南條愛乃が“ライブ”に寄せる特別な想い 10年分の映像で振り返る、自身の成長と変わらない気持ち
南條愛乃が2023年12月、自身の地元=静岡・富士市ロゼシアター・大ホールにて開催した『南條愛乃 10th Anniversary Live -FUN! & Memories- supported by animelo』。同ライブの模様を完全収録した映像作品が、自身のソロアーティストデビュー記念日である12月12日にリリースした。
今年で12周年を迎えた、南條の音楽活動。そのなかで、定期的なライブの場はその時々で違った役割を備え、特に活動初期においては南條とファン双方が向き合う上でのアイデンティティ形成に関わる側面さえ持っていたと思う。本稿では、今回の映像作品リリースを機に、南條本人にインタビューを実施。彼女から出てきた言葉や考えを織り交ぜつつ、過去の公演が担ってきた役割と、そこでの注目曲を駆け足ながら振り返っていきたい。
Yoshino Nanjo 1st LIVE TOKYO 1/3650 ミンナとつながる365日×???
2015年9月、東京と大阪にて全2公演を開催。セットリストの主軸としたのは、自身初のフルアルバムであり、上京後10年間で感じたパーソナルな想いを詰め込んだ名盤『東京 1/3650』。南條にとって、ソロ活動の本格始動を宣言する晴れ舞台。ステージには、数字を型取った白色のモチーフを奥行きを持たせながら上部まで敷き詰め、そこに照明を当てて色を染めることで、それぞれの表情が変わる点にこだわったとは、南條本人から聞いたところ。“人生初ツアー”の緊張からか、彼女の醸し出す空気感がいまほど緩くなく、その雰囲気が客席側にも共有されていたことを含めて、筆者はよく覚えている。
注目曲は「believe in myself」。“夢を追いかける”と言えば簡単だが、漠然とそうしていても、理想を崩されて挫折するもの。そんな状況で夢に対する解像度が上がり、自身における確固たるものを再構築する姿を歌ったのがこの楽曲だ。南條曰く、リリース当時の歌にはまっすぐ純粋な気持ちが宿っており、現在はライブのたびにそうした初心を思い起こさせられる。なによりかつての自分から、2024年のリアルタイムな夢追人にエールが届けば本望とのことだった。
また、音楽に対する南條自身の語彙の増加や、長年をともにする頼もしいバンドメンバーとの試行錯誤を経て、近年のライブ披露の際は、以前の青臭さを残したキラキラとしたサウンドから、ロックらしい重たさを乗せられるように変化したという。実際にライブ映像ごとに聴き比べてみてほしいし、そうした未完成(あるいは未熟)だった部分も含めて、いかにもこの楽曲らしいと思う。
一転して、制作当時と変わらぬ想いで歌っているのが「Recording.」。曲中には〈みんなと過ごした思い出増やしてどんな曲に育つのかな〉なんてフレーズが登場するが、たしかにコール&レスポンスが入ることで「きみを探しに」「EVOLUTiON:」などは明確に表情を変えた。が、あくまですべての楽曲に共通して、ライブを経て“育っている”との実感を抱いているようだ。
南條愛乃 LIVE TOUR 2016 "N"
2016年9月、東名阪に神奈川と愛知を加えた全5公演を開催。“私ってどう見えていますか?”をテーマに、親交のある作家陣が南條について描いた2ndアルバム『Nのハコ』を携えて、満を持しての全国ツアーである。ツアー当初、声優での参加作品が自身の人気を飛び越え、ソロ活動においてもステージ上で求められているのが、“南條愛乃”ではなくキャラクターの方ではないかと苦悩していた南條。言い換えれば、ファンとの距離感や歩き方を模索したツアーだったが、それも終わる頃には不安が期待や安心感に変わっていたという。
注目曲は「NECOME」。初期の楽曲ながら、南條サウンドの完成系を感じる楽曲のひとつで、rinoが猫の目線(=NECOME)を借りて綴った歌詞では、まったりモードな南條の姿が描かれている。南條自身も、歌詞も曲調も優しくて暖かく、歌っていて純粋に気持ちがよい楽曲だと教えてくれた。わかりやすく盛り上がるでもなく、むしろ淡々と心地よさを紡いでいく。歌う立場でなかったらカフェで聴いていたいし、そうした雰囲気が歌っている側としても好きとのことだった。
またライブ人気曲「idc」が生まれたのも、この時期のこと。南條にとっての飛び道具であり、ステージの盛り上げ隊長。そして、かわいい女子に思われがちだが、実際はサバサバした性格で、しっかりと芯を持っているのだと、新規ファンの幻想を打ち砕き、現実をまざまざと見せつける楽曲としての当初の意図もリリース当時から変わらぬところ。
Yoshino Nanjo Live Tour 2017 <・R・i・n・g・>
2017年9~11月、東名阪に静岡、福岡、宮城を加えた全7公演を開催。数字の“3”をキーワードに、当時33歳だった南條が“30代の参考書”として制作した“3rd”アルバム『サントロワ∴』を軸に構成し、前述の『N』ツアーで培った安心感を胸に臨んだ本ツアー。南條はこのとき初めて、ツアーの終わりを名残惜しく感じたというだけに、アーティストとしてのアイデンティティの模索期間を経て、ある意味でひとつのゴールを示す役割を担ったのだろう。
なかでも思い入れがあるという楽曲が「螺旋の春」。歌唱にあたり、作詞を務めた橋本由香利から“自分の成長に対して堂々巡りをしているように思えても、視点をずらせば、螺旋階段のようにしっかりと上に上がっているはず”というメッセージを受けた南條。これがあまりにも刺さる内容だったため、ライブMCでもしっかりと橋本の意図を伝え、後に伝説のMCとして語り継がれるまでになった。本人曰く、本ツアーでもひとつ、大きなポジションに置いていたという。
南條の新たな一面を引き出したのが「OTO」。ボーカル、楽器パート共々、フレーズもリズムも細かく、パフォーマンスが洗練されるほど輝きを放つ楽曲であり、当時の感情からすると“大人味”で、置いていかれないように精一杯だったとのこと。あくまで苦手ではないが、40歳を迎えたいまなお、歌っていて乗りこなせている実感はあまりないらしい。だが、それは言い換えれば、歌い方や心持ちなど、色々な試し方ができるということでもある。力を抜いたり、狙ったフレーズを際立たせたり、ボーカルの差し引きと年齢を重ねることで旨みが出てくると、期待感を語ってくれた。今後のライブでも注目しかない。
やや本題からは外れるが、本記事のように過去作、ならびにライブを省みる機会も少ないため、40歳となった南條に、“いま、このツアーを再演してほしいと言われたら、どうしますか?”と質問してみた。即答気味に出てきた言葉は「よく言えば説得力が増しているでしょうし、悪く言えば説教くさくなるかも(笑)」。制作当時よりも歌詞の意味を理解し、共感できるようになったぶん、ボーカルに重たさが乗り、それがどちらに転ぶか未知数というのが理由らしく、あまりの“わかる”ポイントにむしろ、自分自身が攻撃されるのかもしれないとのことだった。
その上で、アルバム収録曲は、時間が経ってもなお“参考”になったものばかりで、どれも自身の延長線上にある色を感じると答えてくれた。さらに40代の参考書を作る計画の有無も尋ねたが、これについては「考えたことがあるんですけど、やっぱり重くなりそう。あと、健康の話ばっかり増えそう(笑)」とのこと。心の安心材料が必要なのは30代まで。40代以降は、健康こそ最大の資本である。
南條愛乃 5th Anniversary Live -catalmoa-
2017年12月、神奈川・横浜にて1公演のみ開催。音楽活動の節目を祝し、デビューミニアルバム『カタルモア』を携えたライブを5年越しに実現。活動当初はそもそもライブをする考えがなかったという南條が、数年前の忘れ物を拾いにいくような一夜だった。本人によると、直近で応援してくれるようになったファンに対して、長年のファンとの歴史を見せられて誇らしかったと同時に、“みんな”で集まれたことが何よりも「よかった」と再認識できたという。
ピックアップしたのは、ピアノ一本弾きの「カタルモア」。歌唱後に客席から届いた拍手が誇張抜きで鳴り止まず、キーボード担当の森藤晶司と一緒に感じたあの空間が、いまだに印象に強く残っているとのこと。ノンタイアップかつミニアルバムの収録曲というポジションながら、ファンがそれほど大切な楽曲として扱ってくれていることに、うれしさよりも「ありがたい」という気持ちが勝ったと、南條は取材中、優しい表情で振り返ってくれた。