日食なつこの底知れない才能 未発表曲披露ツアー『エリア未来』EXシアター公演の衝撃

 バンドの演奏はなく、暗闇の中で小さく灯される光を背にして歌い始める「c」に息を呑んだ。逆光でシルエットだけが浮かび上がる日食なつこの歌は美しく、広い宇宙の中で彼女だけがポツンと存在しているように見えた。歌われている内容は、孤独を貫く意志とそれに伴う恐怖──そして、それでも生き方を変えられない業と自負についてだろうか? いつの間にかバンドメンバーの演奏が合流し、雄大なアンサンブルが曲のスケールを押し上げる(ラスサビ前のギターが超カッコいい……!)。これは心でも頭でもなく魂に訴えかけてくるような歌だと感じたし、もっともっと広い場所で歌われるべき曲だと思う。「c」はこの日一番の名曲であるばかりか、彼女のキャリアの中でも一際輝く一等星になるような曲なのではないだろうか。

 あまりの歌に放心しているところで、小休止のようなMCが入る。小文字のアルファベットはどんな意味があるのだろう? と思っていたが、単に日食なつこが「家で作った順につけただけ」だという拍子抜けな種明かし。日食なつこのことだから、何か意味があるのではないかと深読みしたリスナーは多いはずで、次に演奏された「h」はまさにそうした罠にかかった曲だろう。5月に公開された配信ライブ、『談話室』で一部披露された曲であり、「エイチ」というタイトルに対し「叡智」という当て字がコメント欄で出てくるなど、彼女の曲にハマっている人ほどその意味を探っていたはずだ。ともあれ凄いのは楽曲であり、やはりPCの画面越しに見るのとはわけが違う。各々のスキルとスキルが衝突するような、4人の情熱的な演奏に身体ごと持っていかれるロックナンバーである。

 最後はこの日演奏された曲の中で、最初に作られたという「a」である。夢見心地な鍵盤のフレーズで始まるが、ベースは腹の底に響くような重厚感があり、ダイナミックなドラムと共に次第に熱を帯びていく4人の演奏は、例えようのない勇壮さを纏っているように感じた。おおらかな歌とコーラスが入るサビに比して、中盤を過ぎた辺りで繰り広げられるアンサンブルは混沌としており、ある意味で一番得体の知れない、この『エリア未来』を象徴するような楽曲になっていたように思う。

 さて、全10曲を演奏したところで一旦の区切りである。が、この日のライブはまだ終わらない。ここからは来場者のリクエストを聞き、この日気に入った曲を3曲演奏するというサービスが行われた。komakiが「暴動が起きたのかと思った(笑)」というほど会場からは一斉に様々な声が上がったが、それもそうだろう。この日演奏された曲は、次にいつ聴けるのかわからない曲たちなのである。結果「c」「f」「a」を演奏して終演。きっと足を運んだ多くの人が、期待を超える一夜を味わえたのではないだろうか。

 だからこそこの日演奏した10曲が、このツアーに来た人だけの宝物になってしまうのはもったいない! もうこのままの曲順でアルバムにしてほしいくらいであり、もちろんこの公演から録ったライブ盤でも嬉しい限りである(「ダウナー過ぎる」という理由でこの日演奏しなかった「i」という曲もあるらしい)。

 とにもかくにも、はっきり言って絶好調なのではないだろうか。新たに生まれる楽曲は確かに彼女の新しい側面を反映しているように感じるし、それを最高のクオリティで具現化する「日食クルー」の存在がある。そして、この先には自身最大規模を含むツアーとベストアルバムが待っているのだ。個展『エリア過去』に足を運んだ際にも感じたことだが、『宇宙友泳』は新しい日食なつこに出会う場所なのだと思う。

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