「私はやっぱりポップスを目指したい」 Little Black Dress、未来のために歌うべき歌と『AVANTGARDE』
Little Black Dressからメジャー1stアルバム『AVANTGARDE』が7月23日に届けられた。
シングル「PLAY GIRL」(ドラマ『マイ・ワンナイト・ルール』テレビ東京系/主題歌)「チクショー飛行」「猫じゃらし」のほか、新曲「アヴァンギャルド」「Lonely Shot」「十人十色」「メッチャいいじゃん!」を収めた本作は、シンガーソングライターとしての遼(Vo)の個性はもちろん、より強く大衆にアピールできるポップスとしての質を高めた作品に仕上がっている。「自分自身もLittle Black Dressのイメージがわかってきた」という遼に、本作『AVANTGARDE』の制作について聞いた。(森朋之)
「時代を歌うべきだなと思った」
――メジャー1stアルバム『AVANTGARDE』がリリースされます。今回の制作はいかがでしたか?
遼:前作『SYNCHRONICITY POP』(2024年6月7日リリース配信アルバム)はシティポップというしっかりとしたテーマがあるコンセプトアルバムだったんですが、今回はオリジナルだったのでまた違った制作でした。新曲もテンポよくできて、いろいろな方とのご縁だったり、世のなかの流れみたいなものも含めて、自分の赴くままに作れたアルバムなのかなと思っています。
――自由にクリエイティビティを発揮できたんですね。曲作りのスランプもなく?
遼:実は、めちゃくちゃありました。今回の制作期間中というより、これまでの活動のなかでも、なかなか曲ができない時期があったんです。これからもたぶんあると思うんですけど……。
――壁を乗り越える方法は?
遼:助けを呼ぶ(笑)。「私、もう無理です!」って声を上げることって、アーティストとしてだけではなく、人として必要なことだなって学びました。ひとりで頑張って作った作品としてのよさもあるし、いろんな方とのつながりのなかで作ることのよさもあって。今回のアルバムは、その集大成みたいな感じもしますね。
――では、収録曲について聞かせてください。1曲目の「アヴァンギャルド」はアルバムのタイトルトラックです。
遼:かなりメッセージ性が強い曲だと思います。今の情報社会のなかで感じることを書いているんですが、Little Black Dressの活動を長い目で見たときに、メジャー1stアルバムのタイミングで時代を歌うべきだなと思ったんです。
――“時代を歌う”というのはポップスの大事な役割ですからね。この曲を書いたのはいつ頃なんですか?
遼:昨年です。芸術家に関する本を読んでいる時に、“アヴァンギャルド”(前衛/既成の枠にとらわれない表現)という概念があることを知って。芸術の分野にはずっとあったものだと思うんですが、世のなか的にはあまり聞かなくなったワードだなと思ったし、「今、自分がアヴァンギャルドなものを作るとしたら?」と考え始めたのがきっかけです。
――今こそアヴァンギャルドな姿勢が必要だ、と。
遼:「それぞれの個性を尊重しましょう」という世のなかになってきていると思うんですけど、その一方でいろいろな縛りがあると感じています。SNSを中心に自分自身を自由に表現できるようになったのはいいことだけど、そこにはいろんな人の意見が集まるし、それが自分に向けられたものでなくても、誹謗中傷の言葉が目に入ることもある。そういう状況のなかで「こういう言葉は使っちゃいけない」「ここには触れちゃいけない」みたいな縛りが、逆に増えていると思うんです。
――「周囲からどう見られているのか?」がどうしても気になりますからね。
遼:そうなんです。私、妹がいるんですけど、話をしていると「すごくビジュアルを気にしているんだな」と感じることがあるんです。二重じゃなきゃかわいくないとか、涙袋を書かなきゃいけないとか、そういうことがいっぱいあるんですよ。それでハッピーならいいんですけど、(抑えられている)気持ちを発散できなくて、人の目を気にして悩んでいるんだったら、まずは自分自身と戦い切って自信をつけてほしいな、って。そういうところにフォーカスして書いたのが「アヴァンギャルド」ですね。
遼が考える“ポップス”に必要な要素
――創作においても同じことが言えそうですね。
遼:そう、モノ作りってすごく自分との戦いなので。たとえば、アルバムをリリースするとなると、締め切りがあるわけですよね。でも、そもそも芸術には終わりがないと思うんです。油絵はいくらでも上から塗れるし、曲もいくらでもブラッシュアップできる。そのなかで「これで完成です」と言い切るには強さが必要だし、それも自分との戦いだなと感じました。今回のアルバムでもそういう意識はありました。「このタイミングで作品を世に出すなら、絶対にここまでは仕上げよう」というような。
――なるほど。ポップスはたくさんの人に聴かれることが大前提ですが、制作中もリスナーのことは意識してますか?
遼:めっちゃ気にしてます。「アヴァンギャルド」のリリックも相当いろんなパターンを試したんですよ。最初はもっと自分の感情を表現していて、ちょっと暗い感じの歌詞だったんですけど、「子どもが聴いても絵が浮かぶようなものにしたい」と思って。取っ掛かりやすさ、パッと耳に入った時に「聴いてみようかな?」と思ってもらえるのも大事だなと思ったんです。私はやっぱりポップスを目指したいんですよね。ポップスって音楽的にもすごく高度だし、その時にパッと売れるだけじゃなくて、何十年も聴かれ続ける、そんな作品作りを目指すのは本当に難しいです。
――歌謡ロックとダークファンタジー的な雰囲気が混ざったサウンドもいいですね。
遼:ありがとうございます。デモを作っている段階から自分でSEをどんどん入れ込んで、そこからアレンジャーの塚田耕司さんと一緒にブラッシュアップしていきました。私は、ポップスにはある種のダサさが必要だと思っているんです。だから、塚田さんにも「おしゃれなかっこよさを捨てて、ダサくしてください」とお願いして(笑)。たとえば、打ち込みのベースのフレーズにしても、リズムパターンにしても、ちょっとしたことでニュアンスが変わるし。そのバランスを取るのが難しかったですね。いちばん時間がかかったのは、イントロかな。「よし、これだ!」という感じではなくて、「これでいってみるか……」という感じでした。みなさんに聴いてもらったときに、どういう反応があるか楽しみですね。
――キャッチーなところとマニアックな部分の両方があるので、聴き手によって印象がかなり違うかも。
遼:そうですよね。みなさん、昭和歌謡とかも聴きながら育っていると思いますし、日本の人たちはすごく耳が肥えていると思っていて。「アヴァンギャルド」も楽しんでもらえたら嬉しいです!