岡田奈々「この先の活動も歌も諦めかけていた」 暗闇から這い上がった今、確立した表現と『Contrust』
実体験と妄想、自分への誓い……2作目のアルバムで確立した岡田奈々の楽曲制作
――では、「共犯カメラ」の次に作った曲は?
岡田:「5月にふたりは嘘をつく」ですね。サウンドがアップテンポで明るいんですが、歌詞は切ないので、そのコントラストがお気に入りです。
――ストレートな失恋ソングでもあります。作詞するにあたり、参考にしたモデルはいるのでしょうか?
岡田:私自身の実体験も入っているんですが、空想の部分が多いです。いろんなところからインスピレーションを得て、ひとつの歌詞にしています。あと、1番と2番で対比を作ってみたいなという考えもあったんです。たとえば、1番は別れを切り出すのは〈僕〉で、そこから歌い出しているんだけど、2番の冒頭は最初に嘘をついたのは〈君〉になっているんです。そうやってこの歌詞の物語性を出したかったんですよね。失恋ソングは、ずっと書きたいなと思っていたジャンル。今回、ドラマチックな歌詞にできて満足しています。
――そういった楽曲ですと、レコーディングはどうでしたか?
岡田:レコーディング当日に作曲家の方がきてくださったんですが、「あえて明るく、爽やかに歌おう」という話になりました。そのほうが歌詞が引き立つんじゃないか、って。そこもこの楽曲のポイントですね。
次に作ったのが「好きの魔法」です。個人的に、今回のアルバムのなかでイチ押しの曲。『Contrust』で唯一のロックサウンドだし、歌詞はこれまで書いてこなかった“強い女性”をイメージした内容になりました。恋愛の寂しさに惑わされず、自分で自分のことを幸せにするんだよという思いを込めています。
――つまり、それが岡田さんの理想の女性像でもあると。
岡田:そうですね。私は人にのめり込みやすいタイプなので、「自分のことは自分でやろう」「自立して強くなろう」という自分への誓いも込めました。
――その次に作った楽曲は?
岡田:「空白と高鳴り」ですね。自分的にはいちばんまっすぐでピュアなラブソングを書いたつもりなんですが、ちょっと愛の重たい曲になっています。私は飛行機に乗る時には毎回「これで死ぬかもしれない」と思うし、それ以外でも「明日には死ぬかもしれない」「このあとすぐに死ぬかもしれない」と常に思っているタイプなので、「愛してる」以外にもいろんな言葉で日頃から愛を伝えたいんですよ。これからも、そんなふうに生きていきたいという曲です。
――離れてしまった時のために?
岡田:そうですね。生まれればいつか死んでしまうように、始まりがあれば終わりがくるじゃないですか。だから、終わってしまう時に後悔しないよう、日頃から愛重めに接していて。なんでもかんでも好きというわけではなくて、好きなものは好き、苦手なものは苦手とちゃんと示すようにしています。
――また、この楽曲の歌い方がとても印象的でした。少しかわいらしくて。
岡田:あ、そういうのって伝わるものなんですね! 「空白と高鳴り」は、このアルバムの中ではいちばん甘めに、きゅるるんとした歌声を意識したつもりなんです。だからそう聴こえたのかも。レコーディングする時は、いつも曲によってキャラクターを変えるようなイメージで歌っています。今回のアルバムは、10曲それぞれの声色を楽しめると思います。
――ちなみに、レコーディングで大変だった曲はありますか?
岡田:「5月にふたりは嘘をつく」と「共犯カメラ」は、上ハモと下ハモをたくさん重ねているので時間がかかりました。特に「5月にふたりは嘘をつく」のハモの量はエグかったです。曲を選んだ時にはこんなにハモが入るとは考えてもいなかった(笑)。
――(笑)。ともあれ、ハモのおかげで重みのある楽曲になっていますね。それに「共犯カメラ」は二面性のある曲ですし、ハモがいい仕事をしそうです。
岡田:そうなんですよ! 「共犯カメラ」は二面性を意識してハモを多めに入れています。こだわればこだわるほど大変でした(笑)。
――残るは、アルバム最後を飾る3曲「赤い夜が満ちるまで」「12.24」「桜色の君を想う」ですが、この曲順通りに作っていったそうですね。
岡田:そうです。「赤い夜が満ちるまで」は、2022年11月8日にあった皆既月食を曲にしたものです。当日に月食を見てインスピレーションが湧いてメモを取っていたんですけど、それを2年越しに見直して、思い出しながら書いていきました。だから秋と冬の間の、11月っぽい空気感を感じられる歌詞になっています。あと、ミックスボイスを使わないと歌えない音域なんですけど、私、ミックスボイスが苦手で……。レコーディングを経てだいぶ鍛えられた曲でもありますね。あたたかいけど儚くて、いい曲です。
――しかも、〈君〉ではなく〈あなた〉が出てくるんですよね。〈君〉とは違う誰かが見えます。
岡田:はい。私としても、対象をはっきりと変えて書いたつもりです。そこはぜひ、みなさんそれぞれに解釈していただきたいですね!
村山彩希と桜の花びら「なぁちゃんが大スターになれるように」
――続く「12.24」は、その名の通りクリスマスソングですね。
岡田:こんな一日だったらいいな、という妄想を描いたクリスマスソングです。これまで、クリスマスと言えば握手会やイベントをしていて休みであることがまずなかったので、私の中にある“理想のクリスマスイブ”を歌詞にしていった感じです。片思いなんだけど、「もしかしたら両思いかも?」というような、いちばん楽しい時期のふたりを主人公にしました。
――歌詞のシチュエーションは、恋愛漫画などから着想を得たり?
岡田:そうですね。もともとアニメや漫画が大好きで。この歌詞も、そういったところからインスピレーションをもらって、自分のなかで妄想を膨らませながら書きました。最後に作ったのが、「桜色の君を想う」。これは、私がAKB48を卒業する最後の日に、いちばん仲のいい相方(村山彩希)がくれたお手紙をもとに書いた曲です。
――AKB48は、卒業公演の日にゆかりのあるメンバーから手紙をもらう時間があるんですよね。
岡田:はい。そのお手紙には「なぁちゃん(岡田)が幸せになれるように、なぁちゃんが大スターになれるように、桜の花びらをキャッチしたよ」といったことが書かれていました。桜の花びらには、「地面に落ちるまでにキャッチすると願いが叶う」という言い伝えがあって。相方は私のために桜の花びらをキャッチしてくれたんですけど、ひとつでいいのに、わざわざふたつキャッチしてくれたんですよ。
――「幸せになってほしい」「大スターになってほしい」というふたつの願いがあったからでしょうね。
岡田:それがすごく嬉しかったので、歌詞にしました。タイトルにもある「桜色」は、お手紙を読みながら泣いている彼女(村山)の顔が、桜みたいに赤くてかわいかったから。卒業して離れ離れにはなりましたけど、「この先も変わらず幸せでいようね」と思っています。
――歌う時も、その情景が思い浮かんでしまいそうですね。
岡田:ああ、たしかに。自分でも感極まっちゃいそうですけど、私よりもお客さんが泣くと思います(笑)。私と相方をペアで推している人が多かったので、「きっと、あのことを歌っているんだ」と感じ取って、感動してくれるんじゃないかな。
――また、ラスト3曲は特に季節の移り変わりがわかる曲順ですね。
岡田:そう、今回は季節感も考えてみました。最初は全然想定していなかったんですが、曲ができあがっていくうちに「あれ、これは秋っぽいぞ?」「クリスマスソングができたぞ?」とそういう流れになっていったので、曲順も四季通りにしています。