八木海莉⚡電音遊戯とは? 電子音楽へのアプローチから生まれる“独自のダンスポップ”で新風を吹き込むか
シンガーソングライター・八木海莉を中心としたエレクトロユニット・八木海莉⚡電音遊戯。“ダンスポップ”という領域を縦横無尽に広げるその活動は、単なるサイドプロジェクトにとどまらない。本稿では、初のアニメタイアップとなる最新曲「ACTION!」を起点に、多様な表現を探る本プロジェクトの全貌を紐解いていこう。
八木は、2021年にアニメ『Vivy -Fluorite Eyeʼs Song-』(TOKYO MXほか)にて主人公・ヴィヴィの歌唱に抜擢され、「レコチョク上半期ダウンロード部門」の新人アーティストランキングにて1位を獲得。同年12月にアニメ『魔法科高校の劣等生 追憶編』(TOKYO MXほか)主題歌「Ripe Aster」でメジャーデビューを果たした。その後も精力的な活動を続け、2023年には『FUJI ROCK FESTIVAL '23』に出演、TVアニメ『アンデッドアンラック』(MBS/TBS系)のエンディングテーマ「know me...」が400万ストリーミングを突破するなど、注目を集めている。
彼女の音楽は、生音を中心としたサウンド、透明感と力強さの中に儚さも垣間見える唯一無二の歌声、そして等身大の想いと漫画やアニメ、映画などの影響が窺えるファンタジックな世界観の歌詞が特徴に挙げられる。
一方で、八木海莉⚡電音遊戯は、八木の音楽的なルーツである電子音楽に立ち返ることで生まれた新たな名義かつユニットだ。メンバーは、ボーカルの八木のほか、活動休止したオルタナティブロックバンド・鋭児のメンバーである藤田聖史(Key)と市原太郎(Dr)が参加している。
このユニットの音楽性の主軸となっているのは電子音楽だが、彼らが打ち出しているサウンドは、“ダンスポップ”と呼ばれるものだ。ダンスポップは、2020年代に入ってから、海外ではダンスミュージックにルーツがあるデュア・リパやチャーリーXCXといった人気アーティストが大ヒット作を生み出しているほか、PinkPantheressのようなTikTok発の新人が大ブレイクを果たすなど、近年音楽シーンのメインストリームを再び席巻している注目ジャンルだ。
そうしたグローバルトレンドとの親和性の高さを感じさせる八木海莉⚡電音遊戯は、八木が作詞、藤田が中心となって作曲された1stシングル「でゅーらら」で2024年12月にデビュー。八木のソロ楽曲とは打って変わって、エレクトロハウス調のダンサブルかつバウンシーに仕上げられた同曲では、ボーカルメロディ、キャッチーな〈でゅーらら〉という造語的なサビのフレーズが耳に残る。
1stシングルで示した電子音楽という方向性をさらに発展させたのが、2025年1月リリースの2ndシングル「猫ダッシュ」だ。前作と同様の体制で作曲された同曲の魅力は、八木のキャッチーな歌声が映える、疾走感あふれるサウンドにある。ハイテンポのビートとエレクトロニックな音色が絡み合って駆け抜けていく展開は、聴いていると気分が上がる。また〈run run run 駆け回って/輝く夜の目があなたみたいだね〉など、動的でエネルギッシュな歌詞も特徴的だ。
一方、2025年3月リリースの3rdシングル「MEMOして」では、作詞はこれまで同様に八木が担当。しかし、同曲では市原がドラムだけでなく作曲も担当することで、ユニットとしての音楽的多様性が提示されている。トラックの特徴として挙げられるのは、ボルチモアクラブの影響を感じさせるミニマムで刹那的なビートだ。以前、K-POPグループのNewJeansが取り入れるなど、昨今ダンスポップ界隈でトレンド化しているこのビートとともに展開される〈ring ding dong 響くdial tone/ring ding dong 刺さる turn so blue〉など、シンプルながらも印象的なフレーズの歌詞が耳に残る。