UNFAIR RULE、『ひとりごと』で綴ったありのままの感情 バンドとしての新たな音楽的挑戦を語る

UNFAIR RULEの音楽的挑戦

山本珠羽が紡ぐリアルな感情とメッセージ

──お二人のルーツや人柄がわかったところで、ここからは新作フルアルバム『ひとりごと』について教えてください。このアルバムは山本さんの“ひとりごと”を集めた作品なのかなと思いながら、1曲目の表題曲「ひとりごと」を聴き進めていくと、〈君と私のひとりごと〉という歌詞が出てきて。この曲はどういった思いからできた曲なのでしょうか?

山本:この曲の元になった恋愛において、ひとりごとをぶつくさ言っているのって自分だけじゃないだろうなと思ったんです。私もいろいろ思っているし、相手もいろいろ思っているだろうけど、お互いに言わない。だけど、言わない関係性だからこそ落ち着いていられる。そう思ったときに「君と私のひとりごと」という視点がいいなと思って。話し合って失うのは怖いし、お互いの本心を知らないほうが傷つかないから。

──ちょっと話が飛んでしまうのですが「曖昧」もそういう歌詞ですよね。相手の本心や本音を知らなくても平気というのは、山本さんの恋愛観なのでしょうか?

山本:このアルバムを作っている時期に、そういう考え方に変わりました。傷つかないための方法を覚えたというか。真実を曖昧にしているほうが傷つかないんだなって気付いて。このアルバムって全体的に、ぼやっとしていると思うんです。歌詞も、相手との関係性も。それは「真実を曖昧にしているほうが傷つかないんだな」と気付いた時期に作ったアルバムだからなんです。

──なるほど。話を「ひとりごと」に戻します。この曲はピアノの弾き語りですが、アレンジや曲調はどのような思いから?

山本:今作は、新しいことをしたいなと思っていて。変化がわかりやすく伝わるかなと思って、ピアノの弾き語りにしました。バンドサウンドの中にピアノが入っているという曲だと、ライブで再現できないじゃないですか。だったらバンドサウンドなしで、ピアノの弾き語りにしてみようと。

──お二人ともピアノ経験者ですが、この曲でピアノを弾いているのは?

山本:私です。最初、崇に弾いてもらったんですけど、すごいクラシックというか……ものすごく壮大になっちゃって。

杉田:合唱曲みたいになっちゃったんだよね。でも、コード感についてはいろいろ口出ししました。「サビの盛り上がるところでこういったら面白いんじゃない?」みたいな。

山本:ちょっとだけ気持ち悪いコード進行しとるよな。

杉田:そうそう。単純なコードだけじゃなく、ちょっと今っぽいコードも入れています。

──2曲目「君にさよならを言わない」は、歌い出しの〈死なないでと願った私が君を殺してしまうんだ〉というフレーズがすごく印象的です。

山本:私は、できれば歌詞で直接的なことを書きたくないと思っているんです。いかにまわりくどく言うかが、自分が歌詞を書く時のポイントだと思っているんですが、こればっかりはどうしても……。相手に「死ぬ」とか「死にたい」ってぼやかれていた時に、私は本当に死んでほしくなさすぎて「嫌だ!」って泣いたことがあったんです。その人とのことを書く上で、この表現はどうしても外せなかった。直接的だから悩んだんですけど。

UNFAIR RULE「君にさよならを言わない」Music Video

──今のエピソードからもわかりますが、この曲は本当に全身全霊で鳴らしている感じがします。

山本:はい、ライブで歌っていてもつらいです。特に一番感情が溢れ出るのがアウトロのギターソロ。歌いきったあと、ぐしゃぐしゃになりながら弾いています。しかもカギカッコのところ(〈「また2人でご飯に行こう」/「いつもの散歩をしよう」〉)はシンガロングパートにしているので、お客さんが歌ってくれるじゃないですか。だから、彼氏だった人が言ってくれているみたいな感覚になって。それを言ってくれたあとに私は振っちゃうので、「ひどいことをしているかもしれない」って思ってまた泣きそうに……。

──確かにそう思いながらギターソロを弾くと、余計に感情的になりそうですね。

山本 はい。

杉田:この曲は、今までのUNFAIR RULEの曲とはガラッと雰囲気を変えつつ、テンポ感などは今までらしさも残して、一番おいしいところを合わせられた曲だなと思っています。ただ、Aメロではちょっと変化をつけたり、今までやったことのない動きをしていたりと、ドラムはとっても難しかったです。

UNFAIR RULE(撮影=山川哲矢)

──それこそギターがエモーショナルに鳴っているアウトロでは、ドラムはどういうことを意識していますか? 引っ張られないようにするのか、一緒にエモーショナルになっていくのか。

杉田:レコーディングの時はそうでもなかったんですけど、ライブではドラムも思いをのせるような叩き方をしています。ギターのサウンド感と合わせることを意識して、シンバルを“しばく”という感じです。でも音源での音作りも良いと思うので、それはそれで楽しんでもらいたいです。

──先ほどお話にも上がった「曖昧」は、〈君のそんなつもりないが/私にとっての愛だったりする〉〈君はいつも心の中を見せない/それでもいいよ〉という、山本さんの恋愛観が浮かび上がる1曲です。

山本:この雑な感じが心地よかったんですよね。たぶんお互い好きなんだろうけど、「好き」って言わない関係。実際に「好き」だけを言ったことがなかった。でも一緒にいると落ち着くし、でもずっと離れているような気持ちでもあって。それが良かったり良くなかったり……でもそんな関係がよかったんです。音楽のこと、ライブのことも考えたいから、彼のすべてのことを愛することができないなって思っていて。きっと、向こうもそうだったんですよね。そんな関係が心地よかったし、「好き」とか言ってくれなくていいから、心がそばにいてくれたらそれでいい。そんな気持ちを書きました。

──サウンド面では新しさを感じます。

山本:初めてパワーコードを使ったんですよ。パワーコードの存在はもちろん知っていましたけど、私はずっと避けてきていて。

──でも、山本さんのルーツの音楽はパワーコードを多用しますよね。

山本:そうなんです。特にSCANDALとチャットモンチーは絶対と言っていいほどパワーコードが使われている。だけど私は開放の音が好きなんです、パワーコードは弾くのも疲れるし(笑)。でもこのアルバムでは、今までやっていなかったことに挑戦したいと思っていたし、この曲はいつものUNFAIR RULEの曲に比べて余白のある曲だから、パワーコードが合うんじゃないかと思ってやってみたら、いい感じだったので取り入れてみました。

杉田:それこそ余白があって音が少ないぶん、ドラムはしっかりしなきゃいけないんですけど、ノリ感が今までとは全然違って。このアルバムの中で一番難しいかも。でもこの曲で描かれているみーちゃん(山本)の話は、話を聞いて知っていたので曲には入り込みやすかったです。演奏しながらいい曲だなと毎回思うので、ライブでもしっかり叩けるよう練習中です。

山本:良い曲だよね。あとはフェスに出させてもらったことも大きいです。これまではずっとライブハウスでしかやったことがなかったから「ライブハウスで演奏したいな」と思う曲を作ってきたけど、フェスに出たことで「大きいステージやフェスでの空の下で歌うならこういう曲がいいかな」ということも考えるようになって。それをイメージしたのが、この「曖昧」と「内緒」です。

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