2024.08.13 18:00

back number「新しい恋人達に」が真摯に描く“人生”と向き合う姿勢　『海のはじまり』と共振する言葉の力

文＝森朋之

　「新しい恋人達に」のハイライトは〈誰の人生だ〉というリフレインだろう。その根底にあるのはおそらく、自分の人生に“これでいい”という確信を持てないでいる姿だ。

　我々は生まれた瞬間から、否が応でも、いろいろな役目を与えられる。子供の頃は子供らしく、社会人になれば社会人らしく。もちろんあらゆる場面で評価や成績がつきつけられ、そのたびに自分の不甲斐なさを思い知らされる。ある年齢を過ぎれば結婚や子供をどうするか？　という謎のプレッシャーに晒され、もし子供が生まれれば今度は“父親らしく”“母親らしく”という圧がかかる。もちろん結婚や子供を持つかどうかはすべて個人に委ねられていて、他人がとやかく言うことではまったくないのだが、それでも私達は他人と自分を比べてしまうし、「自分の人生はこれでいいのか、よかったのか」「思い描いていた理想とはずいぶん違う」というネガティブな思いからなかなか逃れることができない。親が大切、子供がかわいいと素直に思える人もいれば、どうしても親を好きになれない、自分の子供に愛情が持てないという人もいる。“父性”にもいろいろな社会性がまとわりついて、この言葉自体が嫌いだという筆者のような人間もいるのだから、当然、母性という言葉に反発を覚える人もいるはずだ。そんなもの、私に押し付けないで。私は私の人生を歩みたいんだから、と。

　そんな葛藤や誰にも言えない思いを抱えて日々を過ごしているすべての人々に、〈誰の人生だ〉というフレーズは、大きな気づきを与えてくれるだろう。この言葉が聴こえてきた瞬間に訪れる痛みや切なさを伴ったカタルシス、そして、“そうだ、自分はこの言葉を欲しがってたんだ”という思い。それは聴き手それぞれのどうしようもない感情をーーたとえ一瞬であってもーー解放してくれるはず。そして、この感覚こそが「新しい恋人達に」があらゆる人を強く惹きつける源なのだと思う。

　もう一つ記しておきたいのは、この楽曲の音楽的な充実だ。プロデュースは「ヒロイン」「手紙」「ハッピーエンド」「HAPPY BIRTHDAY」などを手がけてきた小林武史。中心にあるのはギターと歌。ピアノ、ストリングスによって温かく、切ない音像を生み出し、1分15秒過ぎに小島和也（Ba）、栗原寿（Dr）のプレイが加わる。音が重なるたびに歌詞に深みが増し、豊かな広がりが生まれるアレンジメントは、流石としか言いようがない。もちろん、真ん中にあるのは清水、小島、栗原のバンドサウンド。バンド自体がどんなにデカくなっても、3人の音と歌が生み出すヒリヒリとしたリアリティはまったくブレることはない。

　back numberは現在、初の対バン形式でのアリーナツアー『anti sleeps tour 2024』（全国15カ所32公演）を開催中。「既存のback numberという概念を飛び越えて120％のエネルギーで臨まなければ俺たちなど一瞬で蹴散らしてくれる人達にお声がけしました」という対バン相手は、LACCO TOWER、秀吉、Vaundy、ストレイテナー、SHISHAMO、ハンブレッダーズ、ゴールデンボンバー、優里、ねぐせ。、My Hair is Bad、マカロニえんぴつ、TOMOO、Perfume、BE:FIRST、Saucy Dog、クリープハイプ。10月26・27日のさいたまスーパーアリーナ2daysは、清水依与吏とback numberの共演が実現する。ジャンルを超えたバンド、アーティストとの対バンはback numberにとっても大きな刺激になるはず。すでに行われたツアーでは「新しい恋人達に」も演奏されている。各会場に足を運ぶ方はぜひ、ライブの「新しい恋人達に」をしっかりと堪能してほしいと思う。