BiS、アルバム『NEVER MiND』が導く新たな“始まり” 徹底クロスレビューで解き明かす
BiSが、2月28日に3作目となるアルバム『NEVER MiND』をリリースする。今作には、中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES/THE SPELLBOUND)、中村弘二、フルカワユタカ(DOPING PANDA)をはじめとしたプロデューサー陣が集結。そんな強靭な制作陣によるサウンドで彩られた今作を手にしたトギー、ナノ3、ヒューガー、そして昨年春に加入したイコ・ムゲンノカナタ、クレナイ・ワールズエンド、シオンエピック、6人の新体制でスタートを切った第3期BiSの現在地はどこにあるのか。『NEVER MiND』で彼女たちは一体何を歌い、何を示すのか――。リアルサウンドでは、このアルバムのリリースを記念して、ライターの小川智宏氏、宗像明将氏(※五十音順)によるクロスレビューをお届けする。両者の視点によるディスクレビューで、今のBiSと『NEVER MiND』の真髄に触れてほしい。(編集部)
ここから始まる彼女たちの未来を指し示すアルバム(小川智宏)
昨年、新メンバー3名の加入を経て新体制でスタートを切ったBiS。7月に『イーアーティエイチスィーナーエイチキューカーエイチケームビーネーズィーウーオム』、11月に『LAZY DANCE』とふたつのシングルをリリース。駆け抜けてきた2023年の活動の集大成がこの第3期BiSにとって3作目となるニューアルバム『NEVER MiND』である、のだが、このアルバム、とんでもないことになっている。
音源をもらって喜び勇んで再生したはいいが、そこから溢れ出るエネルギーになんだか気圧された感じになって、一回ヘッドフォンを外してしまった(そういえば1曲目の「R.U.N」の歌い出しは〈ヘッドフォンを外して/見えないもの全部、燃やして〉だが、別にこういうことではないだろう)。フレッシュな顔ぶれとなった今の6人体制のBiS――なんせ、第3期がスタートした時のメンバーは今やトギーただひとりだ――に充満する情熱の炎、後述する豪華プロデューサー陣が思いっきり個性を爆発させた楽曲の熱、6人になり厚みと幅を増したボーカルワーク……そのすべてがガチンコでぶつかり合い、絡み合い、まっさらな大地に足跡を一つひとつ刻みつけていくように、ここから始まる彼女たちの未来を指し示す。異様に濃くて、異様に熱い。そんなアルバムである。
アルバムに先行してリリースされていたシングル表題曲「イーアーティエイチスィーナーエイチキューカーエイチケームビーネーズィーウーオム」では中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES/THE SPELLBOUND)、「LAZY DANCE」ではフルカワユタカ(DOPING PANDA)がプロデュースを手がけていたが、そのふたりに加えて、アルバムでは若手からベテラン、さらにはプロデューサーとして名前があること自体が驚きの伝説のロックバンドまで、豪華な面々が参加。楽曲ごとに異なる表情を見せながら、さまざまな角度から今のBiSの魅力を浮き彫りにしていく。
オープニングナンバー「R.U.N」と10曲目の「Sakura」を手がけたAge Factoryは、疾走するロックサウンドと清水エイスケらしい情景描写で迸っていく感情を描き出し、「STiLL BE CHiLD」とラストチューン「NO CHOiCE」でJxSxKとタッグを組んだAxSxEは、アルバムの屋台骨となる王道にして新鮮な楽曲を提供(特に「NO CHOiCE」で大らかなソウルサウンドのなか披露されるマイクリレーは、6人からのあらためての挨拶のようで感動的だ)。そして個人的に胸熱なのは、Koji Nakamuraの手がけた2曲。切れ味鋭いブレイクビーツでドライブするミニマルな「Olenimorph, Ole」ももちろんだが、爽快なギターサウンドがひた走る「青風」がいい。おしゃべりするようなメロディも含めて、久々にこういうナカコーに出会った感じがする。
つまり、どの曲でもプロデューサー/作曲者の“ど真ん中”が次々と打ち込まれてくるわけだが、そのなかでもとくに異彩を放っているのがfOULによる「悲しみを纏う男たちの行進」である。fOULというバンドについて説明しようとすると長くなるので割愛するが、めちゃくちゃ雑に言うとジャパニーズエモの“生ける伝説”である。長い活動休止期間を経て2022年に17年ぶりの再始動を果たした彼らだが、まさかBiSとのコラボが見られるとは。この「悲しみを纏う男たちの行進」もまたfOULにしかできない、沸々と感情が泡立つような抒情ロックになっていて、メンバーの歌もたぶん曲に引っ張られて他の曲と一線を画したものになっているのがなんとも嬉しい。
と、ここまで書いてきたのだが、実はこのアルバムのすごみはそうした全力投球の楽曲たちを、6人のメンバーがやすやすと飲みこんでいってしまっているところにある。普通これだけ振り切った曲たちが並べばどうしてもとっ散らかったものになってしまうものだが、このアルバムはそれでも、作品を通して今のBiSの前向きに燃える姿勢がしっかりと伝わってくる。歌詞がどれもポジティブさを感じさせるものになっているのも影響しているかもしれないが、そもそもそういう歌詞が集まったこと自体がBiSとして新たな始まりに立っている今だからこそ、とも言える。〈まだまだできるはず/もっともっとやらなくちゃ〉。「NO CHOiCE」で歌われるそんな言葉が、BiSというグループの現在地を的確に伝えている。