首振りDolls、アルバム『ジェットボーイジェットガール』完成 メンバー全員で語る全曲解説インタビュー

首振りDolls、最新アルバム全曲解説

荒井由実、ザ・ピーナッツ……ナオの愛する歌謡曲が制作のヒントに

首振りDolls(撮影=はぎひさこ)

――恋愛が成就しましたというような歌では、共感も得られにくいでしょうけど(笑)。「NEVERMiND」は、聴いてすぐにショーンくんの曲だなと思いました。

ショーン:たしかに。新しいファズが使いたくて、適当に弾いてたベースのリフだけあって、それを元にみんなで作っていって。メロディもいいし、ちゃんと90年代を感じるなって思うんですよね。

ナオ:(歌詞の)〈チョベリバ〉?

ショーン:それもそうだし、ちょいハネの変わったリフ始まりで引っ張っていって、サビでストレートに弾ける……なんて言っていいのかわかんないですけど、オルタナを感じるんですよね。明るいけど明るすぎない、ちょっと妖しさ、暗さを兼ね備えた、いいニュアンスで。自分はかなり好きですね。

ジョニー:俺も好きっすね。キャッチーですよね、入りから。〈ちょちょちょチョベリバ〉って。

――チョベリバという言葉は久々に聞きました(笑)。

ナオ:ショーンくんはチョベリバって言葉が好きだと思うんですよ(笑)。ライブのMCでショーンくんに振ったら、チョベリバしか言わない時があったんです。そのイメージが強くて、歌詞とメロディを任せてもらうとなった時、ここにちょっとチョケた言葉を入れたいなと思って、ここは〈チョベリバ〉だ、と。

ジョニー:もう一回流行ったら面白いよね。

ショーン:いけるんじゃない、そろそろ。5年前はダメだったけど(笑)。

――ショーンくんの積年の思いも込められている(笑)。チョベリバは部分的なことですが、歌詞全体としては、どんなイメージだったんですか?

ナオ:ショーン君が前に所属していたバンド(GROOMY)の“I Hate You”という言葉がすごく印象的だったんですね。だから、ショーンくんにはそういう世界観が似合うなとずっと思ってたんですよ。今はテレビでもSNSでも、「お前、関係ないじゃん!」という人たちが外からガタガタ言いすぎじゃないですか。そういう人たちに文句を言ってやろうと思って書きましたね(笑)。歌詞では〈撃っちまいたいな〉〈バンバン消していく〉と歌っているけど、実際そんなことはできっこないとはいえ、やっぱり音楽のなかでは自由ですからね。

――曲名はショーンくんのアイディアなんですか?

ショーン:いや、ナオくんから出たんだよね。

ナオ:俺、どこから持ってきたんだろう?

ショーン:最初は違ったよね。「EZ」って書いて、ちょっと楽にいこうぜ的な感じで。でも、「NEVERMIND」はやっぱりいい言葉だなと思ったんですよ。ただ、そのままいくのではなく、“I”を小文字にしてやろうと。意味はちょっと伏せておきます(笑)。

ナオ:意味ありげって大事よね(笑)。

――「アンビー!」は首振りDollsらしいポップさが溢れた曲だと思いますが、ヒット曲狙いのジョニーさんらしいのかもしれません(笑)。

ジョニー:いやいや、これは着想から2年ぐらいかかりました。

ナオ:そんなにかかっとったん(笑)?

ジョニー:昔からやりたかった、架空のバンドのテーマ。アンビーというバンドのひとつの物語にしようと。

ナオ:アンビーって、てっきり女の子だと思ってた。

ジョニー:人にも思えるし、別にどっちでもいいんだよ。ただ、自分のなかではそういうテーマで作ったんです。

――歌詞から音楽に関するものであろうという推測はできましたが、そういうことなんですね。

ナオ:ポップス路線のジョニーの曲は毎回そうなんですけど、ジョニーのなかに絶対的な正解のメロディがあるんですよ。でも、それをまわりが把握するのに時間がすごくかかるんですね。今回も同じように苦労しました。

――それはメロディラインが微妙なところを通っていくとか?

ナオ:そこにもジョニー独特の癖があるんですよ。ジョニーが入れた仮歌を覚えて歌ってみても、「違う」って言うんですよ。何が違うのか俺にはよくわからない。だから、微調整の繰り返しになるんですね。

ジョニー:レコーディングの時はつきっきりですからね。

ナオ:そうそう。レコーディングの時に突然変わったりもするんですよ。ジョニーはそういうところがあるよね。そのスタイルは、たぶん一生変わらない。声色とか、歌い方とか、すごくこだわりがある。

ジョニー:でも、今回こだわったのはサビだけだよ。Aメロ、Bメロとかはわりと任せた感じはある。

――ちょっと戸城さん(プロデューサーでもあるThe DUST'N' BONEZ 戸城憲夫)を感じる曲でもあるんですよね。

ジョニー:そこは昔の日本のロック的なオマージュということで(笑)。コード進行的にはよくあるやつなんですけど、昔からやりたかったものでもあるんですよ。戸城さんが好きそうではありますが、決して意識したわけではございません。

ナオ:意識しとけよ、そこは(笑)。

――最後のほうのサビ前のコーラスは、The Beatlesを思わせますよね。

ジョニー:あれは俺じゃなくて、マネージャーのアイディアだったんですよ。俺はまったくそんなのは考えてもなくて、彼が提案してくれて「ええやん!」と。

ナオ:曲を作ってる時、スタジオにはマネージャーも一緒にいるんですよ。しかも、なんならギターも持ってるからね(笑)。アレンジ能力が高いんです。

ショーン:俺は彼のギターが好きで、結構採用してますもんね(笑)。

――ライブではまだ披露されていないようですね。

ジョニー:レコーディングでは(メインのSGではなく)ほとんどテレキャスターで録っちゃったんですよ。ライブでやるとまた別の感じになりそうですね。

――「画舫(ゴンドラ)」もまたいいですね。仮タイトルは歌詞の一節にもある「グルグル」だったようで。

ナオ:そう、最初は「グルグル」だったんですけど、ギリギリで夏目漱石さんの「画舫」という当て字を拝借しました。

――日本的な情緒がありますよね。

ナオ:感じるでしょ? これ、ザ・ピーナッツの「恋のフーガ」の〈パヤパヤパヤ〉を置き換えて、コード進行も似たようなところがあって。ギターソロじゃないけど、途中のフレーズでネタバレ的な感じにしてありますね。

――あのグルグルした感じですね。

ナオ:はい。グルグル目が回る感じを強調したようなフレーズ。ザ・ピーナッツ、俺がめっちゃ好きなんですよね。すごくロックを感じるんですよ。ちょっと変えたらめちゃくちゃロックの曲になるやん!と思うような曲がいっぱいあって。ピンク・レディーもグラムロックなんですよ。あの頃の曲ってパワーがすごいですよね。

――「グルグル」という言葉は象徴的ですが、歌詞のテーマもありそうですよね。

ナオ:このまま生きてたら自分が何者になっていくのか、みたいな。何者かになりたくて一所懸命に走り回ってるのに、気づいたら同じところをグルグルグルグル回りながら。狂ったメリーゴーランドみたいなイメージから「画舫」にしたんですけど、煮え切らない自分の状況が歌になってる。早くはみ出したい、はみ出したらどうなるんだろう、っていう。

――今ナオくん自身は、はみ出していないんですか?

ナオ:いや、自分の今までを振り返ると、ずっとはみ出っぱなしなんだけど、はみ出た人たちのなかの一塊で、なんかグルグルグルグルしちゃってるなと思って。そこから飛び出さないとダメなんだなと。

――はみ出た世界は居心地がいいんだけれども、それがまたひとつのコミュニティになってしまう。

ナオ:そうそう。でも、はみ出せばはみ出したで、そこでまたグルグルするんだと思うんですけどね。だから、そんなもんだよなって感じです。

ショーン:この曲はレコーディングで、結構化けましたね。急遽使ったエフェクターもあったし、ジョニーさんのギターソロも再現できないぐらい、すごい音になって(笑)。

ジョニー:あの音は、たぶんもう出せない。エフェクターをかけつつも、さらにパソコンでいろいろなエフェクトをかましにかました結果なんですけど、自分でもどうやってあの音になったのかよくわかんないです。

――たしかに、不思議な音をしているんですよね。

ジョニー:載せまくって、てんこ盛り(笑)。でも、本当に化けたよね。最初は古めかしいロックで単調な感じだったんですけど、俺的には最初の頃の首振りDollsっぽいなと思っていて。ナオが懐かしい感じの曲を持ってきたなと。

ナオ:俺はずっとそういうのを考えて、いつもアルバムにそういう曲を入れるんですけど、この曲でちょっと戻った気がしました。昔より考え方がシンプルになったというか、小賢しいことはやめたというか。

――ストロークに始まる「雨の街」は、いわゆるバラードと呼ばれるものでしょうね。

ナオ:ポジション的にはそうですよね。歌詞の随所に出てくるから、気づく人は気づくと思うんですけど、荒井由実さんの「雨の街を」という曲では「誰か肩を抱いてくれたら、どこまでも遠くまで歩いていけそう」と歌われているんです。現実逃避したい女性の歌なんですけど、まさしく同じ描写で、「雨の街」はその人を迎えに行く無責任な男の歌として非常に無責任なことを言ってる。だから、きっと主人公は若いですね。

――そういう物語なんですね。〈ミルク色の雨〉と出てきますが、これはどういう描写なんでしょう?

ナオ:朝焼けの感じです。しっかり曇ってる雨じゃなくて、朝のちょっとオレンジがかった光のところ。〈ミルク色の雨〉っていう表現は、似たような感じで「BROWN SUGAR」でも使ってる(〈クリーム色の夕焼け空〉)けど、すごく好きなんですよね、そういう色に見える時が。だから光の感じです、光の色というか。

ジョニー:これは俺の得意なアコースティックギターが炸裂してますね。いやあ、苦労しました。あとは、らしくないぐらいきれいなギターソロを弾いてちゃって、逆に物足りないというか(笑)。

ナオ:いいメロディで曲が作れてよかったね。

ショーン:ベースラインはこだわって作りましたね。

――わかります。いかに歌を押し出し、それでいて余韻を持たせるか。

ショーン:そうなんですよ。その駆け引きをいい塩梅にできたんじゃないかなと思ってます。途中の歌うようなベースラインとかも含めて、いちばん考えましたね。

ナオ:落ちメロのところとか、めっちゃいいよね。ショーンくん、そういうとこでやっぱり奇跡の仕事をしとるよね。前のバラードの「中央線」の時もそうやった。

――派手に魅せるベースと、存在としては地味かもしれないけれど、これがあるとなしでは印象が大きく変わるベースも一方である。この曲だけではありませんが、その両極端の表現が面白いですよね。

ショーン:ありがとうございます。ベーシスト冥利に尽きます。

ナオ:スラップだけじゃないんだぞってね(笑)。

――そして「みちづれ」ですよ。名曲がきましたね。

ナオ:本当ですか(笑)。これはこれで、かなりふざけてるとは思うんですけどね。歌は昭和のアイドルを意識しました。

――ええ、まさに昭和の歌謡曲を彷彿させますよ。

ジョニー:「最近は首振りに歌謡曲がないな」っていうスタジオでの話から。

ナオ:スタジオでショーンくんに「ナオくん、最近歌謡曲っぽいもの持ってきてなくない?」って言われて、すぐに作った(笑)。

ショーン:その場でね。でも、そこでいろんな研究をしたんですよ。

ナオ:「ちょっと考えるわ」ってタバコを吸いに行って戻ってきたら、ふたりで音を鳴らしていて、もうそれで決まり。「それでやろう」みたいな(笑)。

ショーン:しかも、この時たしか飲んでいたんですよ(笑)。

ジョニー:だから、ノリでできた感じですね。コード進行がザ・昭和歌謡ならこれでしょ!っていうものをそのまま採用したというか。

ショーン:その意味ではミラクルな曲ですね。

ナオ:うん。ジョニーの冒頭のリフもいい音で録れたんだよね。

ジョニー:あれもめちゃくちゃ昭和を意識してたし、ギターソロの最後も昭和のイメージで。

ナオ:そういうところまでは俺は口を出してないんですよ、ベースもギターも。だから、ふたりがいい仕事をしてるんですよね。「ナイス!」と思いながらレコーディングの時も聴いてました。

ジョニー:あとはボンゴがいいよね。

ナオ:持ってたから、レコーディングで俺が叩いたんですけど、全然慣れてないから、もう手がパンパンになっちゃうんですよ。手が赤くなりすぎて、エンジニアの人に「もういいよ」って言われたけど、頑張って録ったな。

ショーン:エンジニアさんもこの曲をすごく気に入っていたから、いろいろなアドバイスが飛んできてね。

ナオ:昭和をよく知るエンジニアさんだったから、より昭和になっていった。これはアルバムのクスッとポイントですよね。かなりフックになってる気がする。

ナオ(Dr/Vo)

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