ゲスの極み乙女、4人に訪れた“10の転機”をたどる1万字インタビュー 結成から改名、そして現在を語る
⑤初の日本武道館公演と活動休止
「“転機”といったら、たぶんそこしかないぐらい」
――2015年にかけてゲスの極み乙女。が社会現象化していったあと、2016年には初の武道館ワンマン(『ゲス乙女大集会〜武道館編〜』)をやる一方、一時活動休止という出来事もありました。あの時期に休んだというのは、結果的に今のゲスにとってとても大きなことだったんじゃないかなと思うんですけど、あらためて振り返るといかがでしたか?
川谷:それまで、あんなに休むことはなかったんですよね。といっても、数カ月の話ではあるんですけど、その間にいろいろ考えたこともあるし、一度立ち止まって考えることができた。冷静には考えてなかったですけど、その時にしか経験できないこともあったから、いろいろな国に行ってみたりとかして。よくも悪くもそういう時期があったからまとまった考えもあるというか。結果論なんですけどね。
――休んで戻ってきた時に、バンドの放つエネルギーやテンション感はやっぱり変わりましたよね。
ちゃんMARI:休む前は、本当にゲスの極み乙女。のことしか考えてなかったんです。結成した当時は私はまだアルバイトとかもしていて、「音楽で食べていきたい」みたいな気持ちが強かった。「ゲスの極み乙女。だったらそれができるんじゃないか」と思って、わーって走ってきたんですけど、それがなくなった時に、ゲスの極み乙女。を結成する前に自分がやりたかったことをちゃんとやろうと思って。そこに向き合って、いろいろ考えたりした時期だったと思います。で、それがまた、ゲスの極み乙女。に戻ってきた時にちゃんと全部還元できるように、どんどん相乗効果で高めていけるように、って。
課長:活動を休止した時に、いつも当たり前だったものとちょっと距離ができるというか。自分にとってゲスってデカい存在だったんだな、って。だから、再開した時は純粋に嬉しかったし、「このメンバーだから“会社を辞める”という決断ができたんだな」とか思ったりして。地に足ついて「よしやるぞ!」とあらためて思えた記憶があります。
ほな・いこか:うん。その期間で自分がやりたいことを見つめ直せたというのもあるし、だからこそ結果的には何かがクリアになったんだろうなって。
――今回“10の転機”というテーマでインタビューしてますけど、これほど大きな転機もなかったですよね。
川谷:“転機”といったら、たぶんそこしかないぐらい(笑)。あとはもう最初だよね。
ちゃんMARI:それ以外はだいたい同じことやってる気がする(笑)。
――川谷さん自身も、戻ってきたと思ったらすごい量の仕事をしていきましたよね。それもきっと、ゲスの極み乙女。というバンドがどういうポジションなのかがクリアに見えている状態だからこそ、いろいろやることができるようになっていったのかなって気がするんですよ。
川谷:今はそうなんですけどね、でも当時はあんまり考えずにやってた。自分のフラストレーションだったり、状況を打破するためにとりあえず何かやらないといけないという思いもあって、見境なく仕事を受けていた状態だったんですよ。選ぶようになったのは、最近になってようやくですよ。だから、正直やりたくないこともやってた。でも、それが自分にとってプラスになったらいいなって。
⑥活発化していく個人活動
「個々が別のことをやっているからこそ、今はすごく濃い時間が過ごせている」
――川谷さんだけじゃなく、メンバーそれぞれの活動も活発になっていきましたよね。各々のなかでそういうアクションが増えていったのはどうしてなんでしょうね?
川谷:それぞれがそれぞれでやるのも、それはそれでいいと思っていて。それでまたここに戻ってきた時に――よくインタビューでも言っていたんですけど、それぞれのキャラが立っているから、逆にそれぞれがもっとすごいことになったほうがバンドとしては有益というか。バンドとして走り続けることしかやってこなかったので、それぞれが大きくなって戻ってくるみたいな。バンドって違う人生の人が集まっている箱みたいなもので、みんなが外側から思っているよりも複雑で、それを尊重し合わないと続かないと思うんです。だから、みんながそれぞれにやりたいことを尊重して、かつ音楽をちゃんとやっていくという方向にいったというか。
――今回リアルサウンドで4人全員でご登場いただくのは初めてなんですけど、過去にどんな記事が出ているのかと見たら、課長が『TERRACE HOUSE OPENING NEW DOORS』(Netflix)のことを話しているインタビューがあったんです(※1)。
ちゃんMARI:そんなのあったんだ(笑)。
課長:あれはめっちゃ転機だった。大転機!
――課長はそのあと料理でもブレイクしたし、いこかさんも女優として本格的に活動開始したし、ちゃんMARIさんもソロデビューしたり、プロデュースワークを始めたり。全部の始まりがあの時期だったというのは意味があると思いますね。
ちゃんMARI:やっぱりずっと一緒にいられるわけじゃないから、というのは思います。せっかく4人で一緒にいるからこそ「こういうことをしよう」とか「何かできるかな?」とか、その時間に集中してやりたいという気持ちが強くなりました。
ほな・いこか:個々が別のことをやっているからこそ、今はすごく濃い時間が過ごせているなと最近は特に思っていて。レコーディングもそうなんですけど、その集中力の高さがあるのはすごいことだなって。そこには個々の持っているものと育ってきたものを共有できているというのがあるんだろうなと思います。
――ゲスの極み乙女として表立って活動するタイミングは限られてきていますけど、たとえばジェニーハイとか礼賛の現場でも、ゲスメンバーの力が発揮されているわけじゃないですか。バンド、チームとしてのゲスのあり方も、よりフレキシブルになってきている感じがするというか。
川谷:そうですね。インディゴやジェニーハイの弦アレンジをちゃんMARIに頼んだりとか。提供楽曲で仮歌を歌ってもらったりもしているんですよ。
ちゃんMARI:すごい楽しかった(笑)。
川谷:それもゲスでボーカルをやったことがデカかったと思うし、ソロでもやっているからだと思うし。今までとは違うこともできるようになってきた。ちゃんMARIは音楽の才能が素晴らしいので、放っておいても大丈夫(笑)。ほなみちゃんも放っておいて大丈夫でしょ。課長も今はそうなんですけど、課長は『TERRACE HOUSE』前はーー。
課長:『TERRACE HOUSE』前(笑)。
ちゃんMARI:『TERRACE HOUSE』以前/以後っていうものが存在する(笑)。
川谷:(笑)課長は真面目だから、真面目ゆえに失っている機会があるなと僕はずっと思っていたんです。バラエティでももっといろいろ活動できるのに、って。そう思っていたから、もともと僕自身好きだったのもあって、『TERRACE HOUSE』に課長が出たら絶対ハネると思った。それで、面接に行ってもらったんです。
――そうだったんだ。
川谷:そこから課長の個人活動は、めちゃくちゃ変わった。それがチェックメイトみたいな感じで、本当に『TERRACE HOUSE』に出てからは課長も放っておいても大丈夫になった。
ちゃんMARI:結果、今はみんな放っておいて大丈夫(笑)。
課長:たしかにあれは変わりましたね。認知度が全然変わった。
ほな・いこか:キャラがはっきりしましたよね。
課長:たしかにそうかも。
ちゃんMARI:一回も話したことない出演者の人にフェスで話しかけてもらったりね。
川谷:みんな、「『テラハ』観てました!」みたいな話になるもんね。
課長:今でもなるよね。
ほな・いこか:私でさえ言われるもん。
ちゃんMARI:あ、私も言われる(笑)。
⑦indigo la Endとの対バン『馳せ合い』開催
「(indigo la Endは)やっぱり上手いから、ライブを観てて“うわあ!”って」
――そうやってそれぞれの世界が広がって今に至るっていうことなんですけど、川谷さんの中心にはindigo la Endとゲスの極み乙女というふたつのバンドがずっとあって。そのバランスは変わってきましたか?
川谷:インディゴとゲスが2本の柱としてあるのは、そんなには変わらないです。活動ペースに変化はあるんですけどね。あとインディゴのメンバーはゲスと違って、ある程度の距離感あるんだよ、やっぱり。
ほな・いこか:メンバー内で、っていうこと?
川谷:うん。たとえば、僕の一年のなかで8割インディゴで活動して、あとの2割がゲスだったとしても、半々くらいに感じるんだよ。
ちゃんMARI:(笑)。
――そんなに薄いんですか?
川谷:特に打ち上げもないし、あんまり話さない。ずっと薄い感じで続いてる(笑)。
ちゃんMARI:細く長くって感じなんだ。
川谷:ゲスは会ったら喋ったりするし、ライブとかの打ち上げも行けたら行くし。だから全然違う。そこでバランスが取れてる感じがあるかな。
――ゲスのメジャーデビュー5周年(2019年)のタイミングで、ゲスとインディゴのツーマン『馳せ合い』を始めたじゃないですか。そこではゲスの空気感とインディゴの空気感が同じ現場で混ざり合うと思うんですけど、あれをやったことって両バンドに影響ありました?
川谷:あるのかなあ? 僕は、ファンの人たちが喜べばいいなと思って始めたから。インディゴの長田(カーティス)くんがいつも言ってるけど、「ゲスが盛り上がりすぎてて、そのあとの自分たちが盛り上がってない」みたいな。
ほな・いこか:そんなことないし!
ちゃんMARI:聴いてるんだよ。
川谷:というのは見て思うんじゃないですかね。ボーカルも変わらないし、お客さんもあんまり変わらないのになぜかそうなる。それは曲調が違うからしょうがない話なんですけどね。でも最近、長田くんのライブパフォーマンスが外を向いてるなと感じる時があって。それはゲスの影響があるかもしれないなと思ってます。本人にそれを言ったら嫌がると思うんですけど(笑)。
――逆に、ゲスがインディゴから影響を受ける部分ってありますか?
ちゃんMARI:やっぱり上手いから、シンプルにライブを観てて「うわあ!」って思ったり。みんなが大人しくインディゴを観ていたとしても、私はめっちゃ踊ります。私しか踊ってない時もあるけど(笑)。
――『馳せ合い』はもう5回もやってますよね。去年はたくさんやったし。っていうことは、「お客さんのために」という部分が大きくあるにしても、ならではの面白さみたいなものもあるんでしょうね。
川谷:そうですね。セットリストもそこでしかないセットリストになったりするし。タイトルもだいぶ定着してきたなと思うので、他のバンド同士でやっても面白いかもしれないですね。ジェニーハイと礼賛とか。
ちゃんMARI:それ観にいきたい!