THE YELLOW MONKEY、極上のロックンロールで鳴らす10枚目の名盤『Sparkle X』 アルバム全曲解説

 THE YELLOW MONKEYが通算10作目のオリジナルアルバム『Sparkle X』を5月29日にリリースした。2016年の再集結以降では、前作『9999』(2019年)以来約5年ぶりの新作にあたり、今年1月にデジタルリリースされた「ホテルニュートリノ」や4月27日に実施された東京ドーム公演『THE YELLOW MONKEY SUPER BIG EGG 2024 "SHINE ON"』のタイトルにも用いられた「SHINE ON」など全11曲を収録。先月、5月10日に都内で実施されたアルバム最速試聴会&合同メディアインタビューでメンバーが語ったところによると、本作の制作にはのべ5年が費やされ、アルバムの方向性が見えてきたのは今回の東京ドーム公演のスケジュールが決まってからだという(※1)。

 吉井和哉(Vo/Gt)の喉の不調と向き合いつつ、現在の声の状況を活かしながら制作に臨んだ本作は、90年代のTHE YELLOW MONKEY以上に純度の高いロックンロールが展開された前作をも凌駕する、メンバー4人のルーツに原点回帰したような内容。年齢を重ねるごとにますますシンプルなアンサンブルで昇華されている楽曲/サウンドは、今やクラシックロックと呼ばれる70〜80年代のロックを下地にしたものであり、そこにこのバンドらしい遊び心を散りばめたおチャラケ感と神経が研ぎ澄まされたスリリングさが織り交ぜられることで(とはいっても、今作はおチャラケ感が従来の作品よりも控えめなのだが)、従来のTHE YELLOW MONKEYらしくもあり、同時に新しさも伝わる新境地的作品集に仕上がっている。

 昨年末に結成35周年を迎え、10枚目という節目のアルバムということで、集大成的な内容になっても不思議ではないところ、この“平均年齢58歳”の大御所ロックバンドはさらに進化することを選んだ。いや、「選ばざるを得なかった」状況だったとも言えるかもしれないが、そうした外的要因は結果としてバンドに新たな刺激を与え、4人が足並みを揃えて前進するための後押しとなったことは間違いない。

 そんな意欲的な本作を従来のファンはどのように受け取るのか、そして今作で初めてTHE YELLOW MONKEYに触れる若いリスナーが何を感じるのか。本稿ではそんなニューアルバムに収録された全11曲について解説していく。

01. SHINE ON

 東京ドーム公演に先駆けてデジタルリリースされたこの曲は、バンドの原点を振り返りつつ、これから先も輝き続けていくという所信表明のようにも感じられる、アルバムのオープニングを飾るに相応しい内容。なぜこの曲タイトルを先のドーム公演のタイトルに用いたのか、歌詞をじっくり読めば頷けるはずだ。サウンド的には前作『9999』の流れを汲むシンプルなロックンロール路線で、曲冒頭でのギター2本の絡みがどこかThe Rolling Stonesを彷彿とさせる。こうしたスモーキーでレイドバックしたサウンドを、肩の力を抜いて表現できるのも今の彼らだからこそ。

02. 罠

HE YELLOW MONKEY - 罠(Official Music Video)

 イントロや曲中に登場する、シンコペーションを用いたキメフレーズがスリリングさを演出する、グルーヴィーなロックナンバー。初期から彼らが得意とする16ビートに、跳ねるようなオルガンプレイやワウペダルを用いたギターソロなどをフィーチャーすることで、過去のどの楽曲よりもファンキーに仕上がっており、聴き進めるうちにグイグイと曲に引き込まれることだろう。個人的には、Dメロで聴けるメロディ運びやアレンジに90年代のTHE YELLOW MONKEYらしさが感じられ、思わずニヤリとしてしまった。

03. ホテルニュートリノ

THE YELLOW MONKEY - ホテルニュートリノ (Official Music Video)

 昨年11〜12月に放送されたテレビドラマ『東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-』(WOWOW)の主題歌として書き下ろされた、アルバムリード曲のひとつ。初めてスカのリズムを取り入れた挑戦的な内容だが、しっかりとTHE YELLOW MONKEYらしいバンドアンサンブルでまとめられており、吉井らしいメロディライン、ドラマの内容と自身とを重ね合わせた歌詞が見事にマッチした珠玉の一曲と言える。今後演奏を重ねることで、間違いなくライブのハイライトになることだろう。

04. 透明Passenger

 菊地英昭(Gt/以下、EMMA)が奏でる心地好いギターリフと、90年代にレコーディングやライブでサポート参加していた三国義貴(Key)による軽やかなエレクトリックピアノ、曲後半を大いに盛り上げるギターのツインリードなど、王道の70'sロック的な要素が随所に散りばめられた、爽快感の強い一曲。クラシカルな要素が強めにもかかわらず、“THE YELLOW MONKEYらしさ”という観点では非常に新鮮に響く。そういった曲調に相反し、歌詞では人生の旅路をサーフィンに喩えつつも死生感すら伝わる、深みのある世界観が展開されている。

05. Exhaust

 アルバム収録曲の大半は吉井が作詞・作曲を手掛けているが、この曲は作詞を吉井、作曲をEMMAが担当している。異国情緒漂うギターリフやストローク、音数を抑えながらも存在感の強さを遺憾なく発揮する廣瀬洋一(Ba/以下、HEESEY)&菊地英二(Dr/以下、ANNIE)の鉄壁なリズムアンサンブル、セクシーさを漂わせた吉井による歌詞とボーカルがひとつに重なった、“今までありそうでなかった”この曲。10作目のオリジナルアルバムを通じて提示する、成熟したロックンロールのひとつの到達点とも言えるような仕上がりであり、今後新たな手札として重宝することになるのではないだろうか。

06. ドライフルーツ

 初期の彼らをイメージさせる軽やかな曲調で、歌詞においても往年の彼らのように〈ブンブン部分バンバン〉といった音の響きが印象的な言葉遊びを用いており、往年のファンは思わずニヤリとしてしまうのではないだろうか。しかし、演奏やアレンジ面においては派手さ控えめで、無駄を削ぎ落としたシンプルなもの。『Sparkle X』というアルバムを通して表現することで、こうした初期にありそうな楽曲からも新鮮さがしっかり伝わる。これもロックバンド/プレイヤー/表現者としての成熟がなせる技なのかもしれない。

07. Beaver

 HEESEYによるシンプルなベースリフから始まるこの曲は、前曲「ドライフルーツ」からの空気感を引き継いでおり、アルバム終盤に突入する前のリラックスモードと解釈することもできる。シンプルなバンドアンサンブルのなかに、ホンキートンク調のピアノや多重コーラスが程よいアクセントとなっており、そうした一筋縄でいかないところも非常にTHE YELLOW MONKEYらしい。ちなみに、タイトルや歌詞に登場する「Beaver」は文字通り動物のビーバーのことと思われるが、「Beaver」にはまったく異なる意味を持つスラングもあり、そちら側の解釈で歌詞を読むと牧歌的な内容がまた違って見えてくるから不思議だ。

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