタナベ・メイ、松澤在音、サウルス、世代の近い3組が刺激を分け合う一夜に
7月24日、渋谷・TOKIO TOKYOにてライブイベント『early Depts』(読み:アーリーデパーチャーズ)が開催された。主催はポニーキャニオンが運営するPR型デジタルディストリビューションサービス「early Reflection」、前回から3年ぶりの企画である。タイトルは「若く将来性のあるアーティストたちの“出発点”になるようなライブにしたい」という思いから命名。チケットフリーで行われるのも、きっとリスナーと次代のアーティストとの出会いの場にしたいという期待があるからだろう。この日はR&Bやソウルを軸に活動するシンガーソングライターのワタナベ・メイ、ソウルやファンクを消化したポップソングを歌う松澤在音、そしてキャッチーなメロとストレートな歌詞が耳に残るロックバンド・サウルスが登場。世代も近い3組のアーティストが、互いに刺激を分け合うような一夜である。
エレキギターを抱えてステージに現れたワタナベ・メイが静かに歌い出す。ひそやかに爪弾かれる旋律、ボディをノックして生まれるリズム、未発表曲の「Gala」は静寂が聴こえてくるようなしっとりとした演奏だが、彼女の芯の強さを感じさせる歌声が心に波紋を広げていく。次も未発表曲の弾き語りで楽曲は「MOMENT」。幾分リズムが強まり、「Gala」よりも少しだけ熱が上がったような印象だ。
「同世代3組でライブをやることで、インスピレーションを受けるんじゃないかな」というMCを挟んで3曲目の「眩暈」。ここからはiPhoneで同期した音を流しながら歌っていく。打ち込みのリズムが加わり、ハンドマイクになったことで身体性を獲得したのか、ライブはグルーヴィに進行していく。一際印象に残ったのが大沢伸一と共作した「彗星」だ。夜空に身体が投げ出されるような浮遊感のあるベースがうねりを上げ、宇多田ヒカルを彷彿とさせる張りのある声色で〈まるで遠い宇宙 ねえ僕らひとりだね 彷徨っていても巡り会える〉というリリックが放たれる。そのムードを引き継ぎながら、しかしより華やかな音色を聴かせる「世界の本音」、そしてネオソウル風の曲調と腰を刺激するリズムが心地よい「Smoky Blue Berry Jam」と最後までうっとりするようなライブを披露。どんな曲調も歌いこなしそうな声が魅力で、短いセットながらこの日目撃したリスナーは間違いなく虜になっただろう。
アコギ1本でも凄みを感じる。腹の底から吐き出すような力強い歌声と、存在感抜群のパーマヘア。松澤在音のライブは一発で聴き手を引き込む。ケン 田村の「わすれておしまい」のカバーで始まったライブは、言葉を一つひとつを咀嚼するように歌う姿が印象的である。続く坂本慎太郎のカバー「君はそう決めた」では荒ぶったテンションに変わる。気づけばその声の引力に負けて、自然と身体が動いてしまうのだ。YouTubeには複数の弾き語りカバー曲が上がっているが、そのどれとも印象が違う。エネルギッシュな演奏で随分楽しませてくれる。
「チケットフリーなのに物販を忘れた」という告白の後、「親が葬儀屋で幼い頃から死ぬことについて考えることがあった」と言って歌ったのが未発表曲の「平気」である。湿り気のある歌がアコギと共に響き、サビの「もしも僕が死んだら あの世では君が笑いかけてくれるかな だとしたら平気さ」という歌詞がしっとりと染み渡る。言葉を全て聴き取ることはできないが、その歌からは彼なりの慕情と詩情が聴こえてきたように思う。そしてこういうところに松澤在音の魅力はあるのだろう。パワフルだがどこか影があり、そこに懐の深さを感じるのである。既発曲の「Anybody Knows」を狂おしい歌唱で披露し、最後は比較的軽やかな印象を受ける「Sunday」を歌って終演。別のライブではバンドセットでも歌っているようで、きっと弾き語りとは違う表情を見せているはず。是非そちらもチェックしてほしい。
弾き語りや同期音が中心だったこの日のライブにおいて、サウルスのバンドサウンドは異色だ。リハの段階から凄まじい音圧である。どうやら別のアーティストにキャンセルが出たとのことで、突然のオファーになっていたようだ。ということで本人たちも音楽性の違いがあることを感じていたようだが、しかし「だからこそ」自分たちの好きなことを普段通りにやろうという気合いを感じた。「初めて見てくれた人がニコニコしているのも見えています」というのは中盤で話されたMCだが、それは彼らの音楽が発するバイブスあってのことだろう。
「パーマ」で始まったライブは、快調なビートで突き抜けていく「地獄の果て」へと接続。とにかく迫力満点のドラムである。タイトルからして勢いのある「わっしょい!!!!」はその通りのテンションだが、しかし随所に挟まるギターフレーズが耳に美味しく、空を泳ぐようなベースも気持ち良い。それから先のMCを挟んで「ラブリー・フランクリン」、「夏のせい」と未発表曲をふたつ演奏。彼らのセットリストの中では比較的ゆったりと揺れるような2曲だが、続く「ええじゃないか」では空間を塗りつぶすような轟音に変容。歌声も演奏の激しさとシンクロするようにエモーショナルになっており、こうした爆発力や緩急がロックバンドの魅力だろう。「感情」「Goodluck」を歌い終える頃には手拍子の数が増えており、彼らの熱気がしっかりフロアに届いていたように思う。
3組の今後の活躍を期待するーーだけでなく、やはり『early Depts』がコンスタントに開催されること、そしてシーンに定着していくことを望みたい。鋭い感性を持った若いアーティストを積極的にフックアップするイベント(しかもフリー)が定期的に開催されることで、シーンに還元されるものはきっと少なくないはずだ。今後の動向に注目したい。