TM NETWORK、テクノロジーの発展で実現したライブ体験 “唯一無二”を追求し続けたキャリアを振り返る

唯一無二のステージを完成させるための試行錯誤

木根尚登

ーーサウンド然り、照明演出でも最新のものが導入されていたようです。明らかに光量が強くなっていたり、しかも円盤が自在に飛ぶような照明であるとか……。

小室:(可変式の)ドットミラーですね。ほとんどのスタッフは演奏している僕たちと同じクリックを聴いていて、同じアナウンスやキューも共有しているんです。なので照明も、楽器を演奏しているのと同じ動作で操作していたと思います。光量はどんどん増えるんですけど、やっぱり(各照明の)距離を変えたいと思っていたところ、ドットミラーで照明に蓋をすることで実現できました。あの演出で曲間も楽しんでもらえたんじゃないかなと思いますね。両面鏡になっているウィンチモーターを上からワイヤーで吊っていたんですけど、本当に細やかな調整をしないと、会場によっては空調でも揺れたりするんですよね。僕には見えていないんですけど、ウィンチのスピードがすごく速いんですよ。暗転した瞬間にウィンチモーターが降りて、照明に蓋をしてしまうんです。そのスピード感がすごくて。だからモーターの音も大きいんですよ。

ーーモーター音をかき消すために大音量になったのですか?

小室:そういうわけじゃないですけど(笑)。システムノイズがすごく出ていると思います。

ーー冗談です(笑)。なのでやっぱり最新のライブエンターテインメントが観られたという印象を持ちました。

小室:ありがとうございます。おそらくイヤモニの精度も上がったことも影響しているんだろうと思います。(足元の)転がしのモニターじゃ無理だよね(笑)。

宇都宮:無理ですね。

ーー宇都宮さんのボーカルも素晴らしかったです。何度か拝見した中でますます声がフレッシュで、一層若返って聴こえるような印象がありました。何か歌い方を変えているところはありますか?

宇都宮:あえて変えたところはないです。今自分ができることをやっているだけですね。喉の調子も、年齢もあるだろうし、今できることがそのまま形になっていたんじゃないかな。

ーーボーカルのコンディションを整えるのは大変ですか。

宇都宮:大変です。よく言うんですけど、普段の一日のルーティンをライブと同じルーティンにしていると、なんとなく声が出しやすいというか。それぐらいですね。特別なことやってないんだよね。

ーーセットリストもわりと宇都宮さんが何曲か歌って、小室さんと木根さんが「Carry on the Memories」を歌ったり、ソロコーナーやインストパートが挟まったり、宇都宮さんが少しずつ休めるスペースがあるような……。

宇都宮:休ませてもらってます。

ーーやはりボーカルのコンディションを考えてのセットリストになっているのですね。

宇都宮:そうですね。

小室:多分、無理すれば良いものができるっていう考えは、世界的になくなってきているんじゃないのかなと思うんですよ。良いコンディションでどれだけ2時間保てるか、みたいなことをみんな考えているんじゃないかな。今思えば、昭和の時代に宇都宮くんがやっていたことは大変すぎる。歌って踊って2時間っていうのは……。

宇都宮:で、(当時は)夜も遊んでなんぼみたいな、朝まで(笑)。

小室:アスリートの人たちのいろんなニュースソースでよくわかりますよね。100mを走る方のコンディションとか、その瞬間ベストを出すためのデータが今はいっぱいありますよね。本当に、この数年でボーカリストがどれぐらいカロリーを使うかがよくわかりました。三人のセミファイナルのときは、2曲くらい間奏やブリッジの少ない曲があったんですけど、「キツイんだよね……」って言われてね。

宇都宮:「わかる」って言われましたからね。

小室:それはよくわかります。過呼吸になりかねないですよね。今の時代の歌ってブレスが少ないじゃないですか?

ーーもともと小室さんの楽曲はブレスが少ないし、それだけシーンに大きな影響を与えたってことですよね(笑)。

小室:そう、そもそも少ないので、途中からサビ前に2小節をつけることを学んだりとか、少しずつボーカリストのことも考慮したアレンジを学んではきたものの、それでもまだわかってないところがたくさんあった。後で分析してみればわかると思うんですけど、本格的に休むのではなく息を整えてもらう時間、呼吸を整える時間は均等に作っているので。ツアーの後半は舞台監督から「宇都宮さんは何歩でマイクスタンドまで行くので、何分ないと駄目なのでお願いします」と言われました(笑)。それを小節数に置き換えて、テンポやBPMを変えたり、どんどん数字的というか、理系になってきていることは確かですね。いろんなことが数字で全部わかるので。僕はそれも楽しいので良いことなんですけど、二人に対しても数字で言うことが増えてきました。

ーーただ、その分楽器隊は全く休めないという。ツアーファイナルは北島健二さんと阿部薫さんのソロをフィーチャーした「COEXISTENCE」以外は、小室さんと木根さんは出ずっぱりでしたね。

木根:でも、僕なんかはちょいちょいウツと一緒に休んでいましたけどね(笑)。

小室:そもそもこういう楽器編成でやろうよと言った自分に、一番責任があると思います(笑)。他のグループとは違うことをしたいというのがそもそもですから。アコースティックギターと電子楽器と、皆さんにわかりやすいボーカル……難解なものじゃなくてね。それとコーラス、これだけの要素でやっているグループは、海外アーティストを含めても、今、ぱっと出てこないと思います。やっとそういう風に、恥ずかしがらずに言えるようにはなりましたね。

ーーTMは唯一無二です。

小室:多分いないんじゃないですかね? キーボーディストも亡くなってる方は多いですし、僕たちが憧れていたグループもキーボードがいなくなってできなくなったっていう話はたくさんあるんですよね……ピンク・フロイド然りですが。

ーーしかもTM NETWORKの場合はその先に行こうとしているところが素晴らしいです。

小室:うん、本当『CAROL』みたいなのを80年代ギリギリですけど、やっておいてよかったなとは思いますね。

宇都宮:今の時代だったらどういう風になるんだろうね? とんでもないことになるよね。当時は結構マニュアルでやっていたから。

ーーAIで『CAROL』のジャケットアートを動かすという最新技術を拝見したときに、30周年では現代版『CAROL』を見せてくれた感じでしたが、今回は当時の時間軸のバージョンアップ編の『CAROL』を見せてくれたという。しかも『CAROL』組曲はオリジナルアレンジに近い形でプレイされたのが鮮烈でした。いろんな音楽を聴いてきて、こんなにこだわっていたのか! というのが今聴いてわかりました。

小室:レコーディングのことを思い出せば、これ音楽なのかな? っていうぐらい、大変だったと思いますね。重労働でした(笑)。みんなツライ思い出しかないと思います。

ーー実際、今回演奏してみていかがでしたか?

小室:僕はもう楽しかったですね、はい。

関連記事