ナナヲアカリの好奇心が導く新たな化学反応 『ブループリント』で挑んだ新境地と今後の“設計図”

 ナナヲアカリが新シングル『ブループリント』を8月21日に発売した。

 TikTokで総再生数2億回を超えた「チューリングラブ feat. Sou」や、公開3カ月でYouTubeの再生数が1,000万回を突破した「恋愛脳」などのヒットにより、ネットカルチャーのアイコン的存在として着実にステージを駆け上がっているナナヲ。今回の新曲「ブループリント」はこれまでの活動で築き上げたその独自のサウンドイメージを踏襲しつつも、レトロな8ビットサウンドを取り入れたり、途中で大胆な展開を見せるなど、音楽的にも新しい試みが見受けられる。

 また今作には、ナナヲアカリ作品ではお馴染みとなっているナユタン星人(今作では、ナユタセイジ名義)をはじめ、編曲にPEOPLE 1のサポートメンバーでもあり、共同制作をおこなっているHajime Taguchi、カップリング曲「キュートフィクション」の制作にはボカロクルー「GaL」に所属する⌘ハイノミ、そしてリミックスにはトラックメイカーの原口沙輔が参加するなど、ナナヲと気鋭のクリエイターたちとの化学反応が楽しめる。

 さまざまな人と交わりながら活動するナナヲは、自身について「一人だったら、すごく虚しいもの」だと話す。そんなナナヲが新作に込めた思い、そして今後の“設計図”を聞いた。(荻原梓)

主人公であるクレイとベル、不器用な二人への共感

ーー今作はTVアニメ『ダンジョンの中のひと』のEDテーマですが、アニメサイドからはどんなオーダーがあったんですか?

ナナヲ:特にこういう曲にしてほしいというものはなくて。「キャッチーで軽快な感じで」というざっくりとしたオーダーだったので、自由に制作に取り組めました。キャッチーさでいうと、言葉選びや原作のイメージからまずナユタン(星人)さんと一緒に作りたいなと思うところから始まり、ダンジョンが舞台の作品ということでゲームを連想するようなサウンドにしてみたいと思ったんです。それで、今回の試みとしてがっつりアレンジャーさんに依頼してみようと思い、編曲をHajime Taguchiさんにお願いしました。

TVアニメ『ダンジョンの中のひと』ノンクレジットED|ナナヲアカリ「ブループリント」

ーーHajime Taguchiさんを選んだ理由は?

ナナヲ:Taguchiさんは器用な方、という印象を持っていて、PEOPLE 1の編曲をされている方なんですけど、本当に器用だから何でもできる人なんですよね。だから、ナユタンさんの楽曲を自由に編曲してもらったら一体どうなるのかなっていう好奇心もあったんです。まあ、無茶振り感もあるんですけど(笑)。結果的にすごい曲にしていただいたので、“ナユタン星人であってそうじゃない”みたいな曲になりました。

ーー曲作りはどのように進めたのでしょうか?

ナナヲ:実は結構特殊な作り方をしました。一番最初のデモはいつも通りナユタンさんから上がってきて、ワンコーラスだけ最初に作り、そこからTaguchiさん先行でバックサウンドを作ってもらい、その後に2番以降を制作するっていう、今までやったことない作り方だったんです。2番以降に全然違う展開になるんですけど、それはTaguchiさんが先にバックサウンドを作ったところに歌詞とメロディを後から当てていったからです。

ーーなるほど、一度アレンジャーを挟んでから再度作曲したと。

ナナヲ:はい。サウンド面に関しては8ビット要素もありつつ、ナユタンさんはいわゆる王道な四つ打ちが得意な方なので、そうじゃないところのアプローチとしてTaguchiさんに編曲をお願いしました。コード進行なども普段のナユタンさんとは違う感じにTaguchiさんが仕上げてくれましたね。でもやっぱり最初はワンコーラスから作ったので、フル尺の歌詞の制作はすごく大変で……どうやってここに帰結しよう、どうやったらより説得力を増した状態、不自然じゃない状態でフルにできるかっていうのを考えながら作りました。

ナナヲアカリ(撮影=秋倉康介)

ーーアニメ作品をどのように楽曲に落とし込みましたか?

ナナヲ:クレイとベルの二人の主人公の関係性を曲にするのがいいのかなと思ったんですけど、友情だけだとテーマが広すぎて狙いが定まりづらいなと思って。じゃあ友情に関して、ナナヲアカリとその二人とでどこがリンクするかと考えた時に、不器用で、あまり友達がいるわけじゃないけれど、何か特別な出会いで繋がった縁で、そんなに誇れたものじゃない日々もお互いに楽しく思い合えるような関係、というところがリンクすると思ったんです。

ーー主人公二人のその不器用さに共感したと。

ナナヲ:クレイもベルもずっと一人で生きてきたんです。クレイも一人でダンジョン探索をしてきて、ベルも一人でダンジョンを切り盛りしていて、同世代ということではじめての友達という感覚だったのかなと。私はもちろん人生の中で友達は何人もいたけれど、その中で上京してから何人かの大事な友達に出会うことがあって、そういう部分が二人と近いのかなって思います。たとえば「特別なことをしているわけじゃないけれど、なんだか一緒にいると嬉しい」みたいな描写がアニメにあって、クレイがベルと話してるうちに無表情だったのがちょっと微笑んだりするんですけど、「この気持ちわかる!」って思って。そういうところは曲を作るにあたって大事にしたいと思いました。

ーー言葉ではなく心で通じ合ってるような?

ナナヲ:そうそう。めちゃめちゃ二人で喋るわけでもないし、あの子達が「ウチら仲良いよね」みたいなことを話すわけじゃない。でも、そういう中で通じ合っている時の些細な表情の描写とかがいいなと思ってます。注目してもらいたいのは、アニメサイズで聴くワンコーラスとフル尺とで感じてもらえるものがまったく違うものだということ。もちろん楽曲の展開もそうなんですけど、歌詞も単純に「君と出会えてよかった」っていう歌ではないのがフルで聴くことでよりわかってもらえると思います。

さまざまな人とかかわることで生まれる物作りの面白さ

ーー制作する上で苦労はありましたか?

ナナヲ:それこそ2番でセクションが変わって、〈ひとりで描いてた〉から始まるところはリズムが難しくて少しスイングするんです。結構ノリが難しくて、そこは苦労した覚えがありますね。ロックの四つ打ちのほうが歌い慣れているので、ちょっとずれたノリをいかに自然に表現できるかというところは自分にとって挑戦でした。

ブループリント / ナナヲアカリ

ーータイトルの「ブループリント」は青写真や設計図という意味の言葉ですが、このタイトルにはどんな思いを込めましたか?

ナナヲ:クレイとベルの話もそうですし、大事な人に出会う前の自分もそうなんですけど、なんというか“青いな”っていう。

ーー“青い”、というと?

ナナヲ:未熟な青さっていうんですかね。「ダンジョンを抜けた先にあるのって、きっと青い空だよね」って話しながら作ってたんですけど、そういう意味でも“青”。未熟の青と青空の青からくる色のイメージを曲を作るにあたって持っていたので、そこで設計図にするか、地図にするか、計画書にするかと話し合う中で、「設計図=ブループリント」が一番しっくりきたんです。最終的に決めたのはナユタンさんでした。

ーー今作はパッケージデザインも素晴らしいですよね。

ナナヲ:遊び心のあるアートワークになっています。ナナヲアカリのキャラクターのダ天使ちゃんが真ん中にいるんですけど、「ダ天使ちゃんが魔法使いに扮してダンジョンを冒険する」っていうオーダーをしたんです。ほかにもアニメからクレイ風のキャラだったりベル風のキャラだったりが忍び込んでいたり、ゴーレムくんがいたりするので探してほしいですね。

ーー『ウォーリーをさがせ!』的な(笑)。

ナナヲ:はい! 描いていただくにあたってナナヲの好きなものを何個か書き出して、それをピクセルアーティストのBAN8KUさんに送ったんです。なのでスライムとか、猫や鳥、ギターやキャンディーなどをたくさん散りばめてもらいました。あとダンジョンと言えば勇者の剣ということで、エクスカリバーが刺さってるんですけど、余計なエクスカリバーまでめっちゃたくさん刺さってるみたいなのも面白くて(笑)。配信ジャケットだと小さい画角なんですけど、CDパッケージだとそれより大きい画角なので、ぜひCDを買ってじっくりと楽しんでもらいたいですね。

ーー今作のようにさまざまな方と関わって制作するのがナナヲさんの活動スタイルなのかなと思っているのですが、いろんな方と物作りすることの面白さについて、ナナヲさんはどんなことを感じてますか?

ナナヲ:シンプルに一人でやるよりも引き出しの数が全然違いますよね。それが強みであり面白さ。今までインプットしてきたものが全然違う人たちが集まって制作するからこそ、より可能性が広がるし、選択肢も増えて、常に一人じゃ思いつかないようなエッセンスが加わる。それが面白いところです。

ーーこの曲には〈ひとりで描いた設計図/いつも完成が見えない〉とか〈ふたりで描いたら(それ以外変わらないのに)/いつか見た空の色(don't forget)〉といったフレーズがあります。いろんな人と関わることで、ある意味プラットフォーム化してるナナヲさんだからこそ歌える曲だと思いました。

ナナヲ:自分の人生はそればっかりだと思っていて。よくライブもさせてもらってるんですけど、それも観に来てくれる人がいなかったらそもそも成り立たないことだし、バンドメンバーがいなかったらすごく寂しいことになるし、そこでライブを組み立ててくれる人がいなかったら……って、活動してること全部が一人だったら、すごく虚しいものになる。歌詞では〈ふたり〉と歌ってますけど、誰かが関わることでまったく違った人生になっていくっていうのは日々感じてます。この曲を書いたことで改めてそれを深く感じられるようになりました。

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