香取慎吾は役を通してアイドルとしての顔を分解する? 憂いと笑いを自在に操るコメディ演技の凄み

 稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾による教育バラエティ番組『ワルイコあつまれ』(NHK Eテレ)内の「ケミカルドラマ」が面白い。「ケミカルドラマ」とは、化学の不思議をドラマ仕立てで学ぶことができる不定期コンテンツ。本格的なドラマの途中に化学実験の映像が差し込まれるというシュールな構成に、初めて観た人は思わず戸惑うかもしれないが、ドラマの盛り上がりと真面目な解説のメリハリがまた他にはない魅力だ。

 これまで草彅が3回、稲垣が2回主演を務め、とてもバラエティ番組の1コーナーとは思えない豪華ゲストとの共演が実現してきた。まさに“熱演の化学反応”も楽しめると名物化してきた印象だ。そんなケミカルドラマが、7月23日放送の第95回で「ケミカルシアター」にリニューアル。満を持して主人公を香取が担ったのだ。

 「俺はどうして人格がコロコロ変わるんだ……」――。香取が演じたのは、お菓子などに使われる青の着色料“インジゴカルミン”をイメージとした、インディーというキャラクター。酸化と還元によって黄色、赤色、緑色とコロコロと色が変化する。交通信号と同じ色から「信号反応」と名づけられた化学反応をインディーの多重人格に見立ててストーリーを展開。オツ(=酸素のO2)の白石麻衣と、グルコ(=グルコース)の美山加恋のあいだで揺れ動く恋愛ドラマに仕上がった。

 オツとグルコとの鉢合わせを避けてきたインディーだが、ついにその正体がバレてしまう。すると、インディーの暴走を止めるべくヨウカ(=ヨウ化ナトリウム)に扮した新納慎也が登場。ヨウカがインディーをハグすることで大量の泡と蒸気が発生する反応が起こり、すべてが泡に飲み込まれていくという結末になった。

 香取といえば、これまで多くのコントを演じてきた印象が強い。この日の放送でも、「ケミカルシアター」の直後に「ワルプロジェクト101」というコントに登場。サバイバルオーディション番組『PRODUCE 101』をオマージュした内容に加え、香取はNiziUを輩出したオーディション番組『Nizi Project』を手掛けたJ.Y. ParkをモデルにしたS.K.パークになりきっていた。

 有名人やキャラクターの特徴をつかんでコントで演じるのは、香取にとってはもはや歌やダンスと同じくらい長い間トライし続けてきたこと。その姿に安心感さえ覚えるくらい、おなじみの光景となっている。だからだろうか、たとえコメディドラマであったとしても香取のシリアスな演技にゾクッとさせられる瞬間がある。

 今回の「ケミカルシアター」で香取が演じたインディーは、グルコの前では紳士的で優しい男、そしてオツの前ではキレやすい俺様な男と、それぞれまったく別の顔を見せていた。さらには、人格が入れ替わってしまうことを自らあざ笑う6歳の少年の顔や、すべてを支配しようとする謎の男の顔まで飛び出す。いずれの顔も普段の香取のイメージからは程遠い、どこか憂いてしまいたくなる顔ばかり。

 その演技にゾクッとしてしまうのは、そのイメージにはない顔を見せられるたびに、香取がこれまで“パーフェクトビジネスアイドル”という役を完璧に演じてきたことを実感させられるからではないか。だからこそ、まるで見てはいけないものを見てしまったかのような気持ちになるのかもしれない。

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