ENVii GABRIELLA「縛りつけているのは他人じゃなくて自分」 ミニアルバム『DVORAKKIA』でさらなる解放へ
ENVii GABRIELLAが2ndミニアルバム『DVORAKKIA』をリリースした。ドヴォルザークの「交響曲第9番『新世界より』」からインスピレーションを受け、作詞作曲を手掛けるメンバーのTakassyによる造語が冠された今作には「航海」をテーマに全7曲を収録。3人が今挑む新たな航海とは一体何なのか? ミニアルバムについて、そして史上最大規模のツアーへの想いなど、たっぷり語ってくれた。(編集部)
自ら冠したワードからの解放「縛りつけているのは他人じゃなくて自分自身」
――今作は「航海」をテーマにしたコンセプトアルバムですが、そもそもコンセプトアルバムにしようと思ったのはどうしてだったのでしょうか?
Takassy:「絶対にコンセプトアルバムにしよう」という話で始まったわけじゃなくて、アルバム制作の打ち合わせの最初に「せっかくだったらコンセプトアルバムみたいな感じにしてみたらどうか」という話になったんです。2024年の私たちは、五大都市ツアーだったり、タイに行くとか(2024年2月『JAPAN EXPO THAILAND 2024』に出演)、トークショーで各地を回ることとかが決まっていて。新しいことが始まる年になりそうだったんです。だから「新しい場所に立つ」という意味で、船出をテーマにしてみようかということになりました。
――コンセプトアルバムだと、作り方は普段とは異なりますか?
Takassy:普段も裏コンセプトとか裏テーマはうっすら決めて作っているので、制作にそこまで大きな違いはなかったんですけど、今回は“色を統一する”ということをすごく意識しました。船出がテーマだったので、全曲通してブルーをはじめとする寒色っぽい感じにして。他の色が入ってきてもグリーンくらい。普段は逆に同じ色にならないように作るんですよ。全部の曲がそれぞれ違う発色になるように作っていくんですけど、今回は突飛な色が来ないように、きれいなグラデーションになるように作っていきました。
――その作り方は難しかったですか?
Takassy:世界一周するというテーマを決めていて、アフリカン、ラテン、カントリー……曲ごとのジャンルやテーマも固まっていたので、いつもよりも「次は何にしよう?」みたいなことがなくて、どちらかと言うとスムーズだったかもしれないです。
――今作はシングル曲が「哀恋」の一曲で、あとはすべてアルバム用の新曲ですが、新曲群のなかで軸になった曲や、とっかかりになった曲を挙げるなら?
Takassy:今回は全曲同時進行で作ったんです、「いっせーのーせ!」で。それは自分のなかでも珍しいことなんですけど。シングルが一曲しかなかったので、早くふたり(HIDEKiSMとKamus)にも聴かせたいと思って全部同時進行で作りました。そうしたら、頭のなかで、フルアルバムにしたいくらい構想が膨らんじゃって。でも、いきなり「フルアルバムにしたい」とスタッフに言っても「またなんか言い出した!」という感じになると思って、しっかりプレゼンをしようと思って。去年の段階で10〜12曲くらい作ったんですよ。「こんな曲を作って、これを入れたいんです」というイメージを、音で伝えたかった。で、プレゼンをしたら「気持ちはわかるんですけど……」って、予算が難しいと言われちゃったの(笑)。だから、凝縮してぎゅっとしました。
――凝縮? 今作はトラック1から4まで、1曲に2曲分が入っている面白い構造だなと思っていたのですが、もしかして……。
Takassy:はい、そういうことなんです(笑)。頭のなかで完結しちゃっていたから、ここから曲を減らしたら欠けちゃうし、つながらない。いろいろ考えて「そうだ! 1曲に入れちゃおう!」って。
――たしかに、世界一周をテーマに曲作りをしていたのであれば、そこから曲を抜くわけにはいかないですもんね。
Takassy:そうなんですよ。自分のせいなんですけど(笑)。
――アルバムを作り始める段階ですでにあったシングル曲「哀恋」は、デモが2013年にはできていたそうですね。
Takassy:はい。エンガブを結成する10年前に作っていた曲で。自分で歌おうと思っていたんですけど、社長が気に入ってくれていて。実は、当時は違うアーティストの曲になる予定だったんです。でも、結局披露されずにずっとお蔵入りになっていて。エンガブの2024年1発目を考える時に、和風な感じの曲がいいねという話になって、そこで社長が「あの曲がいいんじゃない?」と覚えてくれていて。今回リリースすることになりました。
――10年前のデモをあらためて聴き返してみて、ご自身の変化は何か感じましたか?
Takassy:今だったらあんまり書かないような、どっぷり別れに浸る曲になっているなと思いました。ただ作家として冷静に見ると、デモの状態だとエンガブの曲にはなっていないなと思ったので、新しくセクションをつけ加えて、私とHIDEKiSMのツインボーカルになるように変えて。アレンジも、Kamusがパフォーマンスすることをイメージしました。
――HIDEKiSMさんとKamusさんはこの曲を初めて聴いた時、どう感じましたか?
HIDEKiSM:今までのエンガブの曲には、こんな“THE 失恋ソング”はなかったので、「ついにこういうところにきたか」と思いました。人って多かれ少なかれ別れはあって。もちろん私自身の人との別れも思い出すような歌詞で、サウンドも紅天女が舞っているような、情景が浮かぶもの。今まで挑戦したことのないサウンドだったので新鮮でした。でも、ライブでやるイメージはすぐにつきました。Kamusちゃんがしなやかに、それこそ天女のように舞ってくれるんだろうなって。だから、新鮮はあったけど、すんなりエンガブに落とし込めるんじゃないかなと感じました。
Kamus:もともと中国楽器を使った曲は好きだけど、これまでのエンガブにはなかったタイプの曲なので、初めてこういう曲ができることにすごくワクワクしました。すでにライブでも何度か披露させてもらっていて、最初はピンヒールを履いてパフォーマンスしていたんですが、話し合った結果、今はピンヒールを脱いでパフォーマンスしているんです。(ピンヒールを脱いで踊っているのは)エンガブで唯一、この曲だけ。ピンヒールは履いていないけどエンガブっぽさは出しつつ、より体を大きく使って踊っています。
――そして、MVにもなっている「Sail On」。これまでのエンガブのイメージとはガラッと雰囲気の違う楽曲で、初めて聴いた時はびっくりしました。
Takassy:みんなびっくりしてます(笑)。
――この曲ができた経緯を教えてもらってもいいですか?
Takassy:“一回やりきろう”がテーマでした。私たちはメジャーデビューしてからいろんなことをやってきました。華やかな“THE オネエ”な感じの曲も、かっこいい曲も。だけど、思っている到達点に到達できていないなという気持ちが自分たちのなかにあった。だったら一回全部捨てると言いますか、いい意味で振り払って、王道のJ-POPをやってみようと思ったんです。この曲はCarlos K.さんに作曲をお願いしているんですが、Carlos K.さんはレコ大作家で、J-POPの申し子みたいな方。そのCarlos K.さんに「アニソンっぽく」「すごい青春」「おおよそエンガブが歌う感じではない」という希望をすべてお伝えして、ど直球のJ-POPを作ってもらいました。デモはCarlos K.さんが歌っているのですが、Carlos K.さんの歌声が少年っぽい声なこともあって、デモを聴いた段階でふたりの反応が追いついていなかったですね(笑)。
HIDEKiSM:はい、ポカンとしていましたね。
――Takassyさんは最初に受け取った時、どう思いましたか?
Takassy:望んだ通りのものがきたので「よし!」と。といっても、私のなかでも未知だったんですよ。曲自体はとてもいい曲だなと思ったけど、とりあえず自分の声で仮歌を入れてみないと判断できないなと。
――で、入れてみたらハマったと。
Takassy:メンバーやスタッフが「ハマった!」と言ってくれたのでよかったなと思います。
――いただいた資料では、この曲についてTakassyさんが「『オネエユニット』と自ら冠したワードにある種縛られていた私たち。でも私たちが一番『ジェンダーやジャンルなんて関係ない』と思ってたんじゃないのか。という逆転の発想から、一度振り切ってみようと作る決心をしました」と説明されていますが、歌詞に込めた想いを教えてください。
Takassy:そもそもこの曲を書く時点で「Sail On」というタイトルは決めていて、自分のなかで船出とはどういうことなのかを考えた時に、“逃げる”というテーマが浮かんできました。そこから自分や自分の周りにいる人たちの逃げられずに苦しんでいた状況を思い出して。逃げるって、簡単なことじゃないですか。辞表を出せばいいだけとか、家から飛び出せばいいだけ、恋人に「別れる」って言えばいいだけ、みたいな。それをしちゃダメって思い込んでいるから難しい。そういうことをベースに歌詞を書いていきました。
――〈君〉を「てき」と読ませるところにもハッとしました。
Takassy:結局そうやって縛りつけているものって、他人じゃなくて自分自身なんですよね。「こう見られたいから、こういうふうに動かなきゃいけない」と思っている自分だったり、人の目を気にしすぎている自分だったり。オネエユニットであることもそうですけど、そこに縛られちゃって動けなくなっているのは自分で、つまり常に自分自身と戦ってるんだなと思って、この歌詞を書きました。
――HIDEKiSMさん、Kamusさんは、初めて聴いた時はポカンとしたということでしたが、レコーディングをしたり、出来上がったものを聴いたりした今、この曲をどう捉えていますか?
HIDEKiSM:レコーディング前に、家でこの曲のリハをしたんです。はじめは「さわやかでレコーディングも楽しみだな」という気持ちだったんですけど、歌い始めた途端、ボロボロ泣けてちゃって。(飼っている)猫が「めっちゃ泣いてない?」「大丈夫?」みたいな感じで見てきました(笑)。たぶん自分にすごく刺さっちゃったんですよ。というのも、さっきのオネエユニットの話もそうですけど、仕事でも恋愛や家族でも、組織に属している時ってどこか我慢している部分があって、それがえぐられたような気分になってしまった。でも、その感情って誰しもが持っている感情だと思うんです。だから、シンプルにこの曲をたくさんの人に聴いてもらいたいと思いました。今までの曲に関しては「売れたい」とか「この曲をどう売るか」という商業的な考えが少なからずあったんですけど、この曲に関しては、「励まされる人が多いだろうからたくさんの人に聴いてほしいな」って心から思いました。
Kamus:私もHIDEKiSMと一緒かも。頭から「Sail On」までしっかり聴いたあと、普段はそんなことめったにしないのに、TakassyにLINEをしました。「Takassyの作りたいものが見えたと感じたから、このアルバムは絶対に届けたい」って。
Takassy:いつもは曲を送っても「ありがとうございます」とか「了解しました」とかなのに(笑)。
Kamus:なんか気持ちがあふれちゃって!
――曲調含めてTakassyさんにとっては挑戦的な一曲だったと思うのですが、おふたりにはしっかり刺さったんですね。
Takassy:狙い通りです(笑)。でも、私も自分の過去をえぐるような気持ちで歌詞を書いたので、メンバーに共感してもらえたのはすごく嬉しいです。
――この曲が出来上がったことは、今後のエンガブの音楽性にも影響しそうだなと思いました。
Takassy:そうですね。これが出来上がったことで、あらためて何でもできるなと思いました。今までもいろんなジャンルに挑戦してきましたけど、王道を今回作れたことで、もう「なんでもこい!」みたいなマインドになっています。