キャリアを経て実感した“あと一歩”の大切さ

――「西南西の風」もすごく新鮮なサウンドになっていますね。

近藤：これは泰誠が弾き語りで作ってきて。「どんなんにしようか？」って喋ってたら……天女だっけ？

杉野：そう天女。天の女がふわふわ空で遊んでる感じの……。

谷川：どんなや。わかるか！

杉野：察してくれ。いつも熱量だけを持っていって、パッションで伝えるんですけど、伝わらへん時はほんまに伝わらないです。でも今回はちゃんと天女感出してくれて。

――じゃあ近藤さんは「なるほど」となったんですか。

近藤：いや、なってないですよ。

谷川「わからん」って言いながらやってたけどな。

近藤：「天女って何？」ってなるし、だからホワッとした感じで始まって、順を追って紐解きながらですね。最初からゴッといける時もありますけど。

――スケールがかなり大きい音になりましたよね。

近藤：そうですね。これはマジで今までになかったサウンド。シンセを使ってますけど、泰誠がシンセを使いたいって言うのが意外で。

杉野：弾き語りで作ってたんですけど、歌詞もスピリチュアルな感じなんで、ギターよりはそっちのほうが合うやろなって。それもあって「天女の音を作ってくれ」って言いましたね。音源を聴いて、このインタビューを読んで、天女感をちょっと味わっていただきたい。

――「KAEDE」は？

近藤：大元の部分は僕が打ち込んで作って。で、スタジオで「あと1歩で名曲になりそうや」「なんかあと一味ほしいな」と話して、童謡の「紅葉（もみじ）」を入れたんです。誰が言ってくれたか忘れたけど、すごくノスタルジックになったので、めっちゃ気に入ってる曲ですね。

――そういう「童謡を入れてみようぜ」っていうノリとか、さっきの「CISCO」オマージュをやってみたりとか、そういうプラス1アイデアで曲をよくしていこうというハードルが下がってる感じがしますよね。「やっちゃえ」っていう感じがすごくいい。

近藤：そうですね。あと1歩進めばさらによくなることが、経験的にすごくわかってきた。どっちかというと、引き算より足し算ばっかりなアルバムになったと思います。

――それこそ「CISCO」オマージュを入れるのって、逆に難しいじゃないですか。

杉野：あれも、最初は中途半端に似てた気がする。だから「もう『CISCO』やっちゃったら？」って。

――その「やっちゃったら？」という感覚が、このアルバムを開けたものにしてるんだと思います。「27」の歌詞でも〈ミッシェル〉や〈スモーキンビリー〉が出てきますが。

杉野：「27」はもともと弾き語りライブとかで歌ってた曲で……まあ、この声でミッシェルを「知らん」とは言えへん。

――というか、ずっと比較されてきたわけじゃないですか。

杉野：そうっすね。僕的には別にパクリって言われても、「違う」とはっきり言えるんで。むしろ「まだその段階なんや」って思う。

――そう。言ってしまえば「パクリと言われてもいいや、俺たちは俺たちだから」っていう。その度量があるから、やれることも増えたんじゃないですか？

杉野：それはめっちゃ感じますね。何も気にせずに作ったというか。やりたいこと、好きなことを詰め込んだアルバムですね。

退屈を変えてくれたミッシェルの「スモーキン・ビリー」

――しかも「沈まぬ太陽」では〈酒より飲むべき泥水を／俺はまだ飲み足りない〉っていう。前向きに燃えてるわけじゃないですか。

杉野：そうですね。この1曲目で、俺らがどういうテンションなのかを聴いてほしいです。

――その「沈まぬ太陽」で始まって、パーソナルな「27」で終わる流れもいいですよね。

近藤：「27」だけ遅れてできたんです。後から「ごめんなさい、あと1曲！」と言って入れたんやんな。

谷川：入れるつもりじゃなかったんですよ。1回スタジオでバンドサウンドで作って「これでOK」となったけど、次の日に和嗣がアコースティックバージョンみたいなやつも持ってきて。こっちの方がいいなとなったんです。

――だからか。CDだと9曲入りですけど、これで“ミニアルバム”って曲数多いなと思ったんですよね。

谷川：そう、めっちゃ微妙な数じゃないですか。でも、（スタッフにミニアルバムの）定義を聞いたら「ない」って言われたんで。

近藤：そのへんも自由になったな。

谷口：ミニやと思えばミニやし。フルやと思えばフルやし。

谷川：でもフルにしてはちょっと少ない気がする。

杉野：じゃあ、もうミニでええかって。

近藤：ミニにしては多いほうがお得感あるからな。

――でも「27」があるとないとでは全然違いますよね。

杉野：このタイミングで入れないと28歳になってまうし。ロックスターって、27歳とかで若くして死ぬって言われてるじゃないですか。でも俺が好きなロックスターはしぶとく生きてるというか。これを作った時はまだチバ（ユウスケ）さんも亡くなっていなかったんで。自分の人生を見返した時に……だからこれ、自分の歌ですよね。昔、俺の周りにはロクなヤツがいなかったんですけど、そこからチバさんとかに憧れてラッキーストライクを吸うようになって。バンドはやってたんですけど、地元で地道に頑張ることに対して、退屈というか、「一生ここにいるんかな」みたいに思ってた時期はあって。それを変えてくれたのがミッシェルの「スモーキン・ビリー」だったんで。それで〈退屈から／スモーキンビリーへ〉っていう歌詞になりましたね。

近藤：ええ歌詞やな。

――〈もう十年が経ち／まだ歌えて幸せだと思うよ〉というラインもありますけど、これは素直な気持ち？

杉野：もうすぐ27歳が終わるんですけど、たぶん死なないんで。そういう皮肉もあるんですけど。

――10年以上やってきた中で、いろいろ経験をして、どんどん大人になっていって、音楽をやること、歌うこと、曲を作ることに対する思いは変わってきましたか？

杉野：そうですね。より、素直になれる場所になってきた感じがする。自分にしかわからないことを詰め込めるおもろい場所というか、なんやかんや一番好きなのは音楽やなって最近思いますね。だからって「絶対続けてやろう」みたいなわけではないですけど、たぶんくだばるまでは続けるんでしょうね。続けることが目的でやってるわけじゃないけど、（バンドと）一緒にくだばれたらいいなという感じでやってます。

――紆余曲折もありながら10年以上やってきて、そこに谷川さんというラストピースも加わった。これが続いていくんだろうなっていう感覚は少なからずあるんじゃないかなと思います。

近藤：いろんな時期がありましたし、ずっと同じ気持ちではなかったんですけど、10年以上やってきて、今になって楽しくなってきたこともいっぱいあるし、すごくいいメンタルではありますね。

杉野：より一層、ゼロからスタートしてる感はありますね。

近藤：そうそう、ジャケット（写真）とかもな。

谷川：確かに。このジャケットのアートワーク、みんなで作ったんです。ヘルメット買ってきて、スプレーして。だから思い入れがあるというか。それが伝わってる感じもするし、大切にしていきたいアルバムだなって思います。

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◾️リリース情報
climbgrow『LOVE CROWN』
2024年5月15日（水）発売
価格：¥2,200（税込）
＜収録曲＞
1.沈まぬ太陽
2.罪ト罰
3.MARMALADE
4.瘋癲世界ノ少年少女
5.ROCK'N'ROLL DRUNKER
6.KAEDE
7.西南西の風
8.U (CD only)
9.27

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