その後、ライブは松本ひとりによる弾き語りコーナーへ。改めて「学生時代の終着駅に立つことができました」と節目を迎えたことを伝えつつ、「ここを始発駅として、いろいろな人に届けていきたいと思います」と決意を新たにすると、アルバムに込めた思いを語りながら披露したのは「車窓」だった。「自分たちの音楽が聴く人すべての故郷になったらいい」という気持ちを乗せた松本の歌はとてもあたたかく、そして優しかった。そんな弾き語りのセクションを経て、再びステージに戻ってきたメンバーとともにライブは再開。ここでは『Terminal』の楽曲を中心にバラエティ豊かなサウンドが次々と披露されていった。「Dreamin' Jungle」は音源以上にダイナミックかつグルーヴィに生まれ変わっていたし、「Be My Baby」では再びコール＆レスポンスが場内の一体感を高める。今の彼らが早くもアルバムのその先へと足を踏み出していることが、鳴らされる音にもはっきりと表れている。

　いつもはファイナルに据えられることの多い地元・東京公演だが、今回は初日。そうなった理由について、堂免は「終着駅に行くための出発点として、ホーム東京で『行ってきます』と言いたかった」と語る。その意味では、ここまでのライブは最高のスタートダッシュといっていい。ありあまるエネルギーを解き放つようなライブのテンションは、確かにファイナルだったら見られなかったものかもしれない。そしてそのスタートダッシュもいよいよ終盤に差し掛かったところで、投下されたのが「天国街道」。昨年から彼らのライブにおけるハイライトを飾ってきたこの曲が、この日もリキッドルームを最高のバイブスで包み込む。だがこの日はそれだけでは終わらなかった。曲が終わった瞬間にステージに飛び入りしてきたのはミュージックビデオに出演していたジャッキー・チェンそっくりのモノマネ芸人、ジャッキーちゃんである。メンバーも事前に知らされていなかったらしく、松本も目を丸くしている。そんなジャッキーちゃんだが、彼にとってはまだまだ盛り上がり足らなかったらしく、「今のでいいの？」とメンバーに器を配って手にした瓶から何かを注いで回っている。なんでも「中国から持ってきた紹興酒」だそうである。そのお酒をみんなでぐいっと飲み干し、もう一度「天国街道」をプレイ。紹興酒の力か、フロアとの距離もますます縮まって、さらに熱い〈一二三のリズムで踊らにゃ損々〉の声が場内に響き渡ったのだった。

　その盛り上がりのままライブは最終盤まで駆け抜ける。ライブでの鉄板曲を重ねつつ、本編の最後に演奏されたのは『Terminal』の中でも松本のパーソナルな思いが色濃く滲む「long good-bye」。ここから旅立っていく彼らにふさわしい高らかなリズムとメロディで、リュックと添い寝ごはんは初日を締め括った。その後オーディエンスによる「everyday」の合唱に呼ばれて始まったアンコールではさらなるサプライズもあったのだが、それについてはここでは明かさない。だがひとつだけいえるのは、リュックと添い寝ごはんの「出発」はこの上ないほどに上々だったということだ。ふと気がつけば、これまで不動の定番曲だと思っていたあの曲もあの曲も、この日のセットリストにはなかった。作品を重ねていくとはそういうことだが、そんな選曲もまた、進み続けるバンドの姿勢を物語っていたように思う。